「では、君はルシアンが殺害されたということを知らないわけだな?」 黒衣の吸血鬼が真っ赤なカクテルに口付けながら言った。 「おいギムレット、いいかげんにその仏頂面をやめないか」 カルーアがあきれたように言うと、ギムレットはギロリと睨んだ。 「うるさいわね。今何時だと思ってんのよ」 「だから嫌だって言ったのよ。全責任はカルーアよ」 と、しぶしぶ二人を呼びに行ったニコラシカ。 「主人の責任は使い魔であるニコラシカ、あなたの責任でもあるでしょう」 「何ですって!?元はといえば昼間来たルシアンって子にもっと詳しく…」 「そこまでだ」 どんどん険悪になる二人の会話をキールが静かに制した。 「昔からだけど、お前たちはなんでそんなに仲が悪いんだ?」 ゲンナリしたようにカルーアが溜息をつく。 「うるさいわねっ」 ギムレットとニコラシカが同時にハモる。 「・・・おねえさんたち…双子だよね?」 少年はギムレットとニコラシカの顔を交互に見ながら言った。 確かにギムレットとニコラシカは髪型、瞳の色は違えど顔のパーツや雰囲気に至るまで瓜二つだった。 「まーね、一応」 どうでもいいと言うようにギムレットが答えた。 「ギムレット」 「何よ、キール」 「眠いのはわかるが、これは大事な話だ。殺人なんてものがこの街で流行るとお前も困るんだ」 「だって…」 「だってじゃない。今日行ってきた霊界案内役会議の話では、三次元の発展した国や街で最近、 殺人や自殺が増える一方だそうだ。ここはお祭り好きの性質から平和や調和が保たれて、 この辺りでは一番そういうものに縁がない街だが、いったんそういうものが公になると、 伝染病のように増えてくるのが三次元だ。 殺された魂が恨みを持ってこの街に留まり続けると、第三者に取り憑き、また不幸をもたらす・・・」 「そうなると、この街の霊界案内役の俺たちの評判も下がるし、給料も下がる。 そして仕事も大変になる、というわけだな」 カルーアが解りやすくまとめるとギムレットとニコラシカが顔を見合わせた。 「…争ってる場合じゃないわね、ギムレット」 「そうね、これ以上給料が低くなったら冗談じゃないものね」 二人の問題はそこらしい。 「街をそういうものから守るのも俺たちの仕事だからな」 「あのぉ…」 今まで存在を忘れられていた少年が口を開く。 「何?」 ギムレットが返事をする。 「僕、ルシアンがいるような気がしてここへ来たんだけど…あなた達は…一体…?」 「私は隣の黒薔薇喫茶の店主、キールだ。種族は吸血鬼だが、三次元界の人間は襲わないから安心していい」 今更ながらの質問にも、キールは丁寧に答える。 「あたしは黒薔薇喫茶のウェイトレス」 キール、カルーアが軽く睨んできたが、ギムレットは構わずに続けた。 「ギムレットよ」 「俺はここのマスターで、カルーア。狼男。満月でなくても変身はできる」 「あたしはニコラシカ。この店で働いてる」 「ギムレットとニコラシカは人間?」 「いいえ、使い魔っていうの」 四次元界特有の生き物である。 「へぇ…どっちがお姉さんなの?」 ロイは同じ双子だからか、ギムレットとニコラシカに興味を持ったようだ。 「双子なんだから、どっちも一緒よ」 投げやりなギムレットの声。 おそらく彼女が妹だろう。 「僕は・・・ルシアンの兄だったんだ。今は…もう一人だけど」 ロイは悲しげに目を伏せた。 back |