嫉妬 〜羅那さまからのいただきもの〜<後編>     





カトルと別れ、デュオは自宅への岐路へついていた。
家へ近づく度に、胃がキリキリいたくなる。どうせ家に帰っても無視を喰らうだけ。
話しかけても、素通りされる・・・。
そんな事を考えていたら、益々帰るのが嫌になる。
それに、カトルが言った言葉が頭から離れない。

『ヒイロがリリーナさんを愛してるって根拠が何処にあるのさ??』

そう、カトルが言う様にそんな根拠は何処にも無い・・・。
でも唯一つ言える事は、自分は男だという事。
自分は、女じゃないしヒイロと旨く行っても、彼を満足させてやる事なんて出来ない。
カトルは、自分を励まそうとあんな事言ったのかもしれない。でも今のデュオには、通用しなかった。

カトルと行ったレストランから自宅までの距離は結構あるのだが、考え込んでいたらいつの間にか自宅の前まで来ていた。
また胃が痛くなる・・・。
少し震える手で、ドアノブに手を掛け物憂げな表情で中へ入る。

「た、ただいま。」

・・・・・・・・・・。

やはり返事は無かった。ヒイロは何時もの様にパソコンへ向かいコーヒーを飲んでいる。
話しかけるべきか?そんなことを考える時点で、何時ものペースを失っている。
デュオは何も言わず自分の部屋へ向かおうとしたその時。

「カトルとの食事は楽しかったか?」

デュオは驚いた。まさかヒイロから話かけて来るなんて、予想もしていなかった。

「えっ?あ、あぁ。楽しかったよ・・・。でもオレには豪華過ぎて少し場違いだった。」

同様を隠せないデュオは、言葉に詰まりながらも平静を装いながら話した。
ヒイロはパソコンから手を離すと、デュオの方へと近づいて行き、じっと見つめた。

「何か俺に言いたい事があるんじゃないのか?」

心臓の音が高鳴る。静かな部屋に響き渡りそうな位に心拍数は上がり、息が出来なくなりそうになる。
デュオは大きな瞳を揺るがせ、ヒイロの顔を見て話す事なんて出来ない・・・。
頭の良いデュオでも、頭の中ではフル回転しているのだ。
今しかない・・・このチャンスを逃したら、一生後悔するであろう。
デュオ気持ちは固まりつつあった。

「ひ、ヒイロ・・・今日は何で口を聞いてくれなかったんだよ。オレ、何かした?お前は何にも話してくれない。オレの事まだ本気で信頼してくれてない?
何か気に障った事したなら謝る・・・。でも今の時点では自分が何をしたかなんて解らない。」

俯きながらデュオは言った。そしてヒイロは黙って聞いている。じっと見つめられるヒイロの視線が痛い・・・。
この場に居る事が辛くて、消えてなくなってしまいたくなる。

「言いたい事はそれだけか?」

「え?」

デュオは思わずヒイロを見た。そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。悔しさと、もどかしさで胸が一杯になったデュオの瞳からは一粒の涙が零れた。

「気に障った。お前が俺以外の奴と一緒に居るのが気に食わない。それが例えカトルであろうとな。これで充分か?」

ヒイロの意外な言葉に、総てが真っ白になる。

「でもヒイロにはリリーナが・・・。」

「リリーナなんて関係の無い話だ。どうしてあいつが出てくる? 俺の横に居て欲しいと思うのはお前だ。」

やっと見つけた・・・。自分だけの愛しい人。そしてヒイロの気持ちが、本当の気持ちが解った。デュオはまた涙を零した。
それは悔し涙でも、なんでもない。心から嬉しいと思った感涙。
ヒイロの暖かい腕がデュオを包み込む。

「オレなんかで良いの?男だし、子供だって産めない。だからヒイロを幸せにしてやれないし、満足さえ与えられない。それでも、それでもオレで良いの?」

デュオはヒイロの腕の中で何度も何度も繰り返し問う。するとヒイロは優しい接吻でデュオを黙らした。

「何度も同じ事を言わすな。後悔なんてしない。俺はお前を選んだ、だからずっと俺の傍に居て欲しい。」

愛しそうにデュオを抱き締めると、デュオもヒイロを抱き締めた。暖かい・・・お互いの体温を感じながら二人は寝室へと消えていった。

暫くして、静かな寝室にデュオの甘い声が響いた・・・。





その頃某レストランでは・・・。

「カトルそれで旨く行ったのか?」

「えぇ、バッチリですよ。もう僕ヒヤヒヤしたんだから。」

これは総て、カトルとトロワが仕組んだ事なんて、誰も知らない。もどかしすぎる二人を見て、居ても立っても居られなかったカトルがトロワを誘い計画を立てた。

「こんな事二人に知れたら、僕達宇宙の藻屑にされますね。」

楽しそうに語るカトルは、悪戯な笑みを浮かべながら話した。
恋のキューピットなのか、小悪魔なのか…。

「旨く行っていればいいな。」

「そうだね。明日が楽しみですよ。」

ワイン片手に笑うカトルは、やっぱり小悪魔であった。





-fin-





「LUNATIC」の羅那さまからいただいた素敵イチニ小説でございました。
こんな素敵なお話で当サイトの4周年をお祝いしていただいて、とても嬉しいです。ありがとうございました。