ギザ砂漠
見渡す限りの闇の中。わずかに湿った空気と歩くたびに靴がめり込む細かい砂の感覚にデュオが舌打ちをする。
そして月明かりで浮かびあがる白い息。
「なあ、ヒイロ」
「なんだ。」
「砂漠って暑いとこだったはずだよな? 息が白く見えるんですけど。」
「それは日中の話だ。第一砂漠というものは」
「あー、うんちくならパスね。」
どうせ砂漠の気候の講義だろうとデュオがヒイロの言葉を遮る。
「だったら文句を言うな。」
「・・・・ごめん。」
素直な返事に今度はヒイロがため息をつく。
一歩踏み出すごとにまとわりつく砂の重みと足下にまとわりつく冷気にデュオは首をすくめた。
実際の肉体的苦労はほとんどなかったが、それでもようやくの思いで、砂山をのぼり詰める頃には月が急速に傾いているのがわかった。
「まだちょっと早いかな?」
「もうすぐだ。」
砂丘の麓に置き去りにした四輪駆動を斜めに見下ろすと砂山の角度が結構急だったことがわかる。
今はほとんど風が吹いていないため砂が巻きあがることはなかったが時期が違えばハムシーンという砂嵐が猛威をふるう。
ピラミッドがおかれたこの地域ではさけては通れない自然現象だ。
手元の時計を見れば日の出にはまだ余裕がある。
デュオが好んで使うレトロなアナログ式の文字盤時計を見る分には少々明かりが足りないようだった。
「まだ、少し暗いな。」
「・・・・かわたれ時。」
ヒイロが聞き慣れない言葉をポツリともらす。
「カワタレドキ?」
「黄昏時の反対だ。明け方の暗い時間。古語だ。」
彼誰時。
明け方のまだ暗い中、よく見えないことからあなたは誰と問いかける意味からつけられたという諸説がある。
ふと、明るい光が視界を流れ一瞬にして消える。
「シャトルだな・・・・」
「おおかた月からの貨物用シャトルだろう。」
たわいもない言葉のやりとりと砂の流れさえも聞こえない砂漠の時間。
やがて空が急速に白くなる。
目の前に広がる大地と空との境界線。
日の出。
地平線の向こうからのぞいた日の光はあっというまに大地を金色に反射させる。
砂漠の砂はその光を反射し白金へとその色を変える。
日の出のほんの一瞬にだけ見えるその色はギザの砂漠だけの色かもしれなかった。
「見せたかったのはこれか?」
ヒイロが隣で低く呟く。
「ああ。」
市街地からは離れているために物音一つしないその場所でしばらく二人は立ちつくす。
「なんか不思議じゃない?数千年前にここには文明があった。川が流れて緑があって。でも、その緑はなくなり砂の大地が広がった。
人間が緑をむやみになくしたからそうなったって言われているけどさ。」
一度言葉を切り、デュオは更に続ける。
「でも、たとえこんなふうに砂だらけでも地球ってきれいなんだよなって。そう思ったらヒイロにも見せたくなった。」
カトルと見た砂漠とは違うけど、どうしてもヒイロと見たかったんだ。
そう言ってふと笑う。
日の光を反射してやく宇宙の色につられヒイロも笑う。
「確かにきれいだ。」
「だろう?」
太陽が地平線から完全に姿を見せるまでわずかの時間。
任務の合間のつかの間の寄り道。
お互い特に何をしゃべるわけでもなく。
時々思い出したかのように意味のないやりとりをする。
多分、こんな無意味な時間が一番の幸せ。
数時間後には離れるこの地をもう一度目に入れ、二人は歩きだした。
気温の上昇とともに吹き始めた風が風紋を静かに描きだす。
数え切れないほどの繰り返される砂漠の営みをそのままに。
そして大地には灼熱の太陽が照りつける。
私にとってWの先生もしくは教授とも言える久藤れん様から何とイチニSSを頂戴してしまいました(>w<)!!
ヒイロとデュオのやりとりが実に彼ららしくってイチニファンには堪らない逸品でございます!
ヒイロに対してデュオがちょっとした事に共感を求めて幸せを感じるっていうシチュエーション、個人的大好きなので、とても和み萌えさせていただきましたvv
素敵な作品をありがとうございました。
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