<無題・その2>


久しぶりに見た海は とても深い色をしていた。
それは見覚えのある『蒼』。

ふと脳裏に浮かんだこの蒼の瞳の持ち主は
未だ色褪せることなく瞳の奥に焼きついたまま。

有事の際には必ず顔を合わせ 肩を並べて走り、
時には背中を預け また預けられ…
言葉を交わさずとも 己の呼吸の如く動く相棒。
そして全てが終われば何の約束もなく別れ…

幾度となく繰り返されたそれもなくなった現在(いま)は、
「平和」と言うモノなのだろう。
共に駆け抜けたあの頃は 今では遥か時間(とき)の彼方。
それでもあの美しい闘神の姿は 今も鮮明に刻まれている。

強い想いを秘めたあの『蒼』が 今のこの海と重なる。
懐古の情と、それとは別の感情が不意に湧き上がり、
苦しくなって眼をきつく瞑る。




「   」
あの声が 自分の名を呼んだ。
ハッとして声の主を探したが 誰の姿を見つける事もなく…
ただ蒼い海だけが漣と共に無限に広がっていた。



「   」
一瞬聴こえたあの声の主の名を呟いて、
『蒼』に背を向け歩き出す。

見上げた空の 突き貫ける様な蒼が目に沁みた。



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