<無題・その3>


見渡す限りの赤い大地
人間を拒むかのような岩石と砂の大地を緑に変え
空を蒼穹に変える「マーズテラフォーミング」

贖罪などではなく ただ一人の人間として
自分を知る者の居ないこの土地で
生命を育める大地を作る一端を担う為に降り立った
このプロジェクトでは長期の滞在となる
旅立つ前に見た あの『蒼』を見る事が出来るのは数年後。
そう考えると 微かに胸が痛むのは何故なのか…



暫くして 配属予定部署に着く
そこで思わず目を瞠った 
自分を知る者など居ない筈だった
だが 今 眼前にある『蒼』の双眸の持ち主は…

目が合った瞬間 互いに瞬きも忘れ硬直する
そして 先に我に返ったのは相手の方だった 
彼は少し目元を緩め、名を呼んだ

「   」
記憶にあるよりも少し低くなった声
あの頃よりも背が伸び 顔も精悍な男のモノとなってはいたが
我が名を呼ぶ声の響きは変わらぬまま

「   」
相手の名を呼び返す
軍神の名を持つこの星で 懐かしい蒼の瞳の闘神に出逢った



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翠月りん様から頂いたイチニSSでございました。
ありがとうございました。