<早春賦>





Side:H


子供達の歓声に ふと外に目を向けた
季節外れの雪が舞っている

満開の寒緋桜に 薄く積もる雪
柔らかな色の花と 儚い白のコントラスト
相反するようで どこか同じ「香」を持つモノ

ふいに 「雪は好きだ」と言った彼の声が甦る
懐かしみながらも どこか哀しげな瞳と共に…


思考の深淵から我に返ると 暖かな日差しが戻ってきていた
儚き白は 露と変わり やがて空へと還って行く
戯れのようにやってきて 宇宙へ還る彼のように


突然の風に 緋桜が舞う
まるで 消えゆく雪を追うかのように

花びらの舞う空は 眩しいほどの「蒼」だった





Side:D


久しぶりに降り立った地球は 季節の狭間で揺れていた
温かな色の花々に 行く季節を惜しむかのような雪
その光景に 時を忘れて見入っていた

白い雪は 「彼」を思い起こさせる
白き翼の愛機と共に 宇宙を駆けるその姿は
決して穢れる事のない 真白き闘神

温かな色の花々は 平和の女神を彷彿とさせる

この地球に相応しい二つの存在
その眩しさに 空へと視線を逸らす


見上げた空からは 幾筋かの光の帯が 地上へと降り注いでいた
まるで 宗教画のようなその光景に
幼い頃の 優しい時間を思い出す

「家族」と「愛情」を教えてくれた愛しい人達
彼らの説いた平和は 今 此処にある
どうか安らかに…と瞼を閉じて祈りを捧げる


目を開けると いつの間にか蒼い空が広がっていた
その蒼の中 風に乗り 雪のように舞う淡い花びら

ふと 逢いたい想いがこみ上げる
久しぶりに 逢いに行ってみようか





翠月りん様から頂いたイチニSS第二弾です。
ありがとうございました。