「新選組血風録」と「燃えよ剣」

 司馬遼太郎さんの傑作時代小説。私にとって新選組のイメージを決定づけた物語です。
 「男は自分が考えている美しさに殉ずべきだ」という、男の生き方を教えてくれました。


 新選組血風録    角川文庫 ¥780  初版発行 昭和44年8月30日

    昭和37年5月〜38年12月「小説中央公論」(中央公論社)に連載。

 「油小路の決闘」 「芹沢鴨の暗殺」
 「長州の間者」   「池田屋異聞」
 「鴨川銭取橋」   「虎徹」
 「前髪の惣三郎」 「胡沙笛を吹く武士」
 「三条磧乱刃」   「海仙寺党異聞」
 「沖田総司の恋」 「槍は宝蔵院流」
 「弥兵衛奮迅」   「四斤山砲」
 「菊一文字」
          以上15話で構成される短編集です。

「燃えよ剣」と同年に発表された作品ですが、こちらが半年早い。

新選組隊士列伝といった感じの短編集で、各話一人の隊士に焦点をあてた新選組の世界です。
  巻頭の2編は伊藤甲子太郎と芹沢鴨の二大暗殺事件。
 「池田屋異聞」は監察の山崎烝を描き、「虎徹」は近藤勇の愛刀虎徹は贋物だったという裏話。
 「槍は宝蔵院流」は谷三十郎の没落話。
 「沖田総司の恋」と「菊一文字」は沖田総司のイメージを決定づけた作品といえるのではないでしょうか。

 「新選組血風録」(角川文庫)は私にとって、高校生の時に初めて読んだ司馬遼太郎さんの本です。
  学校帰りに寄った書店で、子母澤寛さんの「新選組始末記」といっしょに並んでいるのを見て、こちらの方を買ったのが私の運命の分かれ道だったのです(笑)。

 左が司馬遼太郎全集「新選組血風録」
 右横の3冊は角川文庫と中公文庫「新選組血風録」。

テレビ映画「新選組血風録」
             昭和40年7月〜41年1月にかけて全26話が放送されました。

 監督: 河野寿一、佐々木康、高見育男
 脚本:結束信二
 音楽:渡辺岳夫 主題歌:春日八郎
 出演: 栗塚旭(土方歳三)、島田順司(沖田総司)、舟橋元(近藤勇)、
     左右田一平(斎藤一)、徳大寺伸(原田左之助)、坂口祐三郎(山崎烝)
     北村英三(井上源三郎)、有川正治(永倉新八)
     国一太郎(藤堂平助)、林彰太郎(大石鍬次郎) 他
                                  モノクロ・各話50分
 〔制作〕 NET(現テレビ朝日)、東映京都テレビプロダクション

                       (NET・東映)
 燃えよ剣 (上下2巻)  新潮文庫 ¥667/629  初版発行 昭和47年5月30日/6月15日 

 昭和37年11月〜39年3月「週刊文春」(文藝春秋社)に連載。

司馬遼太郎さんが、局長近藤勇の陰の存在だった副長土方歳三を「男の典型」として取りあげ、主人公にした小説です。
 田舎剣法として軽く見られていた天然理心流の江戸道場試衛館の近藤、土方たちが幕府徴募の浪士隊に参加して上洛。新選組結成から池田屋事件、鳥羽伏見の戦いをへて、土方歳三が函館(箱館)で戦死するまでを描いています。
 架空の人物で、歳三をつけ狙う七里研之助や歳三の恋人お雪さん。そして沖田総司ら新選組隊士たちが生き生きと魅力的に登場します。
 とくに土方歳三、沖田総司の無類の格好良さは、読んで血が騒がない人はいないでしょう。
 序・中盤の面白さに興奮し、終盤に近づくにつれて、その哀切さに胸が締め付けられ、涙する。
 隊士たちの人物像だけでなく、新選組という組織のイメージ形成に大きな影響を与えた作品だと思います。

私は、歳三とお雪さんの場面が好きで、何度読んでも「良いなー」と感じ入ってしまう。
 司馬さんの作品で、これほど男女の愛情、心の交流をロマンチックに描くのはめずらしいのではないでしょうか。

 歳三が七里剣之助に襲われて、傷を負い、お雪さんの家にかくまわれる「お雪」(文庫上巻452P)は、キリッとして美しいお雪さんの登場です。
 鳥羽伏見の敗戦後、江戸へ帰る前にお雪さんと過ごす短い日々の「西昭庵」(文庫下巻192P)。そして函館にお雪さんが歳三を訪ねて来る「再会」(文庫下巻419P)は、切なくて涙が出ます。最高です!

 「燃えよ剣」単行本(文藝春秋社)のあとがきで司馬さんは、「男の典型を一つずつ書いてゆきたい。そういう動機で私は小説書きになったような気がする」とおっしゃっています。 まさに節義に殉ずる、生き方の美しい日本男性が登場します。そして所作が美しい日本女性も。

「五稜郭」の章で、「全滅は五月十一日で、このときから官軍艦隊は全艦、函館港に入った。五稜郭本営では、この海軍全滅の日、もっとも緊張した空気のなかで軍議がひらかれた」とありますが、次の章「砲煙」の冒頭で歳三が亡霊を見る夜が五月九日(歳三の戦死は5月11日)なので、十一日だと日付が前後してしまって、矛盾が生じています。

 刊行されたもので最も古いと思われる、ポケット文春版・完結篇(1970年第8刷)では日付は「五月七日」になっています。最初は「五月七日」だったのが、これ以降の全集版や単行本、新書版、新潮文庫版はすべて「五月十一日」に改められたようです。
 現在、私が所持している新潮文庫版(平成14年5月20日74版)では、元どおりの「五月七日」に戻されています。

 左から、司馬遼太郎全集「燃えよ剣」(文藝春秋社)
 文藝春秋社の単行本「燃えよ剣」
 新書判「燃えよ剣」(文藝春秋社)
 新潮文庫「燃えよ剣」 です。





 テレビ映画「燃えよ剣」のオープニング。
                        (NET・東映)
テレビ映画「燃えよ剣」
             昭和45年に全26話が放送されました。

 監督: 河野寿一、松尾正武
 脚本:結束信二
 音楽:渡辺岳夫
 出演: 栗塚旭(土方歳三)、島田順司(沖田総司)、舟橋元(近藤勇)、
     左右田一平(裏通り先生)、磯部玉枝(お雪)、中野誠也(山崎烝)、
     黒部進(永倉新八)、西田良(原田左之助)
     北村英三(井上源三郎)、外山高士(伊藤甲子太郎) 他。
                                     カラー・各話47〜50分
 〔制作〕 NET(現テレビ朝日)、東映京都テレビプロダクション

 「新選組血風録」とほぼ同じスタッフ・キャストです。
 ずっともう一度見たいと思っていたところ、「時代劇専門チャンネル」で平成18年12月4日から連続放送されて、長年の念願がかないました。 
 栗塚、舟橋、島田さんは同じ役ですが、「新選組血風録」で斎藤一を演じた左右田一平さんは裏通り先生という町医者の役。
 裏通り先生と伝蔵(小田部通麿さん)のコンビが時代背景の解説役でもあり、脇役として存在感があります。
 磯部玉枝さんのお雪さんは、武家の妻女として、りりしく清楚な美しさ。原作のイメージどおりでとても魅力的。
 土方歳三とお雪さんが初めて出会う第10話「堀川の夜雨」は、ほのぼのとした恋が描かれていて素敵な話です。

■ 劇場映画「燃えよ剣」(1966年松竹)

 監督: 市村泰一 脚本: 加藤泰、森崎東  白黒90分

 この作品は栗塚旭さんが土方歳三を演じていますが、近藤勇の和崎俊也さん以下、テレビ版とは完全に異なっています。
 内容は七里研之助(内田良平)との対決と、佐絵(小林哲子)への思いが中心で、池田屋襲撃がクライマックスとなっている。
 司馬さんの原作を90分の映画にするのは困難らしく、物足りない作品です。
 和崎俊也さんの近藤勇は、やくざの親分みたいな感じがする(笑)。
 テレビ版では島田順司さんが絶品だった沖田総司の役を石倉英彦さんが演じていて、出番は少ないけれど雰囲気を出していて良かったです。司馬さんが創作した沖田の爽やかなキャラクターをうまく演じていました。

■ テレビの新選組ものでは他に、フジ系の「新選組」(昭和48年)があります。
 土方を栗塚旭さん、近藤勇を鶴田浩二、沖田総司を有川博、永倉新八を伊吹吾郎、山崎烝を山城新吾さんが演じた、豪華な配役で、全19話。
 鶴田浩二さんと栗塚さんのコンビは合わないような感じだったけれど、脚本が結束信二さんなので、しっかりした本格的な新選組ドラマになっていました。とくに、激闘で刀を折ってしまった原田左之助(河原崎長一郎さん)を中心にした第10話「大坂天満橋の襲撃」は、全話中でいちばん良くできた話だと思います。

■その後、TBS系「新選組始末記」(昭和50年頃?)では平幹次郎さんの近藤勇、古谷一行さんの土方、草刈政雄さんの沖田総司。
 でもこれは見た覚えがありません。

 昭和62年の「新選組(新撰組?、表記は不明)」は近藤を松方弘樹さん、土方が竹脇無我さんで、沖田総司が東山紀之さん。
 確か二部作か三部作だったと思いますが、内容の薄いドラマで、沖田総司のキャラクターも表面をとりつくろっただけの、見るに耐えないものでした。

 平成10年の「新選組血風録」(テレビ朝日系)は、近藤勇を渡哲也さん、土方を村上弘明さんが演じましたが、これも新選組じゃないですね。
 平成16年のNHK大河ドラマ「新選組!」は、さすがNHKです。演技の上手な若手俳優をそろえたキャスティングで、見応えのある時代劇になっていました。新選組は若者たちの集団だったことを改めて認識しました。