手術件数

治療成績
   癌治療統計(1988年4月-2007年3月)
     全前立腺癌症例における病期別癌特異的生存率
     前立腺癌全摘症例における病期別癌特異的生存率
     前立腺癌全摘症例におけるリンパ節転移有無(N0=なし N1=あり)別癌特異的生存率
     全膀胱癌症例における病期別癌特異的生存率
     膀胱癌全摘症例における病期別癌特異的生存率
     全腎盂尿管癌症例における病期別癌特異的生存率
   
  全腎癌症例における病期別癌特異的生存率
     全精巣腫瘍症例における組織型別(セミノーマvs非セミノーマ)癌特異的生存率
   TVM治療成績(2006年10月-2009年10月)

手術件数

手術総数(A+B) 一般手術(A)  ESWL(B) 
2002年 552 133 419
2003年 572 173 399
2004年 567 197 370
2005年 537 248 289
2006年 451 250 201
2007年 437 261 176
2008年 424 275 149
2009年 466 405 61
2010年 426 382 44
2011年 387 338 49
2012年 368 350 18

TUR-p TUR-Bt T U L P N L  T V M 腹腔鏡手術 (腹腔鏡下腎
 ・腎尿管摘除)
(腹腔鏡下
前立腺全摘)
2002年 21 53 5 0 0 1 1 0
2003年 26 66 5 0 0 1 1 0
2004年 23 82 14 1 0 1 2 0
2005年 35 58 24 6 0 17 14 0
2006年 20 66 17 4 7 13 12 0
2007年 12 61 14 0 36 18 18 0
2008年 14 53 23 3 29 23 18 0
2009年 37 50 77 7 30 47 25 14
2010年 43 61 78 1 22 57 28 21
2011年 34 62 70 5 21 56 21 18
2012年 34 76 69 4 21 50 24 19

腎・腎尿管摘除 前立腺全摘 膀胱全摘 (代用膀胱) (回腸導管) (尿管皮膚瘻)
2002年 10 5 4 0 2 2
2003年 18 11 2 0 1 1
2004年 12 14 9 4 4 1
2005年 20 14 10 7 1 1
2006年 19 10 9 6 1 2
2007年 22 8 9 4 2 3
2008年 25 15 7 2 1 3
2009年 25 18 11 6 2 3
2010年 33 26 6 3 3 0
2011年 26 22 12 4 8 0
2012年 27 22 4 2 2 0



治療成績

癌治療統計

19884月から20073月までに、当科で尿路性器癌と診断され治療を受けた患者の癌特異的生存率(治療対象となった癌のために命を落とす事なく生存している率)をグラフに示します。
19年間と長期間の解析データであり、この間治療方法は常に新しい方法へと変わっています。おもに臨床病期(癌進行の程度:数字が大きい程進行していることを示す)で分けて生存率を算定してあります。

↑全ての前立腺癌患者の臨床病期別の癌特異的生存率。
病期
IV (転移のある進行癌)以外の生存率は、長期に渡って良好です。

前立腺癌全摘手術患者の局所進行度別の癌特異的生存率。
T4 (膀胱や直腸など周囲臓器に浸潤がある進行癌)以外の生存率は、長期に渡って良好です。平成21年度より、前立腺癌の全摘手術は体に優しい腹腔鏡で行なっています。

前立腺癌全摘手術時にリンパ節転移があった患者(N1)となかった患者(N0)別の癌特異的生存率。
一般的にリンパ節転移があると予後不良ですが、当科の成績では、転移があっても適切な術後療法を加えることで、その予後は比較的良好です。

↑全ての膀胱癌患者の臨床病期別の癌特異的生存率。
病期
III (膀胱外への浸潤のある進行癌) や病期IV (転移のある進行癌)の生存率は、5年で50%以下と不良ですが、これは膀胱の進行癌の治療が難しいことを示しています。

↑膀胱癌全摘手術患者の術後病期別の癌特異的生存率。
病気
II15年生存率68.8%は、他施設に比べてかなり良い成績です。積極的に膀胱全摘+尿路変更を行なうことで長期予後を目指しています。最近では、切除した膀胱の代わりに、自分の小腸を使って新しい膀胱を造っており、生命予後とともに生活の質を重視した治療を行なっています。

↑全ての腎盂尿管癌患者の臨床病期別の癌特異的生存率。
膀胱癌同様、病期
II以下の成績は良好ですが、病期III (腎盂尿管外への浸潤のある進行癌) や病期IV (転移のある進行癌) の生存率は不良です。腎盂尿管癌のほとんどで、手術 (腎尿管全摘除術) を行なっていますが、平成17年からは、ほぼ全例で体に優しい腹腔鏡手術を行なっています。

全ての腎癌患者の臨床病期別の癌特異的生存率。
やはり病期
IIIIVと進行するに従って予後不良となっています。しかし、近年使用可能となった新しい薬剤 (分子標的薬)を用いることで、進行癌でも徐々に長期予後が期待できるようになってきています。また病期Iでは、腹腔鏡で全摘または部分切除を行なっています。

↑全ての精巣腫瘍患者の臨床病期別の癌特異的生存率。
精巣腫瘍は、大別してセミノーマ
(精上皮腫)と非セミノーマ (非精上皮腫)腫瘍に分かれます。精巣腫瘍は、適切な治療を行なうことで完治する癌の一つです。当科のこれまでの治療成績は良好であり、癌特異的生存率100%した。


TVM治療成績

200610月末から200910月末までに、当科で施行した100例のTVM手術の治療成績や合併症などについて示します。

同時手術症例を除いた57例の成績

TVM-A TVM-AP TVM-P
症例数 25 29 3
手術時間(分) 69.5(40-149) 140(98-220) 111(90-132)
出血量(g) 114(5-460) 134(5-310) 70(30-150)
2006年10月末から2009年10月末の36ヶ月間で100例施行
内訳)TVM-A:34例 TVM-AP:63例 TVM-P:3例
同時手術)腹圧性尿失禁手術(TOT):28例
       完全直腸脱手術:8例 不完全直腸脱手術:3例
       開腹卵巣腫瘍切除:1例 尿道脱手術:1例
       膣式子宮切除:1例 開腹総胆管切開:1例

TVM-Aは前膣壁 (膀胱瘤に対して) に対する手術、TVM-Pは膣壁 (直腸瘤に対して)に対する手術、TVM-APは前後膣壁 (骨盤底全体に対して) に対する手術を示します
当科の特徴として、尿失禁や直腸脱に対する同時手術実施例が多いことが挙げられます。骨盤底疾患をきちんと診断して、
1回の手術ですべて治すことを目指しています。

形態評価成績

術前後POP-Qステージの変化(術後3ヶ月目までフォローした97例)

術後 0-1 2 3 4
術前
0-1 0 0 0 0
2 25 0 0 0
3 53 5 0 0
4 12 2 0 0

形態学的再発:7例(7.2%)
症状を有する臨床的再発:2例(2.1%)
再手術症例:0例(0%)

術後ステージ2以上の骨盤臓器脱があれば再発と定義されることが多いようです。術後3ヶ月以上経過観察できた患者のうち7 (7.2%) が形態的再発と判断されました。しかし、実際症状が出現し困っている患者 (臨床的再発) 2 (2.1%) のみであり、現時点で再手術を実施したことはありません。


骨盤臓器脱は、生命に関わる病気ではなく、QOL疾患 (生活の質が向上することが治療目標) です。従って、治療成績はQOL (生活の質) がどの程度良くなったかを示す必要があります。疾患治療において、評価すべきQOLには二つあります。一つは一般健康度、もう一つは疾患特異的健康度です。一般健康度については、SF-36という指標を用いましたが、数字が大きいほどより快適であることを示します。8つの項目すべてにおいて、術後有意に一般健康度が改善したことが分かります。


↑疾患特異的健康度については、
P-QOLという指標を用いましたが、SF-36と反対で数字が小さいほどより快適であることを示します。8つの項目すべてにおいて、術後有意に一般健康度が改善したことが分かります。

P-QOL 排尿症状 術前 術後 (Wilcoxon t test)
p値
排尿のために頻回にトイレに行く 3.8 2.7 0.0056
とても強い尿意をもよおす 3.2 2.1 0.0027
強い尿意をもよおし、
トイレに間に合わずに尿が漏れる
3.0 2.1 0.0038
尿の勢いが弱い 3.8 2.0 0.0020
尿を出し切るのに力む 2.6 1.8 0.0076
排尿後の尿漏れ 2.5 2.0 0.060

P-QOLのうち、排尿症状に関する項目を示します。
すべての質問で術後改善しましたが、排尿後の尿漏れだけは有意ではありませんでした。術後一定の頻度で、尿失禁
(腹圧性尿失禁/切迫性尿失禁) が生じるためと考えられます。

P-QOL 臓器脱症状 術前 術後 p値(Wilcoxon t test)
膣の中や外に膨らむ感覚 4.3 2.1 0.00032
下腹部の重く引っ張られる感覚 3.5 2.0 0.00085
立位で悪化し、臥位で軽快する膣内の不快感 3.6 1.9 0.00039
性行為時に膣の膨らむ感覚 1.5 1.3 0.29
膣の違和感による腰痛の悪化 2.1 1.8 0.34
タンポンやパッドの使用 2.4 1.9 0.15
臓器脱を自分で押し上げる 2.2 1.2 0.0088
臓器脱による痛みや不快感 2.9 1.7 0.0034
臓器脱による立位困難 1.9 1.2 0.028

↑P-QOLのうち、臓器脱症状に関する項目を示します。すべての質問で術後改善しました。

P-QOL 排便症状  術前   術後  p値(Wilcoxn t test)
排便後にすっきりしない 2.6 2.1  0.064
排便困難感がある 2.6 2.1  0.033
排便時に力む 2.8 2.2  0.09
指を使い排便の補助を行う 1.9 1.8  0.6
排便回数 便秘傾向で点数高値
(1日に1回〜1週間に1回)
1.9 2.2  0.028
膣のふくらみが排便を妨げる 2.8 1.8  0.0054

↑P-QOLのうち、排便症状に関する項目を示します。
排尿や臓器脱症状に比べて改善度は低い傾向があります。特に、排便回数については有意な悪化が認められました。直腸に大きなメッシュを充てることについては異論もあります。
TVM手術は、術後新たな症状 (尿失禁/便秘など) が発生する可能性がある手術であり、今後も長期に渡る経過観察が必要と考えています。

合併症(術後3ヶ月目までフォローした97例対象) 対応
術中合併症  1例(1.0%): 出血  1例:輸血
術後合併症 13例(13.4%):術後腹圧性尿失禁(de novo SUI)  2例:尿道sling手術(TOT)
 →うち1例でcollagen注入追加
11例:骨盤底筋体操指導
14例(14.4%):術後切迫性尿失禁(de novo UUI)  1例:無治療
13例:抗コリン剤
 5例(5.2%):腹壁へのメッシュ露出  2例:露出メッシュ切除(入院)
    +膣壁再縫合
 3例:露出メッシュ切除(外来)
    ±エストロゲン錠内服
11例(11.3%):排尿困難→うち8例でTOT併用 11例:間欠導尿(1日〜8週間)
    ±内服治療

これまで生じた最も大きな合併症は、術中約1000ccの出血のため輸血をしたことです。輸血した方は、幸い入院期間や術後経過は問題なく、再発もありません。2009年から膣壁の剥離方法を変更してからは、出血は平均で数十cc程度以下に減少しています。臓器損傷 (膀胱損傷/直腸損傷) や術後膣と臓器の瘻孔形成などの、重大な合併症は認めておりません。その他の合併症は、上表のとおりです。