ANTIQUE花小筐 花がたみ
上 陽子

連載その2 越中おわらと丸山焼

立春から数えて二百十日、9月1日から3日にかけて行われた富山・八尾の風の盆に、今年も全国から25万人の観光客が訪れた。その八尾の町を舞台に、互いに心を通わせながら20年あまりの歳月を離れ離れに生きた男女の恋を描いた高橋治の「風の盆恋歌」のなかに、「普段はひっそりと息を潜めた町である。ただ、年に三日だけ、別の町になってしまったような興奮が来る。そして、町の誰もがその三日間を見つめて生きている」という一節がある。
八尾の上新町に友人と共同の和骨董を中心とした店をだし、春夏秋冬、八尾の人たちを見てきた私は、町の誰もがその三日間を見つめて生きているということを肌で感じた。観光化されたと嘆く声は多いが、それはそれである。本当におわらを愛し慈しみ楽しむ町の人たちは、一年を無事平穏に過ごし、またおわらを踊れることを喜びとしている。往来を埋め尽くしていた観光客がまばらになった夜半、地方の三味線と胡弓の調子を合わす音がし、一人、二人と集まった踊り手が一群となり夜流しが始まる。おわらの頃はちょうど十三夜くらい。ぼんぼりの淡い灯りと冴え冴えとした月光のなか、一群は静かな陶酔感を漂わせて過ぎていく・・・。
さて、骨董の話でありました。藩政時代、養蚕の集積地として栄えた八尾には、幕末から明治かけ「丸山焼」という焼きものがあった。八尾には焼きものに適した土がなかったため、土は瀬戸より取り寄せられ、お神酒徳利、飯碗、湯のみ茶碗、小皿などが多く作られていた。瀬戸独特の真っ白な素地に赤、黄、青、緑などの鮮やかな彩色が施された。洗練された絵付けではないが、温かみのあるそれらは、八尾やその周辺の人々の暮らしに根ざした焼きものであったことは間違いがない。
自然、風物、恋心などを詠ったおわらの歌詞も、この地で生きてきた人々の心の歌である。最後に片恋中の私が、ついついほろり、切なく聞いた歌でかく筆。

  
三千世界の松の木枯れても あんたと添わなきゃ 娑婆へでた甲斐がない


追記
風の盆が過ぎ、静けさを取り戻した八尾に10月はアートの風が吹きます。
  ■10月5日(金)から8日(月)
  ■「坂のまちアートinやつお2001」が開催されます。
八尾の町全体がギャラリーです。私どもの上新町の店も会期中開店。
ご来遊ください。


上 陽子(かみ ようこ)さんは、アンティークのお店「花小筐」(はなこばこ)のあるじ。古いものたちの持つおもむきの微妙をさとる確かな目を持った女性です。 連載その1へ