既刊

『伊藤茂次詩集 ないしょ』普及版


ないしょ


女房には僕といっしょになる前に男がいたのであるが
僕といっしょになってから
その男をないしょにした
僕にないしょで
ないしょの男とときどき逢っていた
ないしょの手紙なども来てないしょの所へもいっていた
僕はそのないしょにいらいらしたり
女房をなぐったりした

女房は病気で入院したら
医者は女房にないしょでガンだといった
僕はないしょで泣き
ないしょで覚悟を決めて
うろうろした

ないしょの男から電話だと
拡声器がいったので
女房も僕もびっくりした
来てもらったらいいというと
逢いたくないといい
あんたが主人だとはっきりいってことわってくれというのである
僕はもうそんなことはどうでもいいので
廊下を走った
「はじめまして女房がいろいろお世話になりましてもう
 駄目なんです逢ってやって下さい」
 と電話の声に頭を下げた
女房はあんたが主人だとはっきりいったかと聞きわたし
 が逢いたくないといったかと念を押しこれで安心した
 といやにはっきりいうのである
僕はぼんやりした気持で
女房の体をふいたりした



僕のうた



やがて僕の
倒れる日の
ことを考えて
はずかしいが
僕の幸福の日を
望んで
今日
ジーパンのズボンをはき
軽い靴に
ジャンパーで
舗道を歩き
本屋に行って来た
柔かい日射であり僕の休日である
コーヒーを引き寄せ
サラダを引き寄せ
本を手に持ち
好き
ジーパンが好き
長がかったので
短かくして
ついでに僕の身長も好き
遠い日の母の写真が好き
青い空が好き
母のこつばんが好き
母えのむづかりが好き
こんな日は他人も好き
僕の僕が好き
ぽかんと死ぬのが好き
僕のこころの中で
母の愚行よ
飛べ
たぶん儀礼が
下手だったんだろう
母は
僕も苦手なんだもん


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