2001ミステリ感想(10・11月)


11月
「きみしか聞こえない」(乙一)お勧め!3つの乙一ストーリーが読める。孤独な少女が頭の中で想像した携帯電話に誰かから電話がかかって。(calling me)
calling me、とてもせつない話でした。3つとも「癒し」がテーマのようで、感動が生まれます。
「ハリーポッターと賢者の石」(ローリング)お勧め!親をなくし叔父夫婦に育てられたハリー・ポッターに11才の誕生日に魔法学校への入学の案内が届く。ハリーは最も有名な魔法使いだったのだ。
面白い、この一言。だてにベストセラーではないですね。ユーモアたっぷりだし、ハラハラどきどきするし、そしてちゃんと「犯人」もいるし。ラストはやはり感動しました。
「ABC殺人事件」クリスティの「ABC殺人事件」に5人のミステリ作家がそれぞれ挑戦。
クリスティの「ABC」が好きですが、「ABC」は一発芸みたいものでしょう。ABC順に殺すということは、全く殺さなくてもいい人物まで殺さなければいけないなくてしかも余計な危険を犯さなければならない、ということです。だから恩田睦の「あなたと夜と音楽と」が一番変化球で、面白かったです。法月の「ABCD包囲網」も発想は面白いのですが、そんな小細工しない方が変に疑われないのではないかと思ってしまいました。
「この島でいちばん高いところ」(近藤史恵)無人島に取り残された5人の少女達。その島には男が一人いて…
5人の高校生が書き分けられてキャラがたっています。最後の決断は気分が悪くなります。
「死の殼」(ブレイク)お勧め!空の英雄に届いた脅迫状。探偵ナイジェルが護衛のために屋敷に行くが、事件は起こってしまう…
これぞ黄金期の本格ミステリ。探偵がいきなり歌い出したり、猿顔の女性に恋したりでちょっとどうかと思いましたが、足跡のない現場、毒殺トリック、複雑な人間関係、そして意外な真相など、これは傑作です。
「赤ちゃんをさがせ」(青井夏海)自宅出産を手がける2人の助産婦が立ちあった3つのお産と事件。70才の安楽探偵が事件を解決する。
出産自体が事件だと思うのだが、それに絡む事件が起こり最終的に安楽探偵が事件を解決するのは面白かったです。第2話「お父さんをさがせ」の真相がそこまでするかなとは思いますが、一番良かったです。
「夏と花火と私の死体」(乙一)お勧め!夏に木から突き落とされて私は死んだ。その死体を健くんと弥生ちゃんが隠すが…(「表題作」)
お手伝いの清音は姿を見せない奥様の存在に疑問を持って…(「優子」)
「私」は死体の一人称と構成で唸らせられました。16才で書いたというのもすごいです。「優子」もしっとりとして意外な展開でした。
「クールキャンディ」(若竹七海)お勧め!義姉が死んだ。彼女の自殺の原因になった男も死んだ。殺人の疑いをかけられた兄を救うべく、中学生の「私」は事件の真相を…
うーん、サプライズでした。さくっと読めてざくっとえぐられて。ラストの一文がきいています。これはいいです。
「ヴェロニカの鍵」(飛鳥部勝則)アトリエに内側から鍵をかけたまま死んでいた画家。絵を描けなくなった二人の画家に何があったのか…
飛鳥部さん初めて読んだんですが、面白かったです。いきなり首のない万歳した人には驚きましたが、主人公が何か隠していて謎がじょじょに解けていくのが良かったです。ただ会話文ぱかりで地の文が少なかったです。
「日曜日には鼠を殺せ」(山田正紀)ラットと呼ばれる囚人たちが恐怖城を無事に脱出できたら特赦が与えられる。8人のラットは無事に脱出できるだろうか…
ルールを決めてゲームを書かせたら抜群の山田正紀のSF。8人のキャラがそれぞれ生きていてもっと大長編で読みたかった気がします。分量が足りない!
「神のふたつの貌」(貫井徳郎)牧師を父に持つ早乙女。教会で育ちながら神の存在に疑問を持つうちに悲劇が起こる…
テーマが重すぎてなかなか読めなかったのですが。仕掛けがなかなかよくできていて驚きました。しかし大学の彼女への対し方が残酷でした。
「Vヴィレッジの殺人」(柴田よしき)吸血鬼だけが住むVヴィレッジ。墓地に現れた巨大な十字架と消えた死体。犯人は吸血鬼か人間か。
「墓地の入り口には吸血蝙蝠がいて人間は入れない。しかし吸血鬼は十字架には触れられない」という2つのルールから事件を推理するのはいかにもSFミステリという感じでなかなか魅力的でした。
「CANDY」(鯨統一郎)目覚めた時に不思議な世界にいた。キャンディを3つ集めなければ元の世界を救えない。そこで「あなた」は…
二人称で書かれているのでゲームブックっぽい感じがしました。異世界もののSFなんだろうけど、お粗末。鯨さんなので期待したんだけど…読んだ時間が無駄でした、って書きすぎ?
10月
「失踪HOLIDAY」(乙一)お勧め!ひとり暮らしを始めた大学生。しかしその古い家には子猫と、以前に殺された飼い主が住んでいた。(「しあわせは子猫のかたち」)
14才のナオは継母と喧嘩して家出し、三畳の部屋に隠れて誘拐されたことにする。(「表題作」)
「子猫」は死んだカメラマンとの心の交流が感動的です。「失踪」はお嬢様のナオの一人称が面白いし、誘拐の意外な展開がよく考えられています。どちらもちゃんとミステリしていてしかもいい話です。
「たったひとつの」(斉藤肇)浦川氏が関わった数々の事件。掲示板の書き込みから殺人を推理したり、生き残りをかけた格闘技大会があったり、洞窟の中に閉じこめられた密室の話だったり、バリエーションにとんだ短編が揃っている。
かなりの変化球連作ミステリ。赤ちゃん探偵には驚きました。ただ車椅子についてがよくわからないんだけど。
「ロシア幽霊軍艦事件」(島田荘司)箱根芦ノ湖のロシア軍艦の写真をめぐってロシア王朝の隠された歴史が御手洗潔の手によって明らかにされる。
島田流歴史推理で、ある女性についての新しい解釈を披露しますが、日本ではそれほど有名ではないような。軍艦についても意表をついた解釈を見せてくれます。すらすら読めておもしろいです。
「マリオネット園」(霧舎巧)閉鎖されたテーマパークの斜塔に閉じこめられた名探偵、そして首吊り死体に吊り下げられたバラバラ死体。「あかずの扉」研究会への暗号の正体は?
暗号がなかなか凝っていて楽しかったです。このシリーズは建物がいろいろとくせ者ですが、今回も面白かったです。でもカケル、○○好きだったの?で壮大な計画の必然性が今一つ足りないような…
「死にぞこないの青」(乙一)新しい先生のルールのもと、僕はクラスの平穏のために最下位に位置された。そんな中アオが現れるようになった…
前半のいじめのシーンがかわいそうでした。自分を最低な存在と受け入れるのも衝撃的で、小学生にとって先生は絶対なものなのかと思いました。アオの正体は少し意外でした。
「ゲッペルスの贈り物」(藤岡真)お勧め!ビデオテープだけの存在の人気アイドル「ドミノ」を探すことになった「おれ」、暗殺者の「わたし」が交錯する。そしてゲッペルスの贈り物とは何だったのか?
バリンジャーのように章ごとに記述者が変わり、それがどう結びつくかが興味深いです。二転三転して最後まで話の着地点がわかりません。ビデオだけの存在のアイドルって、倉木麻衣とかを彷彿とさせました。飄々とした感じで面白かったです。
「ささら さや」(加納朋子)お勧め!突然の事故で夫を亡くした妻は、幼い赤ん坊と共に残された。しかし頼りない妻さやが心配で成仏できない夫は他の人の身体を借りて、さやを助けようとする。
さやが頼りなくてすぐ泣いて、そんな妻を残していけない夫の気持ちが分かるような気がしました。さやと赤ん坊と彼女たちをめぐる人々のほのぼのとした人情連作ミステリに、泣けます。なお帯の後ろは読まない方がいいでしょう。加納朋子版「ゴースト」。
「青空の下の密室」(村瀬継弥)授業中に発見された屋上の死体。1月後別の先生が殺され、さらに1月後同じ学校の先生が襲われる。少年探偵団のように4人の高校生がチームを組んで殺人を解決しようとする。
面白かったのですが、もっと他にすることがあったのではと思いました。美少年美少女のペアと「僕」たちの探偵団がシリーズ化されるのが楽しみです。最初が上手だと思いました。
「異邦人」(西澤保彦)飛行機に乗って実家に戻ると23年前にタイムスリップしていた。その数日後に父親が死ぬことになっていた。それを助けることが姉を助けることにつながる…
いきなり「足跡のない殺人」も出てきて驚きましたが、「七回死んだ男」を彷彿させる話に驚かされました。詳しいことは書けませんが、西澤ミステリが好きならば、満足できると思います。(P.S.その後思いましたが、これって外国ミステリ作家のからいただき、なのかも…)
「心の砕ける音」(トマス・H・クック)お勧め!厳格な兄、ロマンティックな弟。二人は田舎町に現れた女性に心を奪われた。弟を殺したのは?そして彼女の過去の秘密とは…
漠然とした過去が徐々に明らかになってくるのはクックのミステリの独壇場です。最後の意外な結末には驚かされました。そして感動しました。

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