2001ミステリ感想(8・9月)


「ドミノ」(恩田睦)東京駅を舞台に様々な人が入り乱れて始まるスラップスティク。ドミノ倒しのように次々と事件が起きていく。
28人の人物が入れ替わり立ち替わり登場し、動き回り、暴走しまくります。ジェットコースターに乗ったようなハイスピードハイテンションなサスペンス?小説で、読み始めたら最後まで止まりません。
「長く短い呪文」(石崎幸二)自分と妹にかけられた呪いを解くために孤島に帰った少女を、石崎と二人の女子高生が追っていく。ネジと腕の切断された人形の意味は…
「キャラがかぶっている」には大爆笑。ミリアとユリの二人は確かに見分けがつきにくいですね。で、二人してとても女子高生とは思えないギャグとボケには、あきれます。伏線は張ってあるが結末には納得がいきません。犯人がそんなことするよりも他にすることあったのでは?
「RPG」(宮部みゆき)
お勧め!
ネット上で家族関係だった「父」が殺された。その三日前に殺された女子大生との間に関連性が認められた。ネット上の家族を取調室に呼んで…
「模倣犯」は途中、「クロスファイヤー」は未読なので、その二人の刑事が共演と聞いても別に何の感慨もないのですが、外国のミステリドラマのような展開に驚かされました。なかなか洒落ているのではないでしょうか。RPGの意味は最後に分かります。作者のあとがきは、その通りですが…
「共犯マジック」(北森鴻)
お勧め!
占い書「フォーチュンブック」を購入した七人の男女の物語が複雑にからみあう。学生運動中に占い通りに死んだ男、ホテルニュージャパンの火災で死んだ女、燃えたはずのスケッチに、異相の男、失われた右足に、肺ガンの彫刻家。そして、話は意外な結末を迎える。
まさに連作ミステリの見本という感じ。それぞれの短編で小出しにされた事実が最後に見事に集約されます。まさかこの2つを関連させるとは思いも寄りませんでした。いろんな昭和の事件を上手に取り込んだ傑作だと思います。
「猟犬クラブ」(ラヴゼイ)
お勧め!
ミステリ愛好家「猟犬クラブ」の会合で盗まれた世界最古の切手が「三つの棺」の本の中から発見される。続いて完全な密室の船の中から現れた死体。犯人による予告の詩。本格ミステリが現代を舞台に蘇り、過去の刑事ダイアモンドが名探偵ぶりを発揮する。
登場人物がミステリマニアという設定が楽しいです。しかし結末はミステリファンとしては楽しんではいけないのかも。密室トリックも単純ながら意外なもので、ダイアモンドのユーモア溢れる会話と名推理が面白いです。
「殺す者殺される者」(マクロイ)
お勧め!
ネットオークションで4万円台で売買されている絶版ミステリ。転倒して意識を失った大学教授が幼い頃過ごした町に戻ることにした。やがて意外な事件が続発し、ついには殺人が…
何も書かない方がいいと思います。これは面白いです。是非再販すべきミステリだと思いました。最近の目の肥えたミステリファンには先が読めるかもしれませんが…
「彼女は存在しない」(浦賀和宏)多重人格の亜矢子をめぐる殺人事件。私と貴治の関係、妹と叔父の関係、兄がたどり着いた事件の結末とは…
ぼんやりと読んでいたらたいへん驚かされました。違う可能性を考えていたのだけど、そっちでくるかという感じでした。「眠りの牢獄」は先が読めたのですが。とにかくやってくれます。
8月
「7つの殺人メルヘン」(鯨統一郎>お勧め!バーで難事件を聞くだけで推理する女子大生。9つのアリバイがメルヘンの新解釈とともに解き明かされた。
「邪馬台国」を彷彿とさせる洒落たミステリ連作です。話を聞くだけで解き明かす桜川嬢と三人の男たちの会話もとても面白くて続編があったらいいなと思いました。火事のトリックはドラマで見た覚えがあるのですが、どちらが先なのでしょうか…
「バースへの帰還」(ラヴゼイ)
お勧め!
元警視のダイアモンドが昔解決した事件の犯人が脱獄し、人質をとって再捜査をダイアモンドに命令した。ダイアモンドは限られた時間の中で再捜査を始め、真犯人を探さなければならないはめに…
バースに無理矢理連れ返されて事件に取り組むダイアモンドは、生き生きとしています。一度解決してしまった事件を根気よく掘り起こし、推理していく姿には感動さえおぼます。きっちりと張り巡らされた伏線と、それを組み立てるダイアモンド。これこそ現代の本格ミステリです。
「龍臥亭事件」(島田荘司)悪霊祓いのために岡山の山奥に行った石岡が巻き込まれた事件。鍵のかかった密室で撃ち殺された女性、誰もいない場所から打ち込まれた弾丸による殺人、バラバラの死体、そして過去に岡山の山奥で起こった凄惨な事件。最後には御手洗の助けなしに解決することになるが…
とても信じられない事件が続出して、こんなに大風呂敷を広げて大丈夫なのかと心配しましたが、最後には一応納得のいく?解決が示されました。しかし「津山三十人殺し」に170ページも費やしているのはどうなのでしょうか。面白いことは面白いのだけど。また御手洗の素っ気なさは、とても名探偵とは思えません。最後に明かされる事実には驚かされました。
「十三階段」(高野和明)けんかで人を殺して仮保釈中の青年と犯罪者の矯正に絶望した刑務官が、記憶を失った死刑囚のえん罪を晴らすために捜査を開始する。第47回江戸川乱歩賞受賞。
久々に面白い乱歩賞立ったような気がします。読みやすくてすらすらと読めました。死刑制度という重いテーマを扱いながらもこのようなエンターティンメントに仕立て上げた腕前はすごいです。ミスディレクションがきいていて、仕掛けが見えませんでした。しかしものすごい偶然があるのだけれど、どうでしょうか。でも次回作が楽しみです。
「りら荘事件」(鮎川哲也)山荘に滞在した大学生が続々と殺されていく。そして現場に残されたトランプ。連続殺人事件を解決するのは星影竜三。
結末が違う版も存在しているという名作。尼リリスという名前とか、登場人物たちの会話に時代を感じさせますが、内容は明らかな本格派、山荘物です。考え抜かれたトリックの組み合わせと伏線。未読の人は読むべし〜
「単独捜査」(ラヴゼイ)ダイアモンドが警備していたデパートにいた日本人少女。口をきけない彼女の親を捜すうちに、少女は誘拐される。少女を追ってアメリカ、日本まで行くダイアモンド。
ダイアモンドが子どもとなぜか相性があうのは前作からですが、今回は口のきけない日本人少女のために死にかけたりしながらも大追跡するその様子がよいです。少女の絵の意外な意味も面白いです。相撲とりの山形の存在も笑えました。
「長い腕」(川崎卓志)
お勧め!
ゲーム会社を退職して田舎に戻った女性が、東京のゲーム会社で起こった転落事件と田舎で起こった殺人事件の関連性に気付き、そこから恐ろしい真相を導き出す。横溝正史賞という名前にふさわしいミステリ。
TVゲームやインターネットを扱いながらも、田舎を舞台にした古き良き本格的な探偵小説です。セガの社員だったらしいが、その体験から書かれたゲーム会社の様子なども面白いです。ラストの犯人像は、とても恐ろしいというか、おぞましい…

戻る