2002ミステリ感想(3月・4月)


4月
「芙路魅」(積木鏡介)三人の幼児が腹を裂かれて惨殺された屋敷の地下室で、発見された腹を裂かれた死体。警察が包囲する中、犯人はどこに消えたのか。
ラストはとんでもなくて、メフィスト系ミステリという感じです。
「四月は霧の00密室」(霧舎巧)転校生が霧の校庭で遭遇した密室殺人。伝説に従って二人の高校生が事件の謎に挑む。
「霧舎が書かずに誰が書く」という帯とか、アニメチックな表紙とかなかなか手を出しにくいですが、読んでみるとこてこてのラブコメ。バカミスっぽいトリックも使われ、しかし動機は重いです。「シリーズが完結したら損させない」ってどういうことなんだろう…
「見えない精霊」(林泰広)
お勧め!
インドの森の中、シャーマンの口を通して写真家ウィザードが語る「飛行船の闇の中で繰り広げられた不可能な殺人」。果たして犯人は?
泡坂さんが推しているだけあってなかなかシンプルだけど解けない不可能犯罪が描かれています。挑戦状?が2回もあって、本格的なパズラーだと感動しました。
「聯愁殺」(西澤保彦)
お勧め!
医師、小学生、老人、OLを殺傷した少年は、失踪したまま。少年はどうしてその四人を選んだのか。「恋謎会」がミッシングリンクの謎に挑戦する。
やられました。ミッシングリンクテーマでこういう手もあるとは。これは前知識なしで読んだ方がいいです。
3月
「バイバイエンジェル」(笠井潔)赤いIの頭文字で書かれた脅迫状。やがて首を切り取られた死体が発見される。本質直感で事件を解決する日本人矢吹駆登場の第一作。
昔読んだのですが、すっかり忘れていて、首切りの解釈が目新しいです。しかし途中の哲学的なもしくは思想的な蘊蓄は難しくて…ヴァン・ダインを基本にしているようです。
「誰の死体か?」(セイヤーズ)浴室に現れた見知らぬ男の死体。その頃財界の人物が失踪していた。ピーター・ウィムジィ卿の第一作。
題名のように誰の死体かわからないまま話が進んでいきます。犯人の計画と思想がかなり強烈で、特にウィムジィとの直接対決のシーンは緊迫しています。執事のパンターがいい味出しています。
「レイクサイド」(東野圭吾)勉強の合宿の場所で「夫の愛人を殺した」と妻が告白し、みんなで隠蔽することになるが…
登場人物たちの謎めいた言動からどうなるかはらはらしましたが、ラストはひねられていて皮肉でした。前知識なしで読んでみると楽しめます。
「白光」(連城三紀彦)
お勧め!
年寄りと留守番していた少女が殺され庭に埋められていた。その裏には複雑な人間関係と様々な思いがあった。
めくるめくどんでん返しの連続に、めまいがするくらいです。犠牲になった少女がかわいそうになるくらいに複雑な人間関係と心の動きに驚かされます。
「三人の名探偵のための事件」(ブルース)
お勧め!
パーティの夜起こった密室殺人事件。三人の名探偵たちが三者三様に推理するが…
ウィムジー、ポワロ、ブラウン神父のパロディである三人の探偵の言動が笑えます。これも一つのアンチミステリなのかもしれませんが、洒落ていて、ミステリ好きなら絶対楽しめます。
「灰の迷宮」(島田荘司)新宿で起こったバス放火事件。バスから飛び出した男がタクシーにはねられて死亡。男を調べるうちに吉敷は過去の未解決の事件との関連に気付く。
初期の作品ですが、真相の○○の連続には驚きます。一番元の事件の動機が弱いというか、犯人の行動が不自然なような。でも付け足しのようなホステスと吉敷の心の通じ合いってちょっといいかも。
「異邦の騎士」(島田荘司)
お勧め!
公園のベンチで目ざめた男、しかし男は記憶を失っていた。過去を調べるうちに恐ろしい事実が…
これは噂に違わぬ名作です。偶然がやはり大きいし、大がかりすぎる犯人の策略はどうかと思いますが、○○の気持ちに感動しました。熱い思いが溢れた島荘の昔のミステリはいいですね。ラスト知らなくて驚いてしまいました。
「クビキリサイクル」(西尾維新)
お勧め!
絶海の孤島に集められた天才たち。そんな中、密室の中で首なし死体が発見される。はたして犯人は?
イラストがちゃちかったり、天才が「僕様ちゃん」と言ったり、天才達の言動がおかしかったり、しますが、我慢して読むと意外な真相があきらかになります。期待せずに読むと思ったよりも楽しいかも。タイトルもなるほどです。
「タイムスリップ森鴎外」(鯨統一郎)
お勧め!
タイムスリップして現代の渋谷に現れた森鴎外。女子高生たちと近代文学者達の死の謎に取り組む。そして意外な犯人が…
久々の爆笑ミステリです。森鴎外が現代の風俗を受け入れて、最後には○○○までしてしまうのには笑いました。そして意外な犯人にはまた大笑いです。「奥野とびらさんのクリック小説」が文中に出てきたのには驚きました。
「『クロック城』殺人事件」(北山猛邦)世紀末に現在・過去・未来の三つの時計を刻むクロック城で見つかった首なし死体。眠り続ける美女の側に飾られた二つの生首…
「斜め屋敷」を彷彿させる大業トリックは、いいと思うんですけど、全編を覆う世紀末の世界っていまいちでした。買いだめしておいたら将来(占星術殺人事件のように)高値になる袋とじ本、ではなさそうです。
「金塊船消ゆ」(多島斗志之)戦後40年たって届いた謎の手紙。それはフィリピンでたかれた4つの火に関するものだった。4つの火は、金塊をつんで沈没させた船の位置を知るためのものだった。
冒険もの?か謀略もの?か、金塊船を探す話ですが、面白すぎです。多島らしい意外な結末もあります。多島作品にどうして絶版が多いのか、不思議です。
「雪の死神」(オベール)目が見えず、口もきけない全身マヒのエリーズ。彼女の元にストーカーから不気味な贈り物が。惨殺事件とのつながりがあるという。
前作「森の死神」が気に入ったので続編のこれも買いました。前作では全身マヒだけど明晰な頭脳を持つエリーズの活躍にワクワクさせられましたが、これはスプラッターでグロテスクな結末になだれ込んでいき、ちょっとつらかったです。意外性はあるんだけど。
「塔の断章」(乾くるみ)塔の上から落ちた女。妊娠していた被害者を突き落としたのは、ゲーム製作のグループの中の誰なのか?
断片的なエビソードの積み重ねにより被害者と仲間たちの人間関係が浮かび上がってきます。ラストは予想がついてしまいましたが、トリッキーな感じです。
「天使の殺人[完全版]」(辻真先)劇団で推理劇をすることになり、三人の女優が役をめぐって島でオーディションを。しかしその一人が殺され、演出家も殺される。
小説版とシナリオ版が入っています。どんでん返しの連続で劇を見てみたいと思いました。天使長による「事件の解決に必要なもの」はとても先駆的です。
「世界の終わり、あるいは始まり」(歌野晶午)東京で小学生連続誘拐殺人事件が起こる。小学生の息子の部屋で見つけた物が事件と関係しているのでは、と父親は疑念を抱く。
「既存のミステリの枠を超越した衝撃の問題作」って、うーむ確かに問題作なんでしょうけど…何を書いてもネタバレしてしまうので感想を書くのは難しいです。面白くて先が知りたくて一気に読めますが、ラストに関しては…お勧めはしません。

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