2002ミステリ感想(5月・6月)


6月
「偽りの契り」(グリーンリーフ)私立探偵のタナーは代理母について調査を依頼される。人工授精が成功したかに見えた後、彼女は姿を消した。誘拐なのか?それとも…
なぜ代理母が消えたのかを追ううちに意外な事実が現れてきて最後に衝撃の結末となります。グリーンリーフのハードボイルドはプロットの面白さと意外性で読ませますが、これはかなり良い出来です。
「未熟の獣」(黒崎緑)「五百旗」「計徳」という難しい名前の少女達が誘拐された。被害者の少女の手に残された「1+1=」の謎とは…
なかなかくせ者揃いのミステリです。「壺の中の天国」をふと思い浮かべてしまいました。2回アッというと書いてありますが、確かに第2章のラストにはアッと思いました。そしてあれよあれよというどんでん返しの連続。最後まで気が抜けませんでした。
「時の鳥籠」(浦賀和宏)
お勧め!
公園で倒れた女性を病院に運んだ女子高生。女性はその女子高生を救うためにこの世界に来たのだった… 
ネタバレになるのであまり内容に触れられませんが、面白いです。最近の作品を読んでいてもなかなかトリッキーなんですけど、これもなかなかやってくれます。「夜想曲」がすごいんです。ちなみにYMOネタが「浦賀和彦殺人事件」につながるのですね。
「追いし者追われる者」(氷川透)会社で出会った女性のストーカーとなった男。彼女の故郷S市に行くが、そこで彼女を悩ましている男の他殺死体を発見して… 
半分くらいの外挿の2でかなりネタを割っているように見せて…なかなか驚かされますが、読者を驚かせようとするだけの必然性のないトリックのような…修正されたラストシーンは天才と「自賛」するほどでもないような…
「毒を喰らわば」(セイヤーズ)
お勧め!
砒素を用いて恋人を殺した殺人犯として被告席に立つハリエットに恋したウィムジィ卿は、彼女の濡れ衣を晴らそうとするが… 
ポケミスの「毒」を読んでいましたが、続けてシリーズとして読むとクリンプトン嬢などサブキャラクターたちの魅力が増してまた違った面白さがありました。トリックは一読の価値があります。犯人との対決シーンが相変わらず驚きます。
「笑殺魔」(黒田研二)
お勧め!
笑顔を見せた子どもは悲劇に見舞われると自分の笑顔を封印した保育士。彼女が誘拐事件の身代金運搬係に選ばれて…
笑顔を見せない保育士という設定が?だけれど、犯人の綿密な計画に驚かされるし、キャラも立っていて、最後は感動してしまいました。今までのくろけんの作品の中で一番良かったです。
「まほろ市の殺人冬」(有栖川有栖)事故現場で拾った三千万円に目がくらんで自分の物にしようとした男の悲劇。
うーん。さくさくと読めたけど、トリックがねえ…警察が実際にこんなことする?
「まほろ市の殺人秋」(麻耶雄嵩)有名なミステリ作家闇雲A子と憂鬱な刑事のコンビが猟奇犯「真幌キラー」を追いつめる。果たして死体のそばに残された物の意味は?
死体のそばに置かれた物の解釈は、面白いです。猟奇殺人を扱いながら明るいです。しかしラストは考えてこんでしまいます。
「まほろ市の殺人夏」(我孫子武丸)
お勧め!
ファンレターをもらったファンに会うことにした小説家は彼女に恋に落ちる。しかしメールのやりとりが途絶えてしまう。彼女の家を探し当てて会いにいくことにしたが…
まほろ市の4作でこれが一番いいと思いました。わかったつもりだったのですが、そうでないのに驚きました。・・・な結末もいいです。
「まほろ市の殺人春」(倉知淳)七階の部屋をのぞいていた男をモップで突き落としたという友達の電話。しかしその男は、それ以前に殺されていた。見識が調べるとベランダには男の指紋が…
このトリックは思わず笑ってしまいます。伏線がいっぱいなので、ある程度読めてしまいますが、それでも面白いのです。
「樹海伝説」(折原一)樹海の奥深くに住む小説家が家族を斧で惨殺して失踪。その謎を解こうとする学生がまた…
複数の視点に過去の小説が絡みあってサスペンスが増しています。ラストは曖昧なのですが、これもよしか。
「館という名の楽園で」(歌野晶午)三星館で行われた殺人ゲーム。果たして犯人役は誰なのか。
館のトリックには気が付かなくて、驚きました。ただそんなにうまくできるのかどうか…「参加者への忠告」で止めれば、犯人当てゲームになります。
「文章魔界道」(鯨統一郎)小説を読んだことがないが文章が無限に浮かぶミユキが、パソコンを片手にこの世のすべての小説を消滅させようとする文章魔王と文章魔界道で対決する。
戯曲形式であっという間に読めますが…流水かと思うような駄洒落の連続は、面白いけど、それだけです。
「樒/榁」(殊能将之)天狗が目撃され、「天狗の斧」が盗まれる。やがて密室状態の旅館から「天狗の斧」で頭を割られた死体が発見される。
二つの密室短編が並んでいますが、二つの事件の関連のさせ方が密室トリックと絡まって面白いです。前作のネタバレがあり、あの人とあの人との接近遭遇に驚かされました。
「あいにくの雨で」(麻耶雄嵩)雪でまわりを覆われた塔で起こる殺人。過去にも殺人があり、事件は未解決になっていた。殺人のあった塔の周りは雪で覆われ、一人の足跡しかなかった。その事件を高校生たちが解決しようとする。
烏兎って烏月の弟らしいです。13章から始まっていきなり謎解きがされるのには驚きます。そのトリックのすごいこと。雪の密室よりも高校の影の組織が興味深かったりして。ラストはさすが麻耶さん。
「袋綴じ事件」(石崎幸二)嵐の山荘の状態で襲われた研究者。密室状態の彼を襲ったのは、誰か。 
袋綴じの本を利用しての犯人指摘は笑ってしまいますが、二転三転する結末にキレがありません。ダメダメですね。
「ベローナ・クラブの不愉快な事件」(セイヤーズ)ベローナクラブで椅子に座ったまま死んだ会員。しかしその妹も偶然同じ日に死んでいた。遺産をめぐってどちらが先に死んだのか、ウィムジィ卿が二人の死を調べることになる。 
二人のどちらが先に死んだかによって遺産の配分が違ってくるという設定は面白いです。そして新たに出てくる謎と真実。最後犯人との対決は、あ然としてしまいます。
「痾」(麻耶雄嵩)一部記憶喪失になった烏有は寺院に放火するが、なぜか放火現場から他殺死体が発見される。やがて「次はどこに火をつけるつもりか」と脅迫状が来て… 
あ然とする結末です。「夏と冬の協奏曲」は実は意味不明でしたが、その続編的なミステリです。「夏と冬」はクイーンをモチーフにしたミステリらしいですが、これもクイーンをモチーフにしているとすれば真相に納得できます。ただあまりにも現実から乖離しているというか、それが良さなんでしょうが。
「約束」(デュレンマット)少女惨殺事件の容疑者は自殺したが、警部は他に真犯人がいると確信して罠を仕掛ける。被害者の親との約束を守るために。
「推理小説へのレクイエム」という副題のついた「約束」はゲーム的である推理小説の批判の視点に立ったミステリです。結末は現実的で約束を守るために一生をかける敏腕警部の悲惨な運命が描かれます。
5月
「嘲笑う闇夜」(アルテ)田舎町で切り裂き魔が三人の女性を殺害した。精神科医によれば切り裂き魔は自分が犯人だと自覚していないという。怪しい人物がたくさんいる中、切り裂き魔は? 
様々な視点で書かますが、自分を切り裂き魔と自覚していないので、心理描写を書き込んでもアンフェアにならないというのは、考えましたね。ラストへの盛り上がりはすごいですが、ラストは…賛否両論か?
「名探偵チビー黄金カボチャの謎」(新庄節美)事件など起こったことのない村で一個のカボチャが盗まれた。犯人は旅行客三人の中の誰か?どうしてカボチャを盗んだのか?
盗む価値のないカボチャを1個だけなぜ盗んだのかというホワイダニットですが、すっきり解決されます。さすがチビー。
「第4の扉」(アルテ)
お勧め!
ダーンリー屋敷で密室で死んだ女性の幽霊が現れるという。引っ越してきた降霊術師の夫婦の降霊術の後、小説家が襲われ、その息子が行方不明に。やがて密室で死体が発見され、行方不明の息子は2ヶ所で目撃され、さらに… 
フランスのカーと呼ばれるだけあって、怪奇趣味と密室を扱っている本格ミステリです。次々と怪事件が起こります。でもただのミステリで終わらない、驚くべき展開が待っています。これは絶対にお勧め。誰が何と言おうとお勧めします。
「名探偵チビー首なし雪だるまの謎」(新庄節美)
お勧め!
雪のつもった中「五月の風ケーキコンクール」を中止するように脅迫状がホテルに届く。やがて密室の中で壊されたケーキ。そして首を切られた雪だるま。犯人は一体… 
とてもトリッキーで、首のない雪だるまの謎も合理的に解決されます。とても子ども向けとは思えない、ミステリマインド溢れた作品です。
「暗いところで待ち合わせ」(乙一)
お勧め!
視力をなくして家の中で暮らす女性。その部屋に殺人事件の犯人として追われる男性が隠れる。息をひそめて隠れる男性の存在に女性が気づいた時…
乙一のハートウォーミングストーリーです。いいですね。ミステリ的興味もありますが、何と言っても似たもの同士である二人の心の交流が、心温まります。
「クビシメロマンチスト」(西尾維新)京都を震撼させる通り魔事件。そんな中同級生に誕生パーティへ招待されたいーちゃんは、殺人にまきこまれる。現場に残されたX/Yの謎とは。
やられました〜。いーちゃんの鈍感さに笑い続けた後は、衝撃的な結末です。友の出番がほとんどないのですが、いーちゃんの非人間ぶりが恐ろしいというか、かわいそうというか。次回作が楽しみです。
「名探偵チビー泣き虫せんたく屋の謎」(新庄節美)
お勧め!
洗濯屋の物干し場が荒らされていた。それと同時に秘密の研究所から水中自動車の設計図が盗まれた。名探偵チビーが事件を推理する。 
これもハウダニット物としてなかなか良い出来です。洗濯物や盗難に関してチビーの推理は冴えています。絶版なのがもったいないです。
「不自然な死」(セイヤーズ)ウィムジーとパーカーの会話に割り込んできた医者。以前癌だった老婦人が急死したという話。二人はその死を調べることにする。
限りなく殺人に近いのに殺人の方法が最後の最後までわからないのが、面白いです。殺人方法はきちんと伏線が張ってあり、実行云々と解説に書かれていますが、今TVを賑わしている事件(2002年5月)のことを思うと驚きます。ウィムジーの探偵助手となる老婦人の活躍が見所です。
「名探偵チビー雨上がりの美術館の謎」(新庄節美)
お勧め!
五月の風市の美術館から絵画が盗まれた。美術館は密室状態で、名署長ゴート氏の挑戦を受けてチビーが事件を推理する。
密室の謎はあっけないが、犯人を推理するための伏線がきっちりと書かれています。なるほど、そうきたか、という感じです。
「名探偵チビー虹色のプールの謎」(新庄節美)
お勧め!
五月の風市の市民プールの水が虹色に染められた。市長の要請を受けてねずみの名探偵チビーがその謎を解く。
150ページほどの児童用の本ですが、「事件を解決するのに必要なすべての手がかりを手に入れました」と読者への挑戦が入ります。プールの謎が虹色に染められたホワイダニットがもう一つの盗難事件と見事にあわさって解決に向かいます。
「浦賀和宏殺人事件」(浦賀和宏)
お勧め!
ミステリ作家浦賀和宏は「密室」テーマに悩んでいた。そんな時浦賀のファンが殺害された。彼女は浦賀に会うと言って家を出ていたのだが…
こりゃ、すごいです。本格や本格好きに対する痛烈な批判、「YMOを聴いた男達」という??な短編、冒頭にあるエピローグ(後編)と、それらが見事に絡み合っています。楽屋落ちっぽくて、しかし面白すぎです。
「密室の鍵貸します」(東川篤哉)元恋人が殺された夜、先輩のアパートにいた流平。その先輩も殺されていて現場は流平が閉じこめられた完全な密室だった。
ユーモアミステリなのですが、かなりすべっています。トリックには新味がありません。作者が登場して視点について記述がありますが、あまり効果がないようですが。
「人間動物園」(連城三紀彦)
お勧め!
大雪の中、政治家の孫娘が誘拐されたという通報が。しかしその家には盗聴器がいたるところにしかけられていて、刑事は隣の家で対応することになる。
自宅に盗聴器がしかけられているため、隣の家に刑事がつめるという展開とか、新機軸の誘拐物でサスペンスに溢れています。そしてどんでん返しの連続。さすが連城三紀彦です。
「こわれもの」(浦賀和宏)
お勧め!
売れっ子漫画家が婚約者の事故死により、人気のあるキャラを殺してしまう。殺到する抗議の手紙。その中に婚約者の死を予告した手紙があった。予告された死は、覆せないのか。
死の予告という超自然的なものを扱いながらちゃんとミステリしています。予測できるようで予測できなくて、これはかなりきました。
「アイルランドの薔薇」(石持浅海)
お勧め!
アイルランドの武装集団の副議長がイギリスの宿で殺された。和平交渉直前のため警察を呼ばずに解決することになる。
嵐の山荘物としてはなかなか目新しいですが、誰も逃げようとしないのは不思議です。落下に関してはすぐわかるのですが、きちんとした本格物で最後はさわやかな終わり方です。この探偵の続編を読んでみたいです。
「雲なす証言」(セイヤーズ)ウィムジィ卿の兄が殺人犯として逮捕された。妹も不審な態度で何かを隠している。身内の事件にウィムジィ卿は真相を探し出そうとする。
「多すぎる証人」という題名で出ていましたが、そのタイトルの方が好きですが…。それを読んだことあったのですが、すっかり内容を忘れていました。底なし沼に落ちて死にそうになったり、暴風雨の中飛行機で大陸を横断したりと、ウィムジィ卿の冒険ぶりと身内の騒動がなかなか興味深いです。真相も意外でした。

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