2002ミステリ感想(7月・8月)


8月
「魔神の遊戯」(島田荘司)ネス湖の小さな村でバラバラ死体を木の上や消防車の上に配置する事件が起こる。一体だれが何のために。名探偵御手洗が事件を解決する。
また偶然を多用したミステリかと思いましたが、そうではなかったです。ただ犯人がそこまでする必然性がわかりませんでした。仕掛けは好きですが、よくあると言えばそれまでで…。
「鴉」(麻耶雄嵩)弟あべるの死の謎を追ってかいんは社会と隔離された村に潜入する。そこでは大鏡と呼ばれる生き神が絶対的な支配力を持っていた。
現実社会とは隔離された村が舞台ということですが、ただ奇をてらったのではなく、必然的な舞台設定であったことに驚きました。ラストの崩壊感は相変わらずでした。
「クビツリハイスクール」(西尾維新)人類最強の請負人から少女を学校から救い出す依頼を受け、いーちゃんが「首吊り学園」に潜入するが…
現実離れしていますが、いーちゃんの戯れ言でそれほど違和感無く読めてしまいます。付け足しのような密室トリックもあり、意外な真相もあり、面白いです。
「殺意の時間割」(赤川次郎・鯨統一郎・近藤史恵・西澤保彦・はやみねかおる)アリバイ崩しを集めたミステリ集。
どれも今ひとつのような気がします。鯨の安楽椅子探偵期待したんですけど、いきなり前回のサブキャラ殺しているし、西澤のはかなり無理があるような。はやみねはほのぼのしていいです。伏線張りすぎでトリックはすぐわかるけど。近藤の二人の美少女もいいです。
「死者を起こせ」(ヴァルカス)引退したオペラ歌手の庭に植えられた木。彼女は隣のボロ館の四人に捜査を依頼する。その後彼女は失踪。一体なにが起こっているのか。
どんでん返しの連続でした。変人の四人が探偵役で視点が変わるのがなかなか読みにくかったです。
「五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し」(霧舎巧)コンピュータ室で発見された死体は、裸で全身ピンク色に塗られていた。
このシリーズって12冊出るんですか。それよりもあかずの扉研究会、続き書いてほしい気がします。死体を塗った必然性と犯人のトリックがちょっと納得できません。
「クリスマステロル」(佐藤友哉)船に乗り込んである島に渡った中学生はある男の監視の仕事をすることになる。しかし男は密室から消えて…
問題作中の問題作という言葉に偽りなく、とんでもない作品です。ラストの終章は絶句するしかありません。まさに自爆テロですね。
「最終章」(グリーンリーフ)ベストセラー作家に脅迫状が届き、タナーはボディガードをすることになるが、悲劇は起こってしまい…
タナーシリーズは、単独で読んでは面白くないのですが、続けて読んでくると事件と登場人物達が絡まり合って深みがあります。エピローグがなかなか予想外で、良かったです。
「花面祭」(山田正紀)昭和22年華道の家元が「しきの花」によって死んだ。輪廻転生の花をめぐって現代でも人々が死んでいく…
もともとは連作短編だったのを長編にしあげたそうですが、見事なミステリになっています。特に○○の扱いは唸らされました。解説が山田正紀の作品を上手く分けていてなかなかよいです。
7月
「五匹の赤い鰊」(セイヤーズ)嫌われ者の画家の死体が発見された。状況は転落事故のようだったが、ウィムジィは、殺人事件であると断定する。そして六人の疑わしい容疑者たちが浮かび上がるのだが…
正直言って読むのが苦痛でした。6人の疑わしすぎる行動をとる画家達、そしてラストの警官たちの推理合戦。「毒入りチョコレート事件」みたいなめりはりがなくて、面白くなかったです。ただ「本格」ミステリを書いて挑戦してやろうというセイヤーズの稚気は微笑ましいのですが。
「トキオ」(東野圭吾)
お勧め!
難病で死にかけている息子トキオ。そんな時父親は母親に話し出す。「20年前にトキオに会ったんだ」と。
「秘密」のようにSF系のミステリですが、いいです。感動します。笑えて、涙が出ます。読み出したら一気に最後まで読み通してしまいました。
「煙で描いた肖像画」(バリンジャー)
お勧め!
偶然見た写真からその女性を捜そうとする男。そしてその女性の波乱に富んだ生活。そして二人は出会うのだが…
女を捜す男の章と、その女の章がかわりばんこに書かれ、サスペンスが増していきます。二人が出会った時にどうなるかが楽しみでアッという間に読めてしまいました。これは傑作です。
「憎悪の果実」(グリーンリーフ)私立探偵タナーを立ち直らせた病院で知り合った女性。彼女と再会するために電話をすると、彼女は殺されていた。
前の事件をひきずりながら事件に取り組むタナーですが、その推理は試行錯誤でした。しかし真相は悲しい結末でした。タナーシリーズは続けて読まないとだめです。結構前の話のネタバレがあります。
「過去の傷口」(グリーンリーフ)私立探偵タナーの友人である警官スリートが法廷で裁判中の男を射殺した。タナーは衝撃を受け何とかしようとするが、スリートは沈黙を守るのだった。
シリーズキャラクターが殺人を犯すというのがショッキングです。その動機を探すうち、「記憶の再生」を絡めながら意外な過去が浮かび上がってきます。ラストはさらにショッキングでした。もっとリアルタイムに読んでおけばよかったと思いました。
「欲望の爪痕」(グリーンリーフ)私立探偵タナーは以前姿を消した秘書ペギーから結婚相手の娘を探す仕事を依頼される。タナーは彼女のことをまだ愛していたのだが…
タナーのペギーへの思いが全面に出ていて哀愁をそそります?失踪した娘の視点とタナーの一人称が絡み合って、広がりのある話になっています。最新機器の話はある意味恐ろしいことです。
「笑わない数学者」(森博嗣)庭に立つ大きなオリオン像が消える時、人が死ぬ。犀川と西之園萌絵の目の前でオリオン像が消え、その夜二人が殺された。二人は謎を解けるのか。
森ミステリはなかなか読めなかったのですが、やっと読み終わりました。でももうSMは簡潔しているし、Vは書かれているし…オリオン像の消失トリックは笑いました。こういうの大好きです。しかし読みにくいなあ…
「仮面劇場の殺人」(カー)客船の中で起こった拳銃発砲事件。犯人は不明のまま、舞台を仮面劇場に移して大女優が石弓の矢で殺された。犯人はいかにして彼女を殺したのか。
客船の事件が最後まで不明なのが気になるが、それも含めて事件は明快に解決されます。トリックは某作品を彷彿させましたが、なるほどと思いました。ただ読みにくかったです。
「名探偵チピー一角ナマズの謎」(新庄節美)
お勧め!
一角ナマズ館で起こった4つの奇妙な事件。レリーフがボロボロにされ、椅子が枝にぶらさげられ、日時計の指針が砂場に突き立てられ、そしてドアノッカーが塩の山に埋められた。誰が何のために?名探偵チビーはそこからある共通することを見つけ出して…
これはすごい。いわゆる「見立て」なんですが、必然性もあるし、探偵達のミスがまた伏線となって使われていて面白いです。

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