2002ミステリ感想(9月・10月)


10月
「カナリアは眠れない」(近藤史恵)買い物依存症の女性が再び陥るカード地獄。整体師は彼女を救えるのか。
登場人物たちがとてもいきいきしています。ラストはさわやかな読後です。真相も意外でした。整体師の整体術を受けてみたいと思いました。
「デッドロブスター」(霞流一)劇団に送られてきた恵比寿像。その送り主は死んでいた。真っ裸でプールで溺死していたのだ。やがて足跡のない状況で殺人が起こり、そして密室でも人が死ぬ…
バカミスですが、このトリック、パクリじゃないの?とつっこみたくなります。でも相変わらず次々と不可解な状況が増えていくのがすごいです。ロボットまで出てきて…。ただ笑えるけど、ギャグ的には荻原浩の方が笑えます。
「地球平面委員会」(浦賀和宏)入学した大学の屋上から降ってきた紙には「新委員募集」「地球平面委員会」の文字が。ビラをまく女性と目があった僕は、地球平面委員会に興味を持つが…
…の孫というのがどう物語に絡んでくるのか興味津々でした。二人の女性ともなかなか魅力的で優柔不断な主人公にいらいらしたりして。しかし真相はとんでもなかった…
「踊り子の死」(マゴーン)舞踏会の夜、誰とでも寝ると思われる副校長の妻が暴行され、殺された。誰もが怪しいと思われる中、次の死が…
レッドへリングがうじゃうじゃしていて、最後の最後まで誰が犯人かわかりませんでした。伏線は張られていて、後で見直してにんまりしてしまいました。フーダニットが好きな人にお勧め。
「内宇宙への旅」(倉阪鬼一郎)美人編集者から読者の意識の変容を迫る小説を書くように言われた倉阪鬼一郎は、執筆するうちに自分の小学時代の記憶がないことに気がつき、故郷に行くことにする。
読み終えて一日たってから作中作のトリックに気づきました。ただ前代未聞ではないと思いますが。すごいけど、だから、って感じです。あまりクラミーとは相性がよくないようです。
「写本室の迷宮」(後藤均)異国で入手した日本人画家の手記。そこには「イギリス靴の謎」というミステリをめぐる推理ゲームについて書かれていた。
鮎川哲也賞受賞作。なかなか凝った構成で、ミステリマインドにあふれています。第二の手記の最初が一番驚きました。しかしこの結末って…
「ハードボイルドエッグ」(荻原浩)
お勧め!
マーロウにあこがれてなった私立探偵だが、依頼は動物探しばかり。ダイナマイトボディの秘書(?)を雇い、殺人事件に飛び込んでいく。
爆笑。とにかく笑わせ上手である。気持ちはハードボイルドだが、実際はソフトボイルドな主人公が笑わせる。笑わせておいて最後ほろり。荻原浩は、いいです。
「宛先不明」(鮎川哲也)秋田で旅行中に殺された男。見つかった謎の手紙の切れ端。鬼貫と丹那がアリバイ崩しに挑む。
鮎川さん追悼の意味で読破。アリバイトリックはシンプルだが、盲点をついています。ただ解明されてしまうと、ばれやすいような気がしました。
「双頭の悪魔」(有栖川有栖)
お勧め!
外部の人間が入ることを閉ざしている芸術家の村にいるマリアを連れ戻すために江神と有栖川たちは向かう。橋が流されて孤立した村の鍾乳洞で人が殺される。橋の反対側の村でも廃校で殺人が。
読者への挑戦が3回も入るのがすごいです。江神と有栖川を川の両側に離してそれぞれの事件を解決させる構成が凝っています。そして純粋に論理的に事件を解決 するところがまさにクイーンばりで、良かったです。
9月
「フラッシュフォワード」(ソウヤー)
お勧め!
研究所で大実験が行われた時、世界中の人々の意識は21年後の未来に飛んでしまう。未来は決定しているのか、それとも変えることができるのか。
原因を調べるための手段とその結果がすごいです。「未来に自分を殺した犯人を探す」というミステリ的興味もあり、どんどん読めました。面白すぎます。
「神学校の死」(ジェイムズ)神学校の生徒が浜辺で死ぬ。父親の依頼で再捜査することになったダルグリッシュは、新たなる殺人事件に遭遇する。
2段組でびっしりと書かれていてなかなか読むのがたいへんでした。登場人物たちが深く掘り下げられていて重厚な本格ミステリです。犯人との対決は緊迫感にあふれています。
「篠婆骨の街の殺人」(山田正紀)誰もいない急行列車の中で他殺死体が発見される。そして窯からは人の骨が発見される。山田正紀のトラベルミステリ。
バロックシリーズという名前がついているらしいのですが、なぜか不明。5部作から3部作に変更になったらしいです。「オズの魔法使い」をモチーフにした主人公たちも不思議です。
「木乃伊男」(蘇部健一)鏡張り迷路の密室での殺人。出没する木乃伊男の正体は一体?里中満智子の絵で見せるミステリ。
「動かぬ証拠」をさらに極めたようですが、絵による伏線はなるほどと思いました。ただラストシーンの意味がちょっとよくわかりません。
「僧正の積木歌」(山田正紀)
お勧め!
「僧正殺人事件」はまだ終わっていなかった。そして起こった「僧正殺人事件2」。事件に取り組むのは金田一耕助!
山田正紀は、すごいです。「僧正殺人事件」の別の真相を書くだけでなく、新たな事件を起こし、金田一耕助に探偵させ、さらに有名人をからませるというのは、山風か、山正か、という感じです。金田一耕助が着物姿でニューヨークを疾走するシーンが感動的でした。ラストのロングインタビューも必読です。
「エナメルを塗った魂の比重」(佐藤友哉)人肉しか食べられない少女、コスプレにはまる少女、謎の転校生、いじめられる少女、ドッペルゲンガーに出会った少女…そして起こった密室殺人。どういう結末がつくのか…
壊れた世界の壊れた話です。密室の解決は意外だし、どんどん明かされていく真相も驚かされます。ドッペルゲンガーの真相もすごすぎ?
「ミステリーの館へ、ようこそ」(はやみねかおる)
お勧め!
老マジシャンの作った「ミステリーの館」に招待された夢水たち。脅迫状が届き、さっそく人が消失する。
なんと、二重の袋綴じ。これはすごいです。二つ目の袋を開かなくても事件は解決しているし、開いたらまたさらなる真相が明らかになります。とても楽しいミステリです。
「ふたり探偵」(黒田研二)被害者の首にJの文字のネックレスを残す連続殺人犯人が暗躍する中取材旅行中のカシオペア内で殺人が…。
恋人の刑事の意識が入り込んで二人で探偵するというのが、意外で面白かったです。殺人の動機も意外でしたし、伏線も張りまくりで、なかなかパズラーしていました。シリーズ化するのでしょうか?
「ターミナルエクスペリメント」(ソウヤー)魂の正体を知るために自分の脳をスキャンして死後、不死、そして普通の3つのコピーを作った。そのうちのどれかが殺人を犯す。果たして犯人は?
コンピュータ上に作った3つの自分のコピーのどれが犯人か探すという設定が斬新です。とても読みやすいです。先が知りたくて一気に読んでしまいました。犯人の追いつめ方が面白かったです。
「ふたりのシンデレラ」(鯨統一郎)「わたしは事件の証人、犯人、探偵、ワトソン、記録者、容疑者、共犯者」という1人8役の結末とは…
意外な真相で、なかなか考えられています。ただ途中はさまれるシナリオはひどいできだし、濡れ場もトリックの一つなんだけど、多すぎて嫌になります。

戻る