2002ミステリ感想(11月・12月)


12月
「家蠅とカナリア」(マクロイ)
お勧め!
かごから逃がされたカナリア、線が引かれた台本、盗まれたメス。そして劇の公演初日に劇の最中衆人環視の中、殺人が行われる。
カナリアと家蠅が真相を示しています。伏線も張られ、いかにも黄金期の本格ミステリとして読みごたえがあります。犯人を追いつめるために劇が再演されるというのもすごいです。
「さみしさ周波数」(乙一) 「お前達どちらかが死ななければ結婚するよ」と未来を予報された二人。二人の間はぎくしゃくするが、やがて…。「未来予報」他、3編入った短編集。
乙一は面白印です。「未来予報」は得意のせつない話、「手を握る泥棒の物語」は設定が独創的、「フィルムの中の少女」は見るたびに振り向く少女というのが怖いです。「失はれた物語」は救いがないです。
「サイコロジカル上」(西尾維新)友の仲間を救い出すためいーちゃんは研究所に向かった。様々な濃いキャラたちがいる研究所。しかし助けは必要とされていなかった。
最後の最後まで本当に事件が起きないけれど、面白くて読んでしまいます。どのキャラもたっているんですけど、特にぼけてつっこむ志人のキャラ、いいですね。下巻が楽しみです。
「ファンタズム」(西澤保彦)自宅の玄関前で殺された主婦。彼女の口の中に残された紙に書かれた名前は「ジュリ」。やがて連続殺人事件に発展する。
真相がわかった後読み返してみるとなるほどと思いました。作者のやりたかったことがよくわかりました。試みは面白いけれど、それがミステリ的快感にはつながっていないような。
「殺しも鯖もMで始まる」(浅暮三文)掘ったあとのない地中で発見された餓死死体。地中にはサバというダイイングメッセージが残されていた。やがて第二の密室殺人が…
英語の慣用句?を日本語で連発する名探偵に笑えます。刑事と老人の会話も爆笑します。ふざけているようで意外にまともな本格ミステリで、良かったです。密室トリックも大がかりでした。
「闇匣」(黒田研二)闇の中で身体を椅子に縛り付けられて身動きできない俺。俺に与えられた2時間の内に過去の事件の犯人を見つけだせと言われて…
伏線が張られていて過去の事件の真相はわかりますが、さらに意外な事態が待っています。密室かというとちょっと違うけど、でも密室本の中では面白いと思います。
「猫丸先輩の推測」(倉知淳)毎夜届けられる電報の謎、桜の木の下で場所取りを命じられた男にふりかかる事件等々、飄々とした年齢不詳、小柄な猫丸先輩の活躍を描く短編集。
亜愛一郎シリーズに近い味わいがあります。意外な出来事に猫丸先輩が納得いく仮説を示します。癒し系のミステリですね。ベストは「桜の森の七分咲きの下」かな。
「秘密室ボン」(清涼院流水)密室で目が覚めたメフィスト翔!密室の神様のクイズに答えて90分以内に脱出できるのか(笑)
「これまでのぼくの作品ではベストでしょう」う〜ん、絶句。密室ボンは密室本にかけてあるんですね。ストップウオッチを用意して読みましたが…。90分を返してくれ〜。どうせなら返品保証付き本を出してほしいです。謎々も稚拙で、よくまあ、こんなもの出したなあ。
「ハリーポッターとアズカバンの囚人」(ローリング)
お勧め!
アズカバンの囚人が脱走して、ハリーを狙っているという。3年目のホグワーツは緊迫感に包まれたものになる。新しい防衛術の先生とともにハリーは著しい成長をとげる。そしてスネイプとハリーの父親の関係も明らかになる。
読み始めたら止まらず、夜中まで読み続けてしまいました。やはりミステリです。伏線もあり、レッドへリングに意外な真相。1巻から読んでいる人はさらに驚く仕掛けがありますし。そして真相(?)が解明された後の処理の仕方が驚きました。しかしダンブルドア校長は全てを見通しているんでしょうね。
「ファントムの夜明け」(浦賀和宏)
お勧め!
昔の恋人が失踪した。よみがえる死んだ妹の思い出。そして明らかになっていく自分の秘密…
面白いです。ラストもショッキングだし。某映画を思い出しましたが、よりトリッキーです。タイトルがリビングデッドをもじっているようなので、もしかしたら続編が出るかも。期待しています。
11月
「GOTH」(乙一)
お勧め!
猟奇殺人とそれについて書かれた手帳、手首が切断される事件、連続飼犬誘拐事件、彼女の記憶の底にあるもの、人を土に生き埋めにする男、そして姉の死ぬ直前のテープ。異常な事件の意外な真相の数々。
ダークな雰囲気です。ミステリを書いたということですが、サプライズエンディングには驚かされます。「記憶」が一番意表をつかれ、大好きです。
「増加博士と目減卿」(二階堂黎人)フェル博士こと、増加博士がカーばりの3つの密室殺人の謎にいどむ。メタフィクションのパロディ。
登場人物たちが作家にからむのがメタなのでしょうが、今ひとつ笑えないけど、最初の密室の犯行方法、2作目の「爬虫類館」的密室、最後の作品の昔の密室トリック、など楽しめました。
「死体をどうぞ」(セイヤーズ)
お勧め!
ハリエットが波打ち際の岩の上で発見した死体。喉を剃刀で切られた死体は、満潮にさらわれてしまう。自殺説が濃厚な中、ウィムジー卿が登場して…
「五匹」は読みづらかったのですが、これはお勧めです。笑える捜査メモや、凝りまくった暗号、そしてウィムジィ卿とハリエットの素人探偵ぶり。何転もする構成が面白いです。
「レイトンコートの謎」(バークリー)書斎で手に銃を持ち頭を撃って自殺した状況の死体。現場は密室で、遺書もあった。警察は自殺と考えたか、素人探偵シェリンガムは殺人と推理する。
バークリーの第一作。ユーモアあふれ、特にプリンスは爆笑でした。シェリンガムはもっと名探偵だと思っていましたが、饒舌で試行錯誤していく探偵で、親しみが持てます。単純な事件を何転もさせるのがさすがバークリーです。
「びいどろの筆」(泡坂妻夫)江戸を舞台に「絵馬の人物が弓を引いて殺したように見える」事件、「講釈のとおり人が殺される」事件、など7つの事件が快刀乱麻で解決される。
帯に「夢裡庵先生の推理は冴えて…」と書いてありますが、夢裡庵が探偵という話ではなくて、一話一話探偵が変わっていくというのが面白いです。「芸者の首」が連城の「桔梗の宿」を思い出させて、切なくて良かったです。
「ダイニングメッセージ」(愛川晶)見合いの席でシチューにビー玉が、絶対嗅覚の女とは、人食いからのメールなどに、美少女代理探偵根津愛が抜群の推理力を見せる連作短編集。
趣向が面白いです。愛ってもしかして…。絶対嗅覚の話はなるほどと思いました。ただ人食いのやつは、設定的に不自然かも。ラストは意外でした。
「奇偶」(山口雅也)五回連続で十二のゾロ目にかけて勝つ小人。その場に居合わせた推理作家は、片目が見えなくなる。やがて自分の身の回りに起こったことを書き始めるが…
ミステリで偶然はダメだということですが、それとバランスをとるために書かれたような、偶然の連発するミステリ?です。P.513では悶絶しました。が、読後の感想となると…
「奇跡島の不思議」(二階堂黎人)過去に悲劇の起きた奇跡島。そこの白亜の館にある美術品を調べる依頼を受けて島に渡った大学生グループは、連続殺人事件に巻き込まれる…
殺人現場の状況に関しては気づいたのですが、どんでん返しはどうでしょうか。探偵の推理は論理的ではないような気がします。視点もアンフェアっぽいかも。
「青葉の頃は終わった」(近藤史恵)
お勧め!
大学時代の五人の仲間。その一人が死んだ。彼女からの手紙には「私のことを、殺さないで」。その死が波紋を呼んで…
4つの短編からなる連作長編です。死んでもなお皆の心を掴んで離さない瞳子。死んでいるけれど、彼女が主人公のようです。彼女の死の真相はあまりにも切なくて胸が痛みます。
「サマーアポカリブス」(笠井潔)
お勧め!
南フランスで遭遇した殺人事件。それはヨハネの黙示録に見立てられた連続殺人事件だった。しかしカケルの興味は異端のカタリ派の書簡にあった。
難しい蘊蓄とか哲学的なことがあって読みづらいですが、基本的にはヴァン・ダインの探偵小説です。見立て殺人の必然性には納得しました。あとカケルの事件に対するスタンスが探偵小説の枠を越えていて驚きます。
「詩的私的ジャック」(森博嗣)大学で2人の女子大生が密室で殺された。死体にはナイフでサインが。"Jack the poetical private"という歌との関連が指摘されて…
物理的密室トリックでこれだったら何でもあり、という感じだったけど、真相には納得しました。萌絵と犀川の関係って進展するのでしょうか。しかし相変わらず読みづらいです。

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