2003ミステリ感想(3月・4月)
4月
「みなとみらいで捕まえて」(鯨統一郎)半任刑事と南登野洋子刑事が出会う不可解な事件。117歳の中国人明淡亭が血を吐きながら推理する。
横浜案内的なコミカルなミステリです。論語に引っかけて事件を解決していくのが面白いですが、それ以上におとぼけの南登野刑事とか白さんとかが笑わせてくれます。ミステリ的にはそんなものですか。
「クレイジークレイマー」(黒田研二)大型スーパーのマネージャーはクレイマーと万引き犯に悩まされていた。嫌がらせはエスカレートし、我慢は限界を超えて…
嫌がらせからだんだんと殺意がふくれあがってとサスペンスにあふれていますが、そこはクロケン、ただのサスペンスに終わりません。サイコなミステリです。
「葉桜の季節に君を想うということ」(歌野晶午)
お勧め!
「何でもやってやろう屋」の探偵の俺は駅で自殺をしようとした女性を助けた。その後保険金詐欺事件を調査していくうちに…
一筋縄ではいかないのが歌野正午です。こんなラストが待ち受けていたとは、意外すぎてしばらく呆然としました。ミステリ好きなら一読の価値はあるかも。
「白夜行」(東野圭吾)
お勧め!
廃屋で殺された質屋の息子、その容疑者の娘。彼は悪の道を歩み、彼女は美しく育って…
壮大な犯罪小説です。犯人の悲しい生涯も、刑事の執念も、とにかく読ませます。「ミステリを超えた」と帯に書かれて「枠を広げた」にしてほしいと作者から言われたというのは有名な話です。
「氷菓」(米澤穂信)
お勧め!
なりゆきで古典部に入部することになった高校生が、いつの間にか密室になった部屋、毎週借りられる同じ本、文集はない言い張る少年など、と日常の謎を解決していく。
日常の謎を省エネの性格なのに「ぼく」が意外な推理力を見せて解決するのが面白く、全編を通しての謎もあり、良かったです。「気になります」というお嬢さんなどキャラもたっていて、続きが楽しみです。
「眠れるスフィンクス」(カー)昔親しかった娘の姉が急死した。しかし彼女によれば、夫に虐待されて自殺したということだった。しかし彼女は精神病らしく、すべては妄想だったのだろうか?
棺が動き回るトリックが面白いけれど、跡が残りそうです。殺人者の仮面をかぶるゲームは、「ジャンピング・ジェニー」を思い出させます。伏線貼りまくりで収束させるのはカーの本領発揮です。
「最上階の殺人」(バークリー)
お勧め!
アパートの最上階の住む女性が殺された。室内は荒らされ、窓からはロープが垂れ下がっていた。素人探偵シェリンガムは警察の結論に疑問を持つ。
被害者の姪を秘書にするのが不思議でしたが、彼女との掛け合いは笑えました。そしてシェリンガムの抜群の推理、これは必読のミステリです。
「密室ロジック」(氷川透)合コンで会社で待っているうちに殺人が起こる。現場は密室状態だった…
とことんロジックにこだわって密室殺人の真相を探るのが面白いです。ただ論理にキレがないような気がしますが。
「ミステリアス学園」(鯨統一郎)ミステリアス学園のミステリ研究会のメンバー内で起こる殺人事件。ミステリの講義を含みながら密室、アリバイ、ダイイングメッセージと様々な事件が。
本格ミステリMAPがあったり、ヴィジュアルスタッフの写真が使われていたりと相変わらず稚気にあふれています。ミステリ初心者にミステリ入門書として勧められるかも。ただ思いっきりメタフィクションだけど。
「上高地の切り裂きジャック」(島田荘司)女優が殺された。彼女の腹部は切り裂かれ、内蔵は取り出されて石が詰められていた。(「上高地」)密封された核シェルター中に現れた餓死死体。山の手線に現れる幽霊の謎。(「山の手の幽霊」)
中編が2編収録されていますが、どちらも島荘らしい怪奇的な発端と論理的な解決があって楽しめます。特に「山手」の方がトリッキーで良かったです。
3月
「ダブルダウン勘繰郎」(西尾維新)JDCで探偵になることを希望する勘繰郎の目にとまった「殺眼」と書かれたバン。それが「連続探偵殺人事件」とリンクしてくる。
清涼院流水のJDCの世界を借りて西尾維新が書いた小説。相変わらず会話が楽しいし、ちょっとした試みもあって、よい。駄洒落はなかったけど、本物よりいいと思った。
「蜜の森の凍える女神」(関田涙)女子高生ヴィッキーたちの吹雪の山荘に大学生が来て泊まることに。探偵ゲームが行われるが、やがて本当の殺人が起きる。
ヴィッキーによる「あまり新しくない仕掛け」はだから?という感じであまりインパクトがなかった。某長編を思い出した。あまり後味は良くない。
「三月は深き紅の淵を」(恩田陸)
お勧め!
「作者を明かさない、コピーをとらない、友達に貸すなら一晩だけ一人だけ」という制約のある幻の本「三月は深き紅の淵を」をめぐって起こる4つの物語。
読書好きなら堪らない設定です。本をめぐって推理する第一章、作者を推理する第二章、美少女の死を推理する第三章ときて、最後の拡散していく結末の第四章と、一気に読んでしまうおもしろさです。所々に顔を出す本のタイトルが良いです。
「桃源郷の惨劇」(鳥飼否宇) 新種の鳥を撮影するためにヒマラヤ奥地に行ったテレビクルーのカメラマンが殺された。犯人はイェティなのか?
伏線が張られていて、いくつかの推理が立てられてはひっくり返されるのが楽しかったです。ラストの作中作は面白いけれど、どういう意味があるのか謎でした。
「ナインテイラーズ」(セイヤーズ)故人の遺志で亡くなった妻の墓に埋葬しようと墓地を掘ると見知らぬ男の死体が発見された。教区長はウィムジイ卿に助けを求める。
昔読んだのですが、真相を忘れていて、驚きました。最後の最後でトリックが解明されるのがすごいです。
「プリズム」(貫井徳郎)
お勧め!
ミツコ先生が殺された。睡眠薬入りのチョコレートを食べた後、置き時計で頭を殴られたのだった。犯人をめぐっていくつもの仮説と推理が…
まさにプリズムのように見る方向が変わると事件の真相も変わってきます。仮説と推理が立てられては崩され、その結末に驚かされました。

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