2003ミステリ感想(9月・10月)
10月
「七度狐」(大倉崇)
お勧め!
落語家古秋が後継者を決めるために村で開いた一門の会。陸の孤島となった村で見立て殺人が起こる…
落語とミステリが融合した本格ミステリです。伏線が張り巡らされているし、落語の見立てというのもいいです。最後の幕切れも余韻があって良かったです。
「街の灯」(北村薫)上流家庭にやってきた女性運転手ベッキー。自分で穴を掘り自分で埋葬した男の事件等を解決する。
上流社会のお嬢様達を描いていて面白かったのですが、ミステリ部分が少し唐突な気がしました。ベッキーさんがかっこいいです。
「被告A」(折原一)死体の傍らにジョーカーが置かれる連続殺人事件。その被告A。そして誘拐事件。2つの事件が絡み合う時…
叙述トリックと分かっていながらも読み手の裏をかくのが上手な折原一ですが、これはやはりアンフェアですね。手記の形だったら良かったのかも。
「あすなろの詩」(鯨統一郎)伝説の文芸誌を復刊しようとする大学生6人。大学生たちの恋と夢。やがて合宿で事件は起こった…
元文芸部としては天使の章が楽しく読めましたが、殺戮の章は唖然としました。ミステリアス学園的なのかと思ったらそうでもなく残念でした。解決の仕方は今いちかも。
「安楽椅子探偵アーチー」(松尾由美)少年がみつけたしゃべる安楽椅子。彼は少年が持ち込んだ謎を次々と解決していく。
安楽椅子がホームズばりの名推理を披露します。4つの話がありますが、1作目の宇宙人の話が一番面白かったです。
「ネジ式ザゼツキー」(島田荘司)
お勧め!
一部記憶をなくした男の書いた童話と会話から御手洗が過去の事件を掘り起こす。頭と首にネジをつけられた死体の謎とは。
横書きには驚きました。御手洗が書かれた小説と会話から過去の事件を推理していくのが面白かったです。ネジを取り付けた理由がなるほどと思いました。ただ相変わらず島荘で、偶然が多いかも。
「猪苗代マジック」(二階堂黎人)スキーリゾートで発生した殺人事件。過去の処刑魔が現在に蘇ったのか。
水乃サトルがずうずうしくて変でした。トリックはチャチで、そんなトリックを弄せずともと思ってしまいました。ラストがクイーンしていましたが、誰?って感じでした。
「月に吠えろ!」(鯨統一郎)マンドリンをかき鳴らしながら萩原朔太郎が登場すると、犯罪を解決する。
山風のように実在の人物を自在に使いながら密室や人間消失などの犯罪を萩原朔太郎に解決させるというのはさすが鯨さんです。とんでもないトリックもありましたが、全体として笑えました。最後にはあの人まで登場させて…
9月
「怪盗ニック登場」(ホック)動物園の虎や真鍮の文字など価値のない(と思われている)ものだけを盗む怪盗ニック。12の冒険が収録されている。
価値がないけれど実は、というところがミステリ的で面白いです。なにもない部屋から何を盗むのかという「からっぽの部屋」が一番好きです。レオボルド警部の短編集も出して欲しいです。
「薔薇の女」(笠井潔)殺害後死体の一部を持ち帰る殺人鬼アンドロギュヌス。被害者を結ぶミッシングリンクは一体何なのか。
長い間かけてやっと読み終えました。犯人のかなり複雑な作為がありました。結局矢吹シリーズは、対イリイチとの対決ということになるのでしょうか。
「Hyper Hybrid Organization 01-02」(高畑京一郎)恋人を殺された改造人間に復讐を果たすために秘密結社に入った山口。しかしそこに待ち受けていたのは過酷な訓練だった。
01からかなり待たされた続編。今回は訓練場に送られて過酷な訓練をこなしていく山口を描いています。あっという間に読めて面白いです。ここで出逢った仲間達との今後やさらに改造人間になって(たぶんなる)ガーディアンと対決するのが楽しみです。
「月の扉」(石持浅海)
お勧め!
ハイジャック事件が起きた。その飛行機のトイレの中で起こった殺人事件。一体誰が、なぜ殺したのか…
「捕虜収容所の死」を彷彿させる限界状況下での殺人事件です。ハイジャック事件がどうなるかというサスペンスと、不可能状況での殺人がうまくかみあっています。人質の一人が探偵役になるのも面白いですし、次々と推理を立てては崩していくのが、バークリー的で良いです。
「愚者のエンドロール」(米澤穂信)
お勧め!
文化祭に出品されるミステリ映画。脚本家は病気で、結末は未完だった。その結末を推理することを頼まれる。それは密室殺人だった。
バークリーのように次々と推理が立てられては崩されていく構成が良いです。名探偵の驕りと失敗の物語ですが、これはお薦めです。使われる真相が楽しいです。

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