2004ミステリ感想(7月・8月)
8月
「誰か」(宮部みゆき)自転車でひき逃げにあって死んだ父親の犯人を探すために娘は本を書くという。義父からその手伝いを言われた私は…
表面上は単純な事件から奥深い事件や複雑な人間関係が浮かび上がってくるのはさすがです。逆タマの主人公がその立場を諦観しているのが情けないというか…
「方舟は冬の国へ」(西澤保彦)見ず知らずの男女と少女が監視された家で家族として暮らすという莫大な報酬の仕事。謎と不思議がいっぱいの連作長編。
二人で話される日常の謎が非日常的な状況で解かれていくのが面白かったです。ラストが映画のようで良かったです。
「追憶のかけら」(貫井徳郎)
お勧め!
妻を失った大学講師。たまたま手にした自殺した作家の未発表の手記。そこには意外な事実が書かれていた。
二転三転する意外な話で、最後感動が待っています。決め手の伏線が唐突な気がしましたが、良しとしましょう。
「カタコンベ」(神山裕右)過去の贖罪のために洞窟に閉じこめられた研究者たちを救いに行くことに。妨害者は誰なのか。江戸川乱歩賞。
読みやすくてあっという間に読み終えました。ミステリ的興味よりもサバイバル的興味が強く、冒険小説という感じでした。
「キマイラの新しい城」(殊能将之)ヨーロッパの古い城を移築したテーマパーク。その社長が、殺された古城の領主の霊に取り憑かれた。750年前の殺人事件の謎は解決できるのか。
巻末の参考文献を読んでちょっと考えてしまいました。昔読んだけど、どういうところが?社長の大立ち回りと大トリックは爆笑でした。
「スペース」(加納朋子)
お勧め!
駒子が瀬尾さんに渡した手紙。その手紙には新たなる謎が隠されていた。10年ぶりの続編。
「スペース」の仕掛けは何となくわかりましたが、感動しました。「バックスペース」は「スペース」と見事に対になっていて、さらに驚きがありました。加納版「六月の花嫁」にあたるかもと思ったりして。絶対前2作を読んでおかないと損です。
「魔法飛行」(再読)(加納朋子)
お勧め!
名前をいくつも持った女性、交通事故現場の白骨になった男の子の絵、空を飛んだメッセージ、そして誰が書いたかわからない手紙の謎。
「ななつのこ」よりもパワーアップした謎と構成。ロジックではなくマジックだという有栖川有栖の解説のように、加納朋子ワールドにどっぷりつかれます。
「ななつのこ」(再読)(加納朋子)
お勧め!
女子大生の駒子が「ななつのこ」の作者に送るファンレター。そこに書かれた日常の謎を作者が解き明かす。
「ななつのこ」という本の謎と現実の謎が共鳴しあってあっという間に読み進めます。でも駒子って一人でにやにやしたりするマイペースな変わった女の子ですね。連作長編という形式が見事に成功しています。
7月
「スキップ」(再読)(北村薫)
お勧め!
女子高生真理子は一眠りして目覚めたら42歳になっていた。時の残酷ないたずらなのか。失われた時を取り返すことはできるのか。
どんな困難な状況でも前向きに凛として立ち向かっていく真理子さんに感動を覚えます。最後の「昨日という日があったらしい。明日という日があるそうだ。だがわたしには今がある」というせりふには力づけられます。
「語り女たち」(北村薫)様々な女達がやってきて語る不思議な物語の数々。幻想的な世界が広がる。
不思議な話がたくさん集まって不思議な空間が出来上がります。「あむばるわりあ」は実際に本を見てみたら血のような真っ赤な本で驚きました。
「盤上の敵」(再読)(北村薫)
お勧め!
猟銃を持った殺人犯が家に立てこもり、妻を人質にした。警察とワイドショーのカメラにかこまれた状況で、犯人と交渉するが…
再読でしたが、騙されました。兵頭三季という悪意に満ちたキャラクターが強烈です。白のクイーンのモノローグがせつないです。
「冬のオペラ」(再読)(北村薫)
お勧め!
名探偵は意志であると断言する巫弓彦が3つの事件を解決する。。
巫弓彦の真実が見えてしまう神のごとき名探偵ぶりとバイト姿に感動さえ覚えます。三話目の不可解な現場の状況はクイーンに匹敵します。
「朝霧」(北村薫)
お勧め!
祖父の日記に記された暗号を「私」が解き明かす。時を超えた思いが明らかになる。
悲しい親心、解けるリドルストーリー、とつらい話が続いて複雑な暗号が出てくるラストの余韻が良くて救われます。この後私と円紫さんシリーズは書かれていませんが、続きが読みたいです。
「六の宮の君」(北村薫)
お勧め!
出版社でバイトする「私」は卒論のテーマに芥川龍之介を選ぶ。芥川の「六の宮の姫君」は誰とのキャッチボールだったのか。
文学的な謎を解いていくことでミステリができるなんてすごいです。北村薫にしか書けない文学ミステリです。
「秋の花」(再読)(北村薫)
お勧め!
文化祭の前夜、幼なじみの少女二人は「見えざる手」によって一人は召され、残されたもう一人は抜け殻となった
最後のせりふに感動しました。読み終えて最初を読み直してなるほど。そこまで伏線を!と感心させられました。運命の不条理な残酷さを感じさせられるこの作品が大好きです。
「覆面作家と夢の家」(北村薫)ドールハウスの「ダイイング・メッセージ」を解決すると…。
これまた凝りに凝ったダイイングメッセージで現実の殺人では使えないです。でもそこがわかっていてドールハウスの「殺人」に使うところがさすがです。ほのぼのとしたラストに幸せになります。
「覆面作家と愛の歌」(北村薫)若い才能ある舞台女優が殺された。しかし容疑者には「完全なアリバイ」があった。
最終話の複雑きわまるアリバイトリックが笑えるし、感動します。一度読んでもわからないところが良いです。
「リセット」(北村薫)
お勧め!
太平洋戦争末期のお嬢様学校の日常と初恋。想いは時を超える。
戦時中のお嬢様の生活が丹念に描かれています。珍しく少年の一人称も取り入れられ、感動のラストに向かいます。

戻る