2006ミステリ感想(1月・2月)


1月
「八月は一夜限りの心霊探偵」(霧舎巧)学園ラブコメミステリ(笑)第五弾。夏休みに伊豆の「別荘」へ行った一行は、そこで肝だめしをすることになる。古い学校跡でみつかる死体。しかしその死体が消えて…。
グラビアをつけてふざけてると思いきや、それも…。このシリーズはこの本の中でこの本が出てくるところがみそだけど、最後どんな風にしめるのでしょうか。これよりも「あかずの扉」の続きを書いてほしいです。伊豆で死んでいた男が北海道で死んでいたというのがちよっとびっくりしたが、あっさり種明かしされて笑いました。
「砂漠」(伊坂幸太郎)
お勧め!
大学に入学して出会った5人の仲間達。論理的で感情を出さない主人公、世界の平和を願い「平和」を作り続ける男、スプーンを曲げてしまう女、美人だけどクールで無表情な女、楽しいことに燃える男、彼らの大学生活がいきいきと描かれる。
これは最高です。今年のベストワンです。こういう大学時代を過ごしたかったです。本を読み終えるのがとても残念でした。最後は泣けました。
ちなみに伊坂幸太郎は彼らの四年後を続編として書き、「砂漠」で彼らがどんな風に雪を降らせているかを読ませてくれるそうです。なんてことは、まるでない、が熱烈に希望!
「小生物語」(乙一)乙一が「小生」という人称でネットに書き散らした日記が本になった。
中古のソファにいる少年の話とか、「ミスチル」と打つとMr. Childrenと変換される話とか軽く楽しめました。
「I LOVE YOU」(伊坂幸太郎他)
お勧め!
男性作家が書いたラヴストーリー6編。
乙一が別名で書いたらしい中田永一の「百瀬こっちを向いて」がやはりキュンときました。石田衣良と市川拓司の作品も良いし、本多孝好の別れる直前の二人の話も泣きそうになりました。
「県庁の星」(桂 望実)
お勧め!
県庁のエリートが田舎のスーパーに民間研修に行くことに。役人と民間とのギャップの狭間で「けんちょうさん」は…。
異文化理解の小説で、最初あたふたしていたのが、協力し一体化していく快感といったらありません。いかにも織田裕二で映画したらいけそうな話で良いです。ただ人称が省略されていて誰の話なのかわかりにくい所がありました。
「予告探偵」(大田忠司)歴史古旧家の屋敷で起こる事件。届いた手紙は探偵からの予告状だった。
まさかこんな結末とは、一言で驚きました。探偵が予告状を送るというのが新しい発想です。
「推理小説」(泰建日子)公園の事件現場に「アンフェアなのは誰か」と書かれた栞が残されていた。やがて現実の事件について書かれた「推理小説上巻」が出版社に送られ、犯人は続きの落札を求める…。
ドラマ第一回を見たら面白そうで読みましたが、面白くなりそうで今いちです。ドラマになりにくい部分が肝です。ドラマでは4回までの話になりました。
「魔王」(伊坂幸太郎)
お勧め!
はっきりと物を言う政治家に日本の方向が決められていく。その方向はそれで正しいのか。兄弟の決断と戦いの結果は…。
政治をエンターティンメントにしてしまうのはさすがです。魔王のラスト、「デッドゾーン」を思い出してしまいました。すごく緊迫してしかしせつなくて。「考えろ、考えろ」と政治的無関心の怖さが伝わってきます。魔王その後の静かなエピソードも良いです。
「幽霊には微笑を、生者には花束を」(飛田甲)廃屋でセーラー服の幽霊と出会った。彼女は記憶補失っていて、ただ覚えているのは「自分が殺されるシーン」だった…。
幽霊がかわいいです。幽霊が出る条件がなるほどと思いました。ラストは意外性たっぷりでした。
「きみの友達」(重松清)
お勧め!
雨の日車にひかれて普通に歩くことを失った恵美は友達も一緒に失ってしまう。子どもの世界を描き出した連作短編集。
「きみ」という二人称でいくつものエピソードを重ねてきて、最後が見事で、泣けました。子どもをよくとらえているのと構成の妙ですね。
2月
「パラドックス学園」(鯨統一郎)目覚めた世界はミステリのないパラレルワールド。大学の同級生は、ポオ、ドイル、カー、クリスティ、クイーンだった。ミステリはないが現実の事件はミステリのような事件が続発していた…。
このトリック、某漫画を思い出しましたが、小説に書いてしまうところがさすが、鯨です。最後の真犯人のパラドックスがリングみたいでちょっとわかりにくいけど、断然支持します。
「図書館戦争」(有川浩)本の検閲を行うメディア良化委員会とそれに対抗する図書館の超法規的な抗争。初の女性防衛員となる笠原郁は、直属の上司の堂上に叱られながらも我が道を行く。
本を守るため戦闘するというすごい話で、基本はキャラのたったラブコメです。実際メディアが規制されて読みたい本が読めなくなる世界にならないように気をつけないと、たいへんなことになります。
「夏祭りに妖狐は踊る」(飛田甲)学校で呪いを招く「不幸の手紙」がはやる。それは妖狐の呪いなのだろうか。懐疑主義者の真也が出した結論とは。
誰が呪いの手紙を書いたのかが意外でした。前作を読んでいないと読めないです。幽霊を見る条件が前回よりもちょっと複雑になっていました。

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