2008ミステリ感想(1月)


2月
「サム・ホーソンの事件簿3」(ホック)アメリカの田舎で起こる不可能犯罪の数々。解決するのは医師のサム・ホーソン。
どうしてこんなに不可能犯罪ばかり起こるのか、さすがに笑ってしまいます。さすがに3作目ともなると以前と似たようなトリックはありますけど。空中ブランコ乗りが衆人環視の中で消えてしまう「消えた空中ブランコ乗りの謎」が一番気に入りました。
「阪急電車」(有川浩)電車の中での様々な出会い。図書館で会った気になる女性との出会い、結婚式に白いドレスで乗り込んだ女性、電車はいろんな人生を乗せて走る。
短い短編が登場人物たちが絡み合う構成が見事です。図書館で出会ったカップルの話や、女子高生たちの年上の彼の話などあっという間に読めて楽しかったです。
「虚空から現れた死」(ロースン)奇術師の部屋を訪れた女性が殺された。地上5階の窓は開けっ放しで、誰も出入りしていない。犯人はコウモリ男か
中編が2編入っていますが、一つ目はコウモリ男の、二つ目は透明人間の仕業としか思えません。奇術師が探偵役ですが、どちらも容疑者になってしまうのが面白いです。しかし2編目の解決はかなりせっぱ詰まっているような…
「完全恋愛」(牧薩次)他人にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるか?TMが牧薩次の名前で書いたミステリ。
女性三代記が書かれていて、辻版、いえ牧版『赤朽葉家』といったら笑われるかも。密室トリックとアリバイトリックは拍子抜けでしたが、ある真相は意外だったです。蟻巣も牧薩次も出てくるのが楽しいです。
「ビーコン街の殺人」(スカーレット)お屋敷のパーティ後に銃声と叫び声が。主人が銃殺され、部屋には女性がいて、銃もそばにあった。しかし事件は単純ではなかった…。
ミスディレクションが上手で最後まで真相がわかりませんでした。ただ殺人現場で探偵が煙草を吸うのは…。
「ロジャー・マーガトロイドのしわざ」(アデア)吹雪で閉じこめられた山荘で鼻つまみ者が密室で殺された。残されたメモをめぐって各自の秘密を暴露することになるが…。
似たトリックは日本のミステリでも3つは思い浮かびますが、やはり洋の東西を問わず、似たような事を考える人っているのだと思いました。密室トリックは脱力しましたが、面白かったです。
「MAMA」(紅玉いづき)落ちこぼれの魔術師見習いトトは人喰いの魔物と出会って、強力魔力を得た。そして魔物のママとなる…
金沢出身・在住のラノベ作家紅玉いづきの待望の第2作目です。一人ではない、というところが感動しました。前日譚的なANDも別の家族の話で良い話ですが、トトとホーイチの話をもっと読みたかったのと、「虚言そらごと」というのは「戯言ざれごと」を思い出して…。
「ラットマン」(道尾秀介)アマチュアロックバンドが練習中に倉庫で起きた事件。事故か殺人か。過去の事件も絡んできて…。
すごいの一言。読めたと思ったけれど、かわされました。よく考えられています。
「理由あって冬に出る」(似鳥鶏)高校の芸術棟に幽霊が出るという噂が。幽霊は存在しないことを証明するために夜の芸術棟を見張ることにしたが…。
ライトノベルを馬鹿にするわけではないけど、何故に鮎川哲也賞に応募したのか不思議です。いわゆる「ゆるい本格」かな。ラストがちょっとすっきりしません。
「ウォッチメイカー」(ディーヴァー)現場には時計がおかれていた。ウォッチメイカーと呼ばれる犯人に対抗するのはリンカーン・ライムとその仲間達。
初ディーヴァーでしたが、面白くてあっという間に読んでしまいました。どんでん返しの連続でびっくりでした。何書いてもネタバレになるのがまたすごい(笑)。
「パラダイスクローズド」(汀こるもの)死神と探偵の双子の美少年がミステリ作家が所有する孤島に招待された。そして密室殺人が…。
アンチ本格ミステリなんでしょうか。p221で絶句します。三人称での地の文でのつっこみはどうなんでしょうね…。
1月
「吹雪の山荘」笠井潔、岩崎正吾、北村薫、若竹七海、法月綸太郎、巽昌章 という豪華な執筆陣によるミステリのリレー小説。吹雪の山荘で女装した男性の首無し死体が発見される。各自の名探偵たちが登場して…。
北村薫のイキイキした「私」の文体が一番楽しかったです。法月綸太郎ががんばっているなあ、という感じ。ラスト巽昌之もまとめましたよというのが伝わってきて、御苦労さんでした。
「乱れからくり」(泡坂妻夫)(再読)海外旅行に向かう途中、隕石が車に直撃して男が死亡した後、五角形の迷路がある「ねじ屋敷」で連続殺人事件が。
からくり人形、迷路と全編からくりづくしですが、それが犯人の(作者の)意図を隠す見事なミスディレクションになっています。第三の波直前に書かれた本格探偵小説の傑作だと思います。
「山口雅也の本格ミステリアンソロジー」(山口雅也)本格ミステリの雄山口雅也が初めて選んだ本格ミステリのアンソロジー。
まず『女と虎』に始まるリドルストーリーを網羅したのは良いです。一番面白かったのは宮原龍雄の『新納の棺』で、意外なトリックに驚きました。あとコーシンミステリーあり、最後の密室あり、お勧めの一冊です。
「感傷コンパス」(多島斗志之)山の分校に赴任した女教師が出会った素朴な子どもたち。誰にも心を開かない女子生徒に悩む。
分校の子どもたちや村の人たちとの交流が心温かくさせます。ただ最後はえー、これで終わりかーという終わり方で残念でした。
「ルピナス探偵団の当惑」(津原泰水)なぜ犯人は冷たいピザを食べたのか。ルビをつけたダイイングメッセージとは。なぜ犯人は死体の右手を持ち去ったのか。事件の謎に立ち向かうのは、高校生たち…。
第三話の最後の一文にビックリしました。でも第一話を読み返したら、あれっと思ったのは自分だけ?
「嘘は罪」(連城三紀彦)浮気をテーマにした12の物語。どれも予想外の結末が待っている。
連城三紀彦の小説は、まさに「どんでん返し」がすごいですが、この恋愛小説集も恋愛小説だけれどもやはりミステリで、どんでん返しが炸裂します。特に『嘘は罪』。ビックリしました。
「少女ノイズ」(三雲岳斗)塾のアルバイトは、銀色のヘッドフォンをつけた少女の相手だった。しかし彼女は鋭い推理で様々な事件を解決する…。
表紙がかわいいくて買ってしまいました。切れ味の鋭いミステリ短編集です。かわいくて賢くて快刀乱麻の推理にしびれました。
「果断〜隠蔽捜査2」(今野敏)警察庁から警察署署長に左遷されたキャリアの竜崎。その管内で強盗犯の立てこもり事件が起こり、竜崎は…
「合理性」第一に考え、自分が正しいと思ったことは正しいと言う主人公の一人称が面白すぎて笑ってしまいます。自分は揺るぎないが、周りが変わっていくのが良いです。
「道化の死」(マーシュ)年に一度行われる民俗舞踏。その衆人環視の中道化役が首切り死体で発見される。
ラストの舞踏再現シーンから犯人指摘まで黄金期のミステリという感じでワクワクしました。錯綜する人間関係も鮮やかに描かれていて退屈しませんでした。
「温かな手」(石持浅海)ギンちゃんとムーちゃんは人間の余剰なエネルギーを食べて生きている人間でない兄妹。二人は殺人事件や様々な謎を解決する。
「なぜ他人の白衣を着ていたのか」「クレジットカード使いがなぜ多額の札を財布に入れていたのか」等の謎を解いていきます。伏線も張られていて論理的です。ラストは予想できたけど、楽しい連作短編集でした。
「首無の如き祟るもの」(三津田信三)井戸でみつかった名家の双子の首無し死体。事件は解決されないまま、十年後に再び殺人が起こり、首無し死体が…。
「おどろおどろしい」世界を舞台にした探偵小説ですが、最後の最後はどんでん返しの連続で、しかしフェアに伏線が張り巡らされて、昨年のベストに選ばれた理由がわかりました。
「朱の絶筆」(鮎川哲也)人気作家が別荘で殺された。別荘には彼を殺す動機がある者ばかりいた。やがて第二の殺人が起こる。
伏線が張り巡らされていてフェアな本格ミステリです。ある人物がドライブをキャンセルした理由と、シンプルな毒殺トリックには驚きました。元になった短編が同時収録されていますが、ほとんど同じなのに驚きました。解説もGOODです。

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