2008ミステリ感想(3.4月)


4月
『ライノクス殺人事件』(マクドナルド)「結末」から始まり、「発端」で終わる実験的な試みのPマクの幻のミステリ。送られてきた麻袋にはぎっしりと札束が入っていた…。
絶版本が遂に文庫になったというのがうれしいです。昔借りて読んだけど忘れていて、なんとかなくそんな結末かなと思いながらも読んでいくと、最後が近づくにつれて真相を思い出し、当たっていました。『迷路』もそうですが、Pマクってなんか淡泊ですね。
『サム・ホーソンの事件簿4』(ホック)アメリカの田舎町ノースモントで起こる不可能犯罪の数々。解決するのは医師のサム・ホーソン。
次回予告みたいのがなくなったのが残念です。評判通り前夜一緒にいたはずの男がいないとみんなに言われる「革服の男」が一番のお気に入りですが、それ以外にも好きな作品が多くてこれはおすすめの短編集です。
『トリックソルヴァーズ』(夏寿司)「名探偵に興味はありませんか」「この学校で殺人事件が起こります」と言う「名助手」の言うとおり、高校で事件は起こる。しかたなく二人三脚の名探偵になることを選んだ桜咲の活躍は…。
「驚愕の結末に、いろんな意味で話題騒然」と書かれていたので思わず買ってしまいました。しかし真相に呆気にとられると同時に、「驚愕の結末」にぼう然としました。続編が出るでしょうが、もう買わないでしょう…。
『Classical Fantasy Within 第3話』(島田荘司)ついにB29の大群が攻めてきて最後の望みであるジェット機「火龍」が飛び立つ…。
敗戦間近の人々のドロドロしたいやらしさが描かれますが、ここで第一部完って、そんなあ…。きっと母親は「畜生腹」、つまり双子だったという話なんだろうな。ファンタジーだけど12冊を通して読むと本格ミステリになるそうで、早く続きが読みたいです。
『Classical Fantasy Within 第2話』(島田荘司)B29を撃墜するために作られた秘密兵器「怪力光線砲」。しかしそれにはとんでもない秘密が…。
怪力光線砲の別の目的が失敗した後、ひたすら母親の変貌ぶりが語られます。さてはて
『Classical Fantasy Within 第1話』(島田荘司)敗戦が濃厚な日本。それを打開するための高速度ロケット戦闘機「秋水」の実験飛行で…。
少年の目線で書かれた話ですが、最後はマッドサイエンティストっぽい方向に進みます。さくさく読めますが、どうなることか〜
『首のない女』(ロースン)奇術師マーリニの店に奇術道具「首のない女」を買いに来た女。不審に思い販売を断ると、隙を衝いて強引に持ち去って行ったのだが…。
たくさんの人が入り乱れてゴタゴタして読みにくかったです。しかし伏線は張りめぐらされていて、特に硝煙反応のついた手袋のイラストにはやられました。マーリニと筆記者が刑務所に入れられてからが驚きの連続でした。
『戸村飯店青春100連発』(瀬尾まいこ)大阪の中華料理店戸村飯店の兄弟は、見た目も性格もまるで正反対。東京に出た兄と、大阪で中華料理店を継ぐつもりの弟の青春模様。
何度も笑えて楽しい気持ちになれます。
3月
『流星の絆』(東野圭吾)三人の兄弟が流星を見るため外に出ている間に両親が殺された。犯人はつかまらないまま時は過ぎ、兄弟は詐欺をしながら生きていた。新しいターゲットに選んだ男の父親は、弟が事件の夜に家を出て行くのを見た男だった…。
兄弟の妹に対する思い、妹のターゲットに対する思い、いろんな思いが錯綜して感動しました。結末は無理にそうしなくてもと思いました。東野圭吾はものすごくミステリが好きで、だから作品の結末がそういう風に収束するしかないのでしょうね。
『越境者松田優作』(松田美智子)出生の秘密、苦悶の青春、そして知られざる死の真相、元妻でノンフィクション作家が松田優作を描き出す。
常に前を前を向いて突っ走った松田優作の一生が書かれています。在日韓国人で故郷から出たい、スターになりたいという強い気持ちが松田優作をスターにしたようです。血尿を出しながら『ブラックレイン』に出演した時にもまだ治ると思っていたというのはショッキングでした。
『君の望む死に方』(石持浅海)悪性のガンで余命わずかの日向は昔殺した男の息子に復讐として殺させることにした。舞台と仕掛けは揃ったが、一人の女性のゲストの行動が…
密室殺人なのに開かれない『扉は閉ざされたままで』の続編、今度は石持版『ゼロ時間へ』で、殺人が起きるまでを描いています。しかも被害者がわざわざ殺人をしやすいように凶器や舞台設定まで準備してあげるというひねくれたミステリです。名探偵優佳がまたも大活躍します。ただ終章はそれでいいのかすこしわかりませんでした。
『エンプティーチェア』(ディーヴァー)少女が誘拐され、男が殺された。容疑者の昆虫博士と称される少年は新たな女性を拉致した。ライムは捜索の依頼を受けるが…。
どんでん返しの連続にクラクラしました。特に最後の最後までそこまでやるかという意表をつく展開に、あっという間に読んでしまいました。特に第二部の終わり、第三部の終わりがショッキングで、次どうなるのかとページをめくる手を止められませんでした〜
『水平線の男』(ユースティス)「女子大学の美男の青年教授が、その愛人によって殴殺される場面からこの物語は始まる。教授の周辺にむらがる多数の女子学生、同僚の女教授たちの中で誰が問題の愛人であったのか?犯人捜しの謎とき小説としては独創的なトリックをもって批評家を驚嘆させ、心理スリラーとしてはその精神分析的手法で読者を感嘆させた十年に一度の路標的名作。本書を抜きにしては現代推理小説の歩みを語れないほど重要な地位を占める必読の傑作である」(『水平線の男』 ヘレン・ユースティス著 1963年 東京創元社)
ヤフオクで数万円の値がついていたので、図書館で借りて読みました。「十年に一度の路標的名作」で「必読の傑作」は大げさかもしれませんが、出版された1963年に読んだら驚愕したかもしれません。原書が出た1947年はブレイクやマクロイなどの「新本格派」の時代です。その世代のミステリという感じです。とにかく訳がひどくてそのままの復刊って無理っぽいです。あと最後の女子大生の言葉が意味深で、誰かに説明してもらいたいです。
『本からはじまる物語』(恩田陸ほか)豪華執筆陣18名による「本屋」「本」をテーマにした18のストーリーが収録されています。
一編が10ページほどなので、気楽に気軽に読めます。本多孝好、山本一力、市川拓司の作品が気に入りました。
『リベルタスの寓話』(島田荘司)ボスニア・ヘルツェゴヴィナで内蔵の代わりに他の事物を入れられた死体が発見された(『リベルタスの寓話』)。密室の中でピラニアの水槽に顔をつっこんで死んでいた死体(「クロアチア人の手」)。
とちらも怪奇的な発端と謎からなぜそうなったのかということを納得させてくれます。でも御手洗の電話で「木にぶつかれ」はあんまりかも。

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