2008ミステリ感想(7.8月)


8月
『奇術探偵曽我佳城全集』(泡坂妻夫) 引退した伝説の女流奇術師曽我佳城。奇術がらみの事件に佳城の推理は冴える。
『月が昇るとき』(ミッチェル) 若い女性ばかり狙った切り裂き魔による連続殺人事件を13才の少年の目を通して描く。
直接殺人を描くのではなく、少年の日常が書かれていて時には殺人はどうなったのかともどかしくなることもあります。最後どんでん返しを期待しつつ、どんどんページがなくなっていってそのままだったので、これが盛り上がるところで盛り上がらないオフビートなのかと呆気にとられました。結局一読では真相がよくわからなかったです。でも兄弟たちの若い下宿人クリスティーナ(最初人間関係がわからなかったけど)を慕う気持ちなどがよく書かれていて、ミステリ以外の部分が心に残ります。また兄弟の弟の方がやけに鋭いのが面白いです。
『訣別の森』(末海広海) ドクターヘリが、墜落した取材ヘリを救出した。怪我をした女性は、自衛隊時代に愛した部下だった。 彼女は突然入院先から姿を消す…。
ある壮大な計画が隠されていてスケールが大きいですが、ちょっとごちゃごちゃしているような気がしました。謎解きという点では少し弱いのですが、過去のある事実に驚かされました。
『見えないグリーン』(スラディック) 陰謀に巻込まれたらしい老人がトイレの密室で殺されます。しかも探偵が監視をしていたにもかかわらず。老人は過去に「金沢ミステリ倶楽部」、いえ「素人探偵会」のメンバーでした。で他のメンバーに魔の手が忍び寄ります…。
トイレの密室トリックはあ然としました。一つ間違えたらバカミスでは、というかバカミスかも。こういうの好きですけど。容疑者が閉じこめられている逆密室のトリックも予想外でした。過去のシーンからすでに伏線が張られていて張り巡らされた伏線の回収が見事です。最初の殺人の動機にしろ、元警官に関するホワイダニットにしろ目から鱗でした。
『誘拐児』(翔田寛)昭和21年、誘拐事件発生。身代金は奪われ、犯人は確保できず、 そして誘拐された児童は戻ってこなかった。15年後、亡くなった母親の死に際の一言から20才の青年は自分の過去を調べ出す。そして一人の女性の死から過去の事件が動き出す。
すでに作家としてデビューしているので、文章は読みやすくスラスラ読めました。タイトルが全てを表わしていて、そういう話です。主人公が自分の過去を調べるのと、現在の殺人事件の捜査とが並行して書かれていってうまく結びつくのが(うまくいきすぎるが)、さすがです。 ただ主人公が20才の青年という感じがしなかった(わざとかも)のと、二組の反目する刑事の書き分けがもう少しかと思いました。
『野球の国のアリス』(北村薫) 少年野球のエースだったアリスは「たいへんだ」と言いながら走っていく「ウサギ」さんを追いかけて鏡にさわったら鏡の国に行ってしまいます。そこは新聞の字が反転しているように野球も逆の大会が行われていました…。
北村薫のミステリーランド新作はミステリならぬ野球小説です。しかし子どもとかって子どもだった大人のためのミステリであるミステリーランドとして子どもにも安心しておすすめできるジュブナイルです。ただ北村ミステリを期待して読むと物足りないかもしれません。読書の楽しさは満喫できますが。鏡の国だから野球に関しても反転しているところがあってそれがちょっとした挫折をもたらすけれどそこから、というところが盛り上がります。
『復讐者の棺』(石崎幸二) 相変わらずボケとツッコミだけど書き分けられていない女子高生ミリア&ユリに、作家と同じ名前なのに何故そこまでいたぶられるのかミステリィバカサラリーマン石崎幸二!という三人が経営破綻したテーマパークの孤島での連続殺人事件に巻込まれます。
帯に「ザ本格」とあるようにトリックはかなりすごいんですけど、そんな手間ひまかけずに、と思ってしまってはダメですね。シリーズの次回作が楽しみですが、あるんだろうか、書かせてもらうえるんだろうか…。
『ソルトマーシュの殺人』(ミッチェル)
『サム・ホーソンの事件簿V』(ホック) なぜか不可能犯罪ばかり起きる町で、ホーソン医師が快刀乱麻で事件を解決する 短編集第5弾です。幽霊が出ると言われているテラスから姿を消した男の謎「幽霊が出るテラスの謎」がバカミスっぽくて一番好きです。
それ以上にボーナスのレオポルド警部の目の前で元妻が撃たれてレオポルドが容疑者になってしまう「レオポルド警部の密室」が良くできたパズラーとなっています。
『カラスの親指』(道尾秀介) 詐欺を生業とする中年2人組がスリを失敗した女の子と出会って…
相変わらず騙しのテクニックが上手で笑いながら読めました。これは何も知らずに騙されたと思って読んでみて下さい。きっと騙されます(=⌒▽⌒=)伊坂幸太郎っぽいので、伊坂好きな人にも是非お勧めです。
7月
『聖域』(大蔵崇裕)
『黒笑小説』(東野圭吾) 文学賞発表直前作家と編集者の心の葛藤を描く『もうひとつの助走』、新人賞受賞作家の大勘違いを描く『線香花火』、新人賞受賞者とは何かを描く『過去の人』、選考会の裏側を描く『選考会』、と4編続いて小説家や編集者たちの裏側を描いていて、どこまで体験で書いているのか興味津々です。他にもブラックな笑いに満ちた短編がいっぱいです。 特に『シンデレラ』を『百夜行』のように書いた『シンデレラ百夜行』が気に入りました。ガラスの靴の魔法が解けなかった理由がわかります。また恋人からいきなり別れを告げられてストーカーにされる『ストーカー入門』、売れない芸人とホテルのボーイの攻防を描き、ラスト一文がきいている『笑わない男』などショートショート的で良いです。
『耳をふさいで夜を走る』(石持浅海) どうしても三人の女性を殺さなければならない。並木はそう決心した。そして一夜の出来事が並木の後押しをする…。
石持浅海の新作です。しかも長編です。 問題小説に連載されていたので、そんな感じのシーンが多いです。動機がやはり不自然で、ストーリーも面白くなくて、 これはできたら目をふさいで読むのをふせいでほしかったです。

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