2008ミステリ感想(9.10月)


10月
『テンペスト上』(永一)末期琉球王朝。珊瑚礁に囲まれた五百年王国の美少女・真鶴は、国を救うため性を偽り宦官になった。王府入りした真鶴はフル回転で活躍するが、待っていたのは…。死ぬも生きるも嵐のごとく! ノンストップ人生劇場。(bk1)
物語ー、という感じで圧倒されながらも先がどうなるのか気になって上巻426ページをあっという間に読んでしまいました。 次々にふりかかるピンチを切り抜けながらも最後は…。美男子が男だと思っている美少女に恋して悩んでしまうし、美少女が女を捨てたはずなのに、別の美男子に恋してしまうし、宮中は陰謀渦巻くし、気色悪い蛇男が現れるし、面白さ抜群です。ところどころ挿入される候文や沖縄の和歌?が雰囲気を盛り上げます。
『誘拐』(五十嵐貴久)誘拐のターゲットは、なんと総理の孫! 総理大臣の孫を誘拐するなんて、まさに「史上最大の誘拐」、前代未聞のミステリです。なんで総理の孫を、身代金はどうするの、総理はどう決断するの、と先が読めない展開。
あれよあれよという間にそうくるか、という結末で今年のベスト5に入る出来です。途中感じた違和感はそうだよね、でも星野、すごすぎ、普通そこまで考えないし、あと封筒がね、まあしかたないけど(ってぼかして書いています)
『告白』(湊かなえ)「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」わが子を亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である2人の少年を自ら裁いた。
かなり話題になっている本で、期待どおりの作品でした。教室での語り、手紙、日記、回想、ウェブの文、電話と連城三紀彦のミステリのように語る人によって真相の様子が変わってきます。面白すぎて一晩で読んでしまいました。第一章「聖職者」で小説推理新人賞を受賞したそうですが、受賞後に長編の構想を考えたんでしょうか。すごいです。
『月光ゲーム』(再読)(有栖川有栖)
昔あんまり面白くなかったという記憶だけあり、他はほとんど覚えていなかったんですけど、犯人を指摘する論理は確かに美しいです。でも犯人の意外性がないのとダイイングメッセージYの解釈が今ひとつなので、あまり評価が高くならなかったようです。また(作中の)有栖川有栖が、ミステリマニアのくせに○○してしまうのと、すべったり、落ちそうになったりとどんくさいのに驚きました。
『火村英生に捧げる犯罪』(有栖川有栖)
『絞首人の手伝い』(ヘイク・タルボット)パーティで呪いの言葉を吐くと、兄は倒れて死んでしまう。その後部屋の死体を見ると、急激に腐食していた…
とてつもない不可能犯罪です。さらに探偵役が襲われますが、どうみても怪物。しかも密室です。途中で謎が一度解けてなるほどと思いました。とってもシンプルだけど魅力的な謎でした。
9月
『妖奇切断譜』(貫井徳郎)明治ならぬ明詞の時代、美人画のモデルが次々と殺される。死体はどれもバラバラにされていた。
貫井徳郎が本人の偏愛ナンバーワン作品なのに大して評判にならなかったと作者が嘆く作品だけあって、意外な真相には鳥肌が立つくらいでした。バラバラにする必然性に驚かされます。前作に書かれていることが伏線にもなっているのがすごいです。「次巻に続ク」から9年ほどたっていますが、続きは書かれていません。第三弾『絡繰亭奇譚』を読みたいです。
『鬼流殺生祭』(貫井徳郎)明治ならぬ明詞の時代、留学から帰ってきた友人が殺された。内部の犯行と思われる状況の中、今度は雪に囲まれた屋敷の中でまた殺人が起きる。
時代物ということでずっと読んでいませんでしたが、まぎれもない本格ミステリでした。現場の不可解な状況が出来上がる理由が探偵役が動くことによって事件がかき乱されるという最後に明かされる部屋の塵の話が面白いです。なんとなく真相は読めてしまったのですが、さらにその上を行く最後に明かされる衝撃の真相には驚きました。ちょっと山風の明治物を意識したところがあり、にやりとしました。
『ぐるぐる猿と歌う鳥』(加納朋子)東京から転校してきた小学5年の森(しん)は夜中に口笛を聞く。夜中に屋根の上で口笛を吹く少年パックと出会う。彼には秘密があった。
森と北九州の子どもたちのやりとりが面白くて笑えました。謎の少年パックの名探偵ぶりに驚きます。是非続編で大活躍させてほしいです。森と小さい時に遊んだ子のことが感動しました。
『ワトスンの選択』(グラディス・ミッチェル)内容説明 「シャーロック・ホームズ生誕百周年記念」の仮装パーティーの後、子守りの女性がいなくなった。「彼女が荒野で死んでいる夢を見た」と男が証言するが…。
ホームズの登場人物たちの仮装をしてパーティするのは楽しそうです。さらにホームズの物語に関する物を探すゲームまでありますが、かなりマニアックです。相変わらず肩すかしされる展開です。ホームズに関する贈り物が誰からか届く謎の解明がなるほどと思いました。ブラッドリーがかなり前で犯人がわかったと言うのが驚きです。本当に名探偵ですね。
『タナスグの怪物』(グラディス・ミッチェル)恐竜らしき生物が目撃された湖に調査に行ったメンバーの1人が変死する。
前半がずっと恐竜調査とメンバーの人間関係が書き込まれます。嫌われ者の女性の死が自殺か他殺かということで、名探偵ブラッドリーの出番となります。でも事件よりも恐竜の方が気になり、最後も空前絶後の結末となります。グラディス・ミッチェル、変わってますね。
『愛する者に死を』(リチャード・ニーリィ)殺人を計画しているPSと名乗る者から手紙が出版社社長に届く。殺人物語を出版しないかと。
叙述トリックの雄ニーリィのデビュー作。ペーパーバックだけあって、官能シーンが多かった。容疑者が逮捕されて釈放後に新たに事件が起こるという展開がたまたま『ウォリス家』に似ていて面白かったです。でも全体的にゴタゴタしていました。
『臨場』(横山秀夫)「終身検死官」と呼ばれる捜査一課捜査官倉石は現場の初動捜査で適格な判断を下す。
現場を見て殺人か自殺かを判断する倉石の名探偵ぶりにびっくりします。
『ウォリス家の殺人』(D・M・ディヴァイン)幼なじみの人気作家の家に招待された歴史学者。その屋敷では複雑な人間関係が渦巻き、ついにある夜人気作家は兄と一緒に行方不明となる。
過去を振り返って書いている形式なので、「あの時こうだったらこうだったのに」という記述が出てきますが、乱歩のように思わせぶりでイヤです。しかし解説にも書かれていましたが、明白なたった一つの事実で全てが解決されるのが、すごいです。ディヴァインは面白いです。
『黒い霊気』(ジョン・スラディック) 探偵の依頼がなく降霊会の謎でも解こうと降霊会に参加したフィン。 その最中に霊は「私は殺されたのだ」とフィンに告げる。 その後、トイレの密室からの人間消失、空中浮遊、葬儀場から自宅への瞬間移動と次々と不可解な事件が起こる。
『見えないグリーン』に続いて、またトイレの密室、に笑いました。 『見えないグリーン』で素人探偵の会で話されていたホームズの自転車のタイヤの問題もフィンによってまた話されます。 『見えないグリーン』よりこっちが先ですが。 トイレの密室は呆気にとられますし、空中浮遊のトリックは昔読めばすごいと思ったかもしれませんが、今となってはどうでしょうか。 それでもところどころ笑えるシーンがあり、楽しめました。 ただ読み終わってわからないことも残りました。

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