2009ミステリ感想(5月・6月)
5月
「街の灯」(再読)(北村薫)ベッキーシリーズ第1弾。
「玻璃の天」(再読)(北村薫)ベッキーシリーズ第2弾。
「九月は謎×謎修学旅行で暗号解読」(霧舎巧)私立霧舎学園ミステリ白書シリーズの第6弾。京都と東京で暗号解読が同時進行で行われるが
何年か前に読み始めたけれど、なかなか進まなくてなんとかやっと読み終えました。《あかずの扉》研究会のトリックをぶちこんだそうで、なるほど、そのトリックかぁーー。相変わらず付録の小物の使い方が上手ですが、古本屋で買うとなくて困ることもあるだろうに…。
「疑心−隠蔽捜査3」(今野敏)キャリアながらある事情で署長に左遷された竜崎伸也。米大統領訪日に大統領専用機の到着する羽田空港でテロが起きるとの情報が。
愛すべき変人、唐変木の竜崎視点の記述には相変わらず笑ってしまいます。自己評価の低さと相手の高い評価のギャップが面白いです。今回はその唐変木が恋に落ちてという話です。楽しみなシリーズで、次回作にも期待します。
「犯罪小説家」(雫井脩介)新進小説家の出世作に映画化の話が持ち上がる。人気脚本家は小説のモデルに異常に執着する。
文学賞受賞から映画化の話まで雫井さんの実体験がそのまま書かれているように思えました。しかし気鋭の監督が登場することによって話の展開が変わってきます。好奇心は猫を殺す、という感じでした。
「鷺と雪」(北村薫)日本にいるはずのない婚約者が写真に映っていた。英子が解き明かす謎。 令嬢と女性運転手が活躍する「ベッキーさん」シリーズ、完結。
シリーズを通してのサイドストーリーの伏線が最後にぴたっとはまってさすがです。芥川龍之介のドッペルゲンガーの話は面白かったです。ここで完結というよりもっと続けてくれたらいいのに。でもその潔さがまた北村さんらしいです。
「Story Seller」「面白いお話、売ります。読み応えは長篇並、読みやすさは短篇並ALL読み切り」
伊坂さん、近藤さん、有川さん、米澤さん、佐藤さん、道尾さん、本多さんと、超豪華メンバー勢揃いです。近藤さんのは『サクリファイス』の外伝でした。どれも面白かったのですが、個人的には道尾さんの作品が相変わらず騙しのテクニックがあって笑えて好きでした。贅沢なアンソロジーです。
「〈盗作〉の文学史」(栗原裕一郎)日本推理作家賞受賞。盗作と無断引用と著作権侵害の区別は。庄司薫はサリンジャーをパクッたのか、朝日新聞VS山崎豊子さん、『黒い雨』事件等スキャンダラスな文壇の盗作事件を検証する。
記憶に新しい飛鳥部さんの「はみだしっ子」の盗作騒ぎから大藪春彦の盗作などミステリ好きなら是非一読を勧めます。二人称小説で都筑さんの名前があがったり、寺山修司さんのデビューに関して中井英夫さんが出てきたりします。大藪春彦が未訳の海外ミステリを盗作していたというのは驚きでした。でも外国の未訳のミステリを盗作するミステリを最近何かで読んだ覚えが…あ、鮎川さんの『朱の絶筆』か…。
「自宅にて急逝」(クリスチアナ・ブランド)邸に親戚が集まり、ハウスパーティが行われた。翌朝富豪が急死して、コックリル警部が呼ばれるが殺人の疑いが出てくる。誰もが動機を持ち、怪しい人物ばかりだった…
二つの殺人が行われますが、どちらも足跡のない不可能犯罪です。しかしそれよりもやはりフーダニットがブランドの真骨頂で少ない容疑者なのに最後まで犯人はわかりません。コックリルは意外と意地悪ですね。
「骨と髪」(レオ・ブルース)失踪した人妻を探すうちに同一人物のはずが次々と違った証言が。彼女は何者なのか。
失踪した妻が死んでいるのか生きているのかわからず、さらに3人の女性がいたらしいという謎がユーモアいっぱいで描かれます。最後の死はあんまりだろうと思いましたが、本格ミステリの変化球として面白かったです。
「訪問者」(恩田陸)3年前に不審死をとげたじゅょょせいが建てた山中に佇む古い洋館。集まった親戚たちは謎の訪問者を待っていた。
ミステリアスな洋館で次々と新たな事実が判明していく展開はさすが恩田陸さんで、ついつい最後まで読んでしまいました。ただ最終章でちょっと納得いかないところがありましたが、閉じない読者にゆだねる結末なのでしょうか。でも本当に面白かったです。
「少年少女飛行倶楽部」(加納朋子)空を飛ぶこと」を活動とする中学校の部活動「飛行クラブ」にひょんなことから入った海月の物語。
登場人物たちは海月(みづき)、樹絵里(じゅえり)、神(じん)、海星(かいせい)、朋(るなるな)、天使(エンゼ)とよくもまあここまでという名前が揃っています。上から目線の部長神が笑わせてくれます。ミステリではありませんが、どのように空を飛ぶのかという興味もあり、中学生たちが活躍するさわやかな青春小説になっています。
6月
「ミステリーとの半世紀」(佐野洋)理論派佐野洋がデビューのこと、江戸川乱歩や松本清張、日本推理作家協会のことなどミステリーの歴史を振り返る。
ミステリーカレッジの時に三好徹さんが「乱歩さんの話なら佐野さんだろう」といった理由がこれを読んでわかりました。佐野さんから見たミステリの歴史や出来事が書かれていますが、森村誠一さん夏樹静子さんあたりまでなので最近のことについて語られていないのは残念でした。一番すごいと思ったのは、奥さんのメモが残されていたことです。
「龍神の雨」(道尾秀介)雨の日には過ちが起こる。義父の死に当面する兄妹、義母の犯罪に疑心暗鬼の兄弟。2組の兄弟が行き着く結末は…。
道尾さんは読み手にこういうことが起きたということを想像させて実は別のことだったと誤誘導する技術がすごいです。『片眼の猿』なんか、悶絶しました。『龍神』はあいかわらず誤誘導が上手です。二組の兄妹、兄弟のそれぞれの結末がいろいろと考えさせられました。一つはとても重たいです。
「大聖堂は大騒ぎ」(クリスピン) クリスピンといえばユーモアミステリですが、あまり笑えなかった…。一応密室で大トリックがありますが、かなりドタバタしていま一つでした。解決部分で伏線があるページを書いてあるのが素晴らしいです。

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