2010ミステリ感想(1月・2月)


1月
「後悔と真実の色」(貫井徳郎)若い女性を殺して死体から人指し指を切り取る連続殺人魔「指蒐集家」。名探偵と呼ばれる刑事との頭脳戦の結果は…
警察小説だけど、そういう展開?と思って先がどうなるのか気になりました。警察小説だけど本格ミステリです。インターネットがあれば本当に何でもできるんですね。
「Anniversary 50」「50」をテーマに綾辻行人、有栖川有栖、大沢在昌、島田荘司、田中芳樹、道尾秀介、宮部みゆき、森村誠一、横山秀夫という今をときめくミステリ作家たちが競作したカッパブックスの創刊50周年記念アンソロジー。
「50」にしてもいろんな「50」があり、さすがです。島田さんの作品は御手洗潔がイギリスでの体験を語るもので、このシリーズの一部が『CFW』に関わるそうでどう関わるのでしょうか。宮部さんの布団みたいなのに眼がたくさんついた化物を退治する話は退治のシーンが絵的に面白いです。横山さんの作品は『臨場』その後の倉石もので、完全ベッドディテクティブで、その洞察力の鋭さは「名探偵」と呼べます。
「君がいなくても平気」(石持浅海)商品開発チームで殺人が発生する。水野は同僚で恋人が犯人である証拠を?むが…。
恋人が犯人ではと疑いながらもベットで興奮するのが変態チックでした。犯人限定の伏線はなるほどですが、警察はもっとどうかできそうな…
「武家屋敷の殺人」(小島正樹)一晩で壁の色が変わり、空からは人が降り、塀は血を流し、床がケタケタ笑う。そんな武家屋敷で、ミイラが蘇り、死体が瞬間移動し、氷室が跡形もなく消える。
孤児院育ちの美女の生まれた家を探す時、その日記に書かれた異常な現象を解読するその推理の過程が面白いです。不可能犯罪がてんこ盛りの島田さん直系の本格ミステリです。
「赤い糸」(蘇部健一)修学旅行先で、真夜中に目を覚ました少女は、左手の小指に巻かれた赤い糸に気づき、その糸をたどっていくが…。
ところどころイラストが入っていて笑えます。ロマンチックな話ですが、文章が…。早川書房から出ているのがすごいです。
「ウィズユー」(保科昌彦)オンラインゲーム内での誘拐事件という奇妙な依頼を受けた調査員は、ゲーム内の身代金の受け渡し場所を見張るが…。
仮想現実世界で誘拐事件を探偵するというのが新鮮でした。読み始めたら止まらなくてスラスラ読めました。誘拐の真相はよくできていて、調査員のトリオもいい味出していました。
「復活!!虹北学園文芸部」(はやみねかおる)文芸部に入ることを楽しみに、虹北学園に入学したマイン。だが、文芸部が廃部になっていた。文芸部復活のために奔走するが…。
表紙がかわいくて恥ずかしいです。文芸部を復活させるために小説を書く対決をするなどして部員を集めていきます。気持ちのこもった文が光って見えるというのがミソのようですが、今回は集めるまでのプロローグのようなお話なので、続きが楽しみです。
「八一三号車室にて」(アーサー・ポージス)未解決の宝石失踪事件の謎を、走る列車内で鮮やかに解く老人。彼の正体とは…。
短めのアイディア溢れる短編が並んでいて刺激的でした。
「天帝のはしたなき果実」(古野まほろ)90年代初頭の日本帝国。名門勁草館高校で、斬首死体が。報復と解明を誓う古野まほろら吹奏楽部の面子の前で更なる犠牲者が!
817ページもあって、分厚い〜。饒舌でペダントリックで読んでも読んでも終りませんでした…。その中に伏線が張りめぐらされていました。読者への挑戦状が入って、その後推理合戦が始まるのがなかなかキュンと来ました。しかしその後の真相がかなりクラクラしました。
「探偵小説のためのエチュード水剋火」(古野まほろ)過去の過ちのため、帝都から逃げるように転校した水里あかね。彼女を待っていたのは、美少女陰陽師小諸るいかだった。小諸は事件を解明し、事件に潜む怨霊の姿を暴き出す…
天帝と比べたら薄くて読みやすかったです。妄想爆発の女の子と女子高生陰陽師のペア、それにぞなぞな語の連続に笑えます。読者への挑戦状が挿入され、伏線は張り巡らされていて、陰陽師によって回収されます。しかしたたのミステリで終らないのがまたすごいかも。
「孤独なうさぎ」(渡邉裕二)酒井法子のデビュー前から逮捕…。恋と夢をつかんで破れた清純派アイドルの秘められた波乱の半生。
これを読むとのりピーは悪くなく、応援してあげたくなります。悪いのは野島伸司と高相の二人で特に高相とは出会っていけない人と出会ったみたいな書き方でした。巻末の芸能界の交遊相関図で中山美穂と中森明菜、中森明菜と松田聖子の仲が悪いというのと、ジャッキー・チェンの巨乳好き、には笑いました。
「かっこうの卵は誰のもの」(東野圭吾)隠し事のある父は、才能のある娘の幸せを願っていた。だが親子の愛情に揺さぶりがかけられるような事件が…。
相変わらずサクサク読めます。さすがベストセラー作家。父親の苦悩と、頑固さが心を打ちました。ただバスの事故と都合のよい携帯電話の部分がちょっとひっかかりました。無理にミステリにしなくてもいいような気がしました。
「探偵小説のためのエチュード土剋水」(古野まほろ)水里あかねが逮捕された。競技かるたタイトル戦をめぐり発生した殺人事件。美少女陰陽師コモが、助けてくれる…
殺人容疑をかけられた妄想系カルタ名人女子高生を女子高生陰陽師が論理で救う話で相変わらず読者への挑戦状が入って、数学的な公理に基づいてねちっこく犯人を追いつめていきます。仰天のフーダニットでしたが、犯人指摘の後は我慢です。物理的トリックにも呆然としてますけど。 おすすめはしません。でも超絶論理は一見の価値はあるかな、と。
2月
「老女の深情け」(ヴィカーズ)スコットランドヤードで他の係や課がお手上げの事件を引き受ける「迷宮課事件簿」の第三弾。倒叙ミステリで、最初に犯人側から描かれ、その犯罪が暴かれるまでを描く。
この犯人たちは、まったく普通の人でたまたま殺人をしてしまいます。殺人までの流れが読ませますし、それが全くの偶然から解決してしまうのが迷宮課の醍醐味です。詩集が意味を持つ『ある男とその姑』、ほんのささいなことにこだわる男が殺人を犯す「そんなつまらないこと」(迷宮課でないけど)が心に残りました。
「私の家では何も起こらない」(恩田陸)小さな丘の上に建つ二階建ての古い家を舞台に描かれる幽霊譚。
短い短編が並んでいて薄くてすぐ読めます。同じ丘の上の家を舞台にした短編の積み重ねでその家で起こったことが浮かび上がってきます。第2話がかなり気持ち悪かったです。
「ラミア虐殺」(飛鳥部勝則)吹雪の山荘で起こった連続殺人。背徳の本格。
「背徳の本格」(インモラルパズラー)だそうで、う〜ん。確かに、問題作かも…。
「さむけ」(ロス・マク)新婚旅行の第一日目に、新婦が行方不明になった夫の依頼を受けてリュー・アーチャーは捜索を開始するが…
法月綸太郎さんが確か絶賛していたはずです。現在の殺人に、10年前の妻殺し、そしてさらに過去の拳銃暴発事件とが見事に結びついていきます。ハードボイルドだけど、本格ミステリです。すばらしい。
「9枚の挑戦状」(辻真先)読者から募集した9つの謎をミステリーサークルの会員が依頼されて解決編を書くが…
しかしやはり「辻真先」ではなくて、ミステリーサークルの会員が書いているので、謎に対する解答がいま一つのようでした。9番目の解決も先例があるのでどうでしょうか…。
「五声のリチェルカーレ」(深水黎一郎)昆虫博士と言われるおとなしい少年が人を殺した。少年の動機は何なのか…
講談社の正統な?本格ミステリとは違った企みのあるミステリで、確かに読み切れませんでした。いじめのシーンが嫌な話でした。同時収録の『シンリガクの実験』も嫌な話ですが、ラストは良かったです。
「電気人間の虞」(詠坂雄二)「電気人間って知ってる?」遠海市の都市伝説「電気人間」を調べていた女子大生が急死する。恋人きどりの高校生が「電気人間」を調べるが、彼も死ぬ。何者かによる連続殺人なのか。
舞台が遠海市で、0章に『遠海事件』の本屋と女子高生が出てきます。本ミス2010で13位、このミス2010で20位になりました。どの章も「電気人間」で始まっています。ショッキングですが、これって前例ありますよね。表紙が気持ち悪かったです。

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