ミステリリレー小説

リレー式合作探偵小説について


 本HPでは、「リレー小説」を置いて、読者参加型のHP作りに心がけているが、「リレー小説」というのは、現実にどのような試みがあったのだろうか。

 まず日本においてどうかだが、なんと春陽文庫から「合作探偵小説シリーズ」という名で江戸川乱歩を中心としたリレー小説方式の探偵小説が全6巻刊行されている。このシリーズでは江戸川乱歩を中心にプロ探偵小説作家による8作の合作探偵小説(すなわちリレー小説)を読むことができる。

「五階の窓」
(江戸川乱歩/平林初之輔/森下雨村/甲賀三郎/国枝史郎/小酒井不木)「新青年」大正15年5月号〜10月号掲載
「覆面の佳人」
(江戸川乱歩/横溝正史)「北海タイムス」(夕刊)昭和4年5月からの掲載で、つづいて翌年2月から「九州日報」にも「女妖」と改題されて連載された。
「江川蘭子」
(江戸川乱歩/横溝正史/甲賀三郎/大下宇陀児/夢野久作/森下雨村)「新青年」昭和5年9月号〜6年2月号掲載
「殺人迷路」
(森下雨村/大下宇陀児/横溝正史/水谷準/江戸川乱歩/橋本五郎/夢野久作/浜尾四郎/佐佐木俊郎/甲賀三郎)「探偵クラブ」昭和7年4月号〜8年4月号掲載
「黒い虹」
(江戸川乱歩/水谷準/大下宇陀児/森下雨村/海野十三/甲賀三郎)「婦人公論」昭和9年1月号〜6月号掲載
「畸形の天女」
(江戸川乱歩/大下宇陀児/角田喜久雄/木々高太郎)「宝石」昭和28年10月号〜29年1月号掲載
「女妖」
(江戸川乱歩/香山滋/鷲尾三郎)「探偵実話」昭和29年1月号掲載
「悪霊物語」
(江戸川乱歩/角田喜久雄/山田風太郎)「講談倶楽部」昭和29年8月増刊号掲載
「大江戸怪物団」
(江戸川乱歩/城昌幸/角田喜久雄/土師清二/陣出達朗)「面白倶楽部」昭和30年8月増刊号掲載

 解説は山前譲氏が担当し、それぞれに関してくわしく解説している。面白いのは、「五階の窓」はスランプの江戸川乱歩に気軽に小説を書いてもらおうという目的で始まったということだ。
 上記の他にもリレー小説の試みはされていたらしい。

 「吉祥天女の像」
(甲賀三郎/牧逸馬/横溝正史/高田義一郎/岡田三郎/小酒井不木)「女性」昭和2年1月〜
 「諏訪未亡人」
(延原謙/吉岡竜/海野十三/角田喜久雄/横溝正史)「新青年」昭和7年2月〜
 「白薔薇殺人事件」
(香山滋/島田一男/山田風太郎/楠田匡介/岩田賛/高木彬光)「モダン日本」昭和23年11月〜
 「鯨」
(島田一男/岡田鯱彦/鷲尾三郎)「探偵実話」昭和28年7月
 「十三の階段」
(山田風太郎/島田一男/岡田鯱彦/高木彬光)「探偵倶楽部」昭和28年12月〜
 「魔法と聖書」
(大下宇陀児/島田一男/岡田鯱彦)「探偵実話」昭和29年3月
 「薔薇と注射針」
(木々高太郎/渡辺啓助/村上信彦)「探偵実話」昭和29年4月
 「毒環」
(横溝正史/高木彬光/山村正夫)「探偵実話」昭和29年5月
 「むかで横丁」
(宮原龍雄/須田刀太郎/山沢晴雄)「密室」昭和29年5月
 「ジュピター殺人事件」
(藤雪夫/中川透(鮎川哲也)/狩久)「密室」昭和29年5月
 「生きている影」
(角田喜久雄/山田風太郎/大河内常平)「探偵実話」昭和29年6月
 「火星の男」
(水谷準/永瀬三吾/夢座海二)「探偵実話」昭和29年7月
 「狂人館」
(大下宇陀児/水谷準/島田一男)「読切小説集」昭和30年3月増刊号
 「一人二役の死」
(木々高太郎/富士前研二/浜青二/竹早糸二/木々高太郎)「宝石」昭和30年10月
 「秘中の秘」
(江戸川乱歩/香山滋/岡田鯱彦/鷲尾三郎)「面白倶楽部」昭和33年3月増刊号掲載
 「魔王殺人事件」
(江戸川乱歩/楠田匡介/島田一男/千代有三)「面白倶楽部」昭和33年6月増刊号掲載
 「闇からの招待」
(笹沢左保/草野唯雄/井口泰子/石沢英太郎/笠原卓−−−中絶)「推理文学」昭和46年4月増刊号掲載
 「悪魔の賭」
(斉藤栄/山村美紗/小林久三)「小説宝石」昭和53年2月〜4月
 「京都殺人旅行」
(西村京太郎/山村美紗)「小説宝石」昭和57年3月〜5月
 「堕天使殺人事件」
(二階堂黎人/柴田よしき/北森鴻/篠田真由美/村瀬継弥/歌野晶午/西澤保彦/小森健太朗/谺健二/愛川晶/芦辺拓)(1999)
 「前夜祭」
(芦辺拓/西澤保彦/伊井圭/柴田よしき/愛川晶/北森鴻)(2000)
 「運命の剣 のきばしら」
(中村隆資/鳴海丈/火坂雅志/宮部みゆき/安部龍太郎/宮本昌孝/東郷隆)(2000)時代小説だけど…
 「八ヶ岳「雪密室」の謎」
(笠井潔/二階堂黎人/我孫子武丸/桐野夏生/貫井徳郎/霞流一/喜国雅彦/鯨統一郎/斎藤肇/柄刀一)(2001)
 「13の階段」
[白薔薇殺人事件/悪霊物語/生きている影/十三の階段/怪盗七面相/夜の皇太子](山田風太郎他)(2002)
 「誰にも続かない」
(乙一・北山猛邦・佐藤友哉・滝本滝彦・西尾維新)「ファウストvol.4」(2004)
 「ネコのおと」
(新井輝/築地俊彦/水城正太郎/師走トオル/田代裕彦/吉田茄矢/あざの耕平)(2006)
 「吹雪の山荘」
(笠井潔・岩崎正吾・北村薫・若竹七海・法月綸太郎・巽昌章)(2008)

 またリレー小説と言えないが、一人が問題編を書いて他の人が解決編を書くものや、遺作や中絶作をふくらまして書いたり、続きを書いたりするものもあった。

合作は次の作品。

 「悪霊の群」
(山田風太郎・高木彬光)「講談倶楽部」昭和26年〜27年
 「二重生活」
(折原一・新津きよみ)(1996)
 「合わせ鏡の迷宮」
(愛川晶・美唄清斗)(1996)
 「白銀荘の殺人鬼」
(彩胡ジュン[二階堂黎人+愛川晶])(2000)
 「キラー・エックス」
(クイーン兄弟[二階堂黎人+黒田研二])(2001)
 「千年岳の殺人鬼」
(二階堂黎人+黒田研二)(2002)
 「永遠の館の殺人」
(二階堂黎人+黒田研二)(2004)
 「ルームシェア」
(棟方キメラ【二階堂黎人+千澤のり子】)(2004)
中絶作・遺作に続きを書いたのは次の作品。
 「樹のごときもの歩く」
(坂口安吾・高木彬光)(1957)
 「日曜日は殺しの日」
(天藤真・草野唯雄)(1984)
 「龍野武者行列殺人事件」
(山村美紗/西村京太郎)(1997)19〜20章を西村京太郎が書き足した
 「在原業平殺人事件」
(山村美紗/西村京太郎)(1997)10〜12章を西村京太郎が書き足した
外国のリレー小説で有名なのが、イギリス探偵小説家が集まったディテクション・クラブのリレー小説だ。

  「屏風のかげに」
(ヒュー・ウォルポール/アガサ・クリスティー/ドロシー・セイヤーズ/アントニー・バークリー/E・C・ベントリー/ロナルド・ノックス)(1930)
  「漂う提督」
(チェスタートン/ホワイトチャーチ/コール夫妻/ヘンリー・ウエイド/アガサ・クリスティー/ジョン・ロード/ミルワード・ケネディ/ドロシー・セイヤーズ/ロナルド・ノックス/F・W・クロフツ/エドガー・ジェプスン/クレメンス・デーン/アントニー・バークリィー)(1931):書き手各自による予想解決編付きだった。
  「ザ・スクープ」
(ドロシー・セイヤーズ/アガサ・クリスティー/E・C・ベントリー/アントニー・バークリー/F・W・クロフツ/クレメンス・デイン)(1931)
  「弔花はご辞退」
(ドロシー・セイヤーズ/E・C・R・ロラック/グラディス・ミッチェル/アントニー・ギルバート/クリスチアナ・ブランド)(1931)
  「殺意の海辺」
(ディクスン・カー/ヴァレリー・ホワイト/ローレンス・メイネル/ジョーン・フレミング/マイクル・クローニン/エリザベス・フェラーズ)(1931)
  「警察官に聞け」
(ジョン・ロード/ヘレン・シンプソン/グラディス・ミッチェル/アントニー・バークリー/ドロシー・セイヤーズ/ミルワード・ケネディ)(1933)
  「ホワイトストーンズ荘の怪事件」
(ジョン・チャンスラー/ドロシー・セイヤーズ/F・W・クロフツ/ヴァレンタイン・ウィリアムズ/アントニー・アームストロング/デイヴィッド・ヒューム)(1939)

 アメリカでは、フランクリン・ルーズベルト大統領の原案を元にヴァン・ダインらが書いた「大統領のミステリ」が有名だ。
  「大統領のミステリ」
(ルパート・ヒューズ/サミュエル・アダムス/アントニー・アボット/リタ・ワイマン/ヴァン・ダイン/ジョン・アースキン)(1935)
  「裸のフェニックス」
(ネヴァダ・バー/J・D・ロブ/ナンシー・ピカード/リザ・スコットライン/ペリー・オショーネシー/J・A・ジャンス/フェイ・ケラーマン/メアリ・ジェーン・クラーク/マーシャ・タリー/アン・ペリー/ダイアナ・ガバルドン/ヴァル・マクダーミド/ローリー・R・キング)(2002)

外国で遺作に続きを書いたのは次の作品。
 「エイプリルロビン殺人事件」
(クレイグ・ライス/エド・マクベイン)(1958)
 「夜の闇の中へ」
(コーネル・ウールリッチ/ローレンス・ブロック)(1987)
 「プードル・スプリングス物語」
(レイモンド・チャンドラー/ロバート・B・パーカー)(1989)

参照 春陽文庫 「五階の窓」(江戸川乱歩他)
   春陽文庫 「江川蘭子」(江戸川乱歩他)
   春陽文庫 「殺人迷路」(森下雨村他)+「悪霊物語」(江戸川乱歩他)
   春陽文庫 「黒い虹」(江戸川乱歩他)
   春陽文庫 「畸形の天女」(江戸川乱歩他)
   春陽文庫 「女妖」(江戸川乱歩他)+「大江戸怪物団」(江戸川乱歩他)
   及び上記6冊の解説(山前譲)
早川ミステリ文庫 「殺意の海辺」(ディクスン・カー他)
   講談社 江戸川乱歩全集「続幻影城」(江戸川乱歩)
   早川書房 雑誌「ハヤカワミステリマガジン」
   幻影城 雑誌「幻影城昭和51年4月号」「解説連作・合作探偵小説史」(玉井一二三)


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