『虹の向こうから』


                by しのす


時計に目をやるのは何度目だろう。
彼女は待ち合わせの時間に1時間も遅れている。
・・・来ないのかな。

彼女は大きな瞳が印象的な女の子だった。
その瞳を一目見た瞬間に僕は恋に落ちた。
思いが通じて僕たちはつきあうことになった。
そして4回目のデート。
時間は彼女が指定したのだが・・・来ない。

急に雨が降り出した。
待ちぼうけをくった上に雨に降られるなんて。
・・・ついてない

と、降りだした時のように、雨は突然やんだ。
空を見上げるときれいな虹がかかっていた。
もしかして、と僕は思った。
彼女は「2時に会いましょう」と言ったのだが、それは間違いで、
「虹に会いましょう」と言いたかったのではないだろうか。
・・・まさか。

その時向こうから彼女が駆けてきた。
それはまるで虹の橋を駆け下りてきたかのようだった。
彼女は大きな瞳いっぱいに涙を浮かべていた。
彼女の髪も雨にぬれてキラキラ輝いていた。
僕のそばまでやってくると、肩で大きく息をしながら僕を不安げに見た。
「ごめんなさい、どうしても出られなくて。すごく待った?」
彼女の涙がこぼれそうな瞳を見て、僕に何が言えただろう。
「いや、たいして待ってないよ」
「本当?」
「うん、本当さ。それより、きれいな虹」僕は消えかかった虹を指さした。
彼女は振り返って虹を見上げると、笑顔になった。
「本当、急いでたから気づかなかったわ」
「なんか虹の向こうから駆けてきたようだったよ」
「えっ」
「なんて子供みたいなこと言っちゃった。ねえ、大人っぽいことしよう」
そう言うと僕は彼女の肩を抱いて街に出た。