「選挙」



「こちら村崎選挙事務所ですが、今回の選挙でぜひ村崎太一をよろしくお願いしま
す」
「はい、わかりました。ご苦労様」僕は愛想よく言うと受話器を置いた。
「だれ?」妹のアカネが週刊誌から視線をあげて尋ねた。
「あ、村崎候補の事務所からの電話さ。今度町長選挙があるだろ。それで村崎候補を
よろしくだって」
「でも」とアカネは非難するような目で僕を見た。
「昨日は今の町長の事務所からのの電話に愛想よく返事してたじゃない」
「うん、今の町長は、何回か仕事を依頼してくれたしね。でも村崎候補だっていくつ
かの調査を依頼してくれたんだぜ」
「そういうのって、節操ないっていうんじゃないの?」
「しかし探偵というものはだな」
電話がなった。
今度はまた別の候補者だった。僕は愛想よく返事をする。
「また別の候補者なの?」僕はうなづく。「で、だれに?投票する気?」
「誰にも。投票してもなにも変わらないだろ。どうせ今の町長がまた当選するだろう
し。この町は少しも変わることはないよ。」
そう答えると、アカネは週刊誌を放り出し呆れた顔で僕を見た。