「タスケテ、クダサイ」


 人里離れた山奥での事じゃ。
 両親を亡くした一人の青年が、古びた小屋に住んでおった。
兎を追い、山菜を採り、農地を耕して生活しておった。
 一人で寂しくなかったかと?うんにゃ、青年は平気じゃったんじゃよ。自然の中で、
心豊かに暮らしておったんじゃ。

 じゃがある風の強い夜のこと、誰かが自分のことを呼んどる気がして戸を開けると、
外には誰もおらん。気のせいかと思うて家に入ろうとして、驚いた。
戸に真っ赤な血で「タスケテ」と書いてあったんじゃ。
 新鮮な血で薄気味悪う思うたんじゃが、誰の気配もないんで、家に入ってしもうた。
その夜はもう何も起きんかったそうな。
 次の日の朝起きてみると、字は消えていたそうじゃ。夢じゃったんかと思い、
いつも通りの野良仕事に出かけた。
 仕事を終えて、その夜。また名前を呼ばれた気がして外に出たんやと。
 やっぱ、だれもおらん。すぐに戸を見ると「タスケテ、クレ」と書いてあったそうじゃ。
やはり新鮮な血のようじゃった。あたりを見回したが、そんうち恐ろしうなって、家に飛び込むと
すぐに布団にくるまって寝ちまったそうな。
 次の日の朝、やはり文字は消えとったそうな。
 誰かのいたずらにしては気味が悪い。
 少し離れたところに住む年老いた坊主に聞くと、
 「そりゃあ、ばけもんだで。ばけもんがいたずらしとるんや。気いつけや」
と言っただけじゃった。

 また夜が来た。戸の後ろですぐに飛び出せるようにして待った。
 そしてまた誰かが呼んだんじゃ。
 すぐさま戸を開けたが、外にはやはり誰もおらん。
 戸を見ると「タスケテ、クダサイ」と血の文字。
 いい加減頭さ来て、
 「誰だっ、こげないたずら、するとは?助けてほしいだと?
いくらでも助けてあげるわい」
と言いよった。

 すると凄まじい風がわき起こり、戸にたたきつけられたと。
 次の瞬間強烈な痛みと暖かい物を身体に感じた。
 何気なく自分の手を見て、驚いた。
 両手がばっさりともがれていたんじゃ。
 「太助、手くれて、ありがとう」
 ばけもんの声が風にのって、太助の耳に届いたそうな。
 タスケテ、クレと言うばけもんにタスケテ、ヤルゾとこたえた太助の話じゃった。
 風の強い夜は気いつけんしゃい。

 とってんぱらりん、ぷー