「愛しのジャック」


                by しのす
 ジャックナイフを閉じた。そのパチッという音に俺はいつもながら背中がぞくぞく
するのを感じた。
 普段は10センチの鈍い銅色の柄だけだが、開くとさらに10センチ伸びて全長20
センチのりっぱなナイフとなる。
 柄は手にフィットし、重量も心地よく、握っているだけで心が休まる。 ナイフの
刃の見事な曲線は女性のそれと似て、
俺を夢中にさせる。
 使い心地がまたいい。これまでに何人かの女の首を掻き切った時の感触。すばらし
い切れ味だ。
血がナイフの刃を伝い、彼女は渇きをいやす。 
 今もインターネットに夢中な美子の喉を掻き切ったばかりだ。ナイフは満足してく
れたようだった。
 満足したナイフの血を拭い、刃を閉じた俺は、美子の見ていたRatRaceProject
というホームページに釘付けになった。
 なんとそこには俺のことが書いてあったのだ・・・
  『ジャックナイフを閉じた。そのパチッという音に俺はいつもながら背中がぞくぞ
くするのを・・・』
 その後に俺の行った殺人と、ついさっき殺した美子のことが書かれていた。それはま
さに俺しか知らないことだった。
 俺のナイフに対する熱烈な愛情も書かれている。
 さらに先を読むと、
  『その後に俺がいままでに行った殺人と、ついさっき殺した美子のことが書かれてい
た。それはまさに・・・』
 と狼狽する俺の様子までしっかりと書かれていたのだ。さらに先が書いてある・・・。
  『これは誰か俺のことをお見通しの奴がいて書いているんだと思った。そいつの目か
らは逃れられない。
 もしかしたら神なのかもしれない。俺はもう逃れられない。
 こうなったら打つ手はひとつ。俺の愛するこのナイフに自分の命を・・・』
 なんだって!これは自殺を意味しているのか?馬鹿馬鹿しい、いったい誰のいたずらか
しらないが、
 俺は自殺なんかしないぞ!
  『いや、しなければならない。』
 これは・・・勝手に文字が書き込まれていっている・・・
  『人を殺した俺は自分を殺すのだ!』
 しかし・・・
  『俺は、愛するこのナイフに、自分の命を、与えた。』
  俺は、愛するこのナイフに、自分の命を、与える。