「待ちすぎて」


                
 サントリーのバーがあることは知っていたが、キリンのバーがあるとは知らなかった。

 吹き抜けで高い天井の店内には、ジャングルにある木々が置かれている。
 この場所を指定されたが、待ち合わせ時間から、もう1時間以上たっている。
 「まったく、佳奈のやつ」とぼやきながら、4杯目のビールを口にする。
 銘柄は……言うまでもないだろう。
 店内は混み合って、ビー玉のような目をした客ばかり。
 はやっているんだな。
 ウェイターが、クロワッサンにハムとレタスをはさんだサンドを運んでいく。とても食べられた代
物ではないが。
 「ビールを」と、そのウェイターにビールの追加を注文した。
 「何かおつまみは?」
 「必要ない、ビールだけくれ」

 さらに30分がたって、やっと佳奈がやってきた。
 「佳奈あぁぁ、早いなぁ」と、嫌みたっぷりに言う。
 「ごめん、待ったあ?」
 「もう1時間半、待ってる」と6杯目のビールをかかげてみせた。
「待ち過ぎて、首が伸びちまったよ」
 佳奈はくすくすと笑った。
 「もともと首は長いでしょ。キリン、なんだから」
 「そうだな」首を伸ばして、店内の木の葉っぱを食べる。ビールのつまみにぴったりだ。まわりを
見まわすと、ビー玉のような目をしたきりんたちが、高い天井の店内で盛り上がっていた。
「しかし、キリンのバーがあるなんて、知らなかったよ」