『テーマ館』 第30回テーマ「無題」


さもってお 投稿者:しのす  投稿日:11月04日(木)23時13分27秒

      「さもってお」
      彼女は確かにそう言うと泣きながら去っていった。
      彼女が去っていったのにはょックを覚えたが、それ以上に「さもってお」という言葉に
      ショックを受けた。
      さもってお
      これはいったい全体、どういう意味なのか・・・
      この言葉の意味が解けたら、彼女の去っていった理由もわかるはずだ。

      その日から僕の「さもってお」の解読の日々は始まった。
      逆から読んだら「おてっもさ」、おてもさ〜ん、って「おてもやん」か・・・
      一字飛ばしで、「さっお」、何?薩夫、って人名か?
      もしくは「もて」。何のことやら。
      逆読みで一字飛ばしは、「おっさ」「ても」、おっさん、わても?
      字をずらすという読み方もあるはずだ。しゃてとか、すゆとなき、せよなにく…
      もしくはsamotteoの並び替えか?さもてと、そめとと、そまてと、そめたと…
      ローマ字入力で「さもってお」という仮名をキーボードを打ってみては。xmZw6
      仮名入力でsamotteoと打ってみては。とちもらかかいら…

      そうこうするうちに、数日が過ぎた。とにかく誰にも会わず部屋にこもりっきりで
      僕は解読に没頭した。しかし…
      どうしてもわからなかった。彼女が去ったことよりも「さもってお」という言葉が
      解けないことが悔しかった。
      そこでとうとう彼女に会いに行くことにした。
      彼女は僕に会うのを嫌がったが、とうとう会ってくれた。
      「さもってお、って君は言ったけど、あれってどういう意味だったの?」
      すると彼女は僕の顔を不思議そうに見て頭を振ると、
      「せてへけも、たらいめふ」と言った。
      「え…」と混乱する僕に彼女のお母さんも「しいめたかか」と言った。

      テレビもラジオも田舎の両親も、コンビニの店員も誰も彼もが僕の理解できない
      言葉を話していた。
      僕だけが言葉から孤立してしまったようだ。
      誰にも理解されず、誰も理解できず、僕はただ唯一知っている言葉を口にして消
      えよう。
      さもってお…