「R360」


                by しのす

 「ちょっと、待って」
 僕はカラオケからの帰りにゲーセンの中に懐かしい筐体を見つけた。
 ここは2階がカラオケボックス、1階がゲーセンになっていて、初めて来たのだが、
1階のゲーセンにかたつむりの殻のようなリング状の筐体を見つけてしまった。
 近くによって見るとまぎれもない、「R360」だった。高校生の時のことが蘇った。

 「R360」はセガが開発した究極の体感ゲームマシンだった。リング状の筐体の真
ん中にすわり、「ジー・ロック」をベースとした戦闘機のシューティングを楽しめるゲ
ームだ。名前の通り、上下左右に360度回転しまくるゲームで、一回500円だった。
出た当時はゲーセンの中でも最も目立っていた。実際これに乗ると人だかりが出来
た。外にいる人にもゲーム画面が見られるように外にモニターがあった。これに乗る
時には店の人が必ず一人つかなければならなかった。当時冗談で上向きの時に気
持ち悪くなって吐いたら最悪だなとか言ったものだ。ゲーセンが遊園地になったよう
な気がした。
 僕は高校生で、ものすごい期待をして500円という大金をはたいて乗ったが、結
局3回だけで、もう乗るのはやめてしまった。

 「どうして?」
 「夏が終わったさ」
 「え、夏が終わった?・・・って、秋?」
 「そう、あきたのさ」

 実際、「R360」は究極のゲーム筐体ではあったが、ゲーム自体は古いタイプで、す
ぐにあきた。しかもこれ以上の筐体はもう現れることはない、と思った僕は、ゲームとい
う物に見切りをつけた。「R360」はまさしく僕にとってゲーム卒業、大人への一歩となっ
た思い出のゲームと言ってもよかった。

 恐竜の化石のような「R360」を見て、久しぶりに乗ってみたくなった。乗り口にまわると
「整備中」の看板が掛けられていた。僕は少しがっかりした。料金は500円のままだった。
料金箱を軽くたたくと僕は睦美を振り返った。
 「さ、行くか」
 「乗れなくて残念ね」
 「いいさ。ゲームよりも素敵な物はたくさんあるから」
 「例えば?」
 「君と食べるステーキ、とか」
 「もう。今日は和風がいいわ」
 「屋台で、おでんは?熱燗もきゅっと」
 「おやじぃぃ。でもいいわね、寒くなってきたから」
 僕は君といればいつも暖かいさ。そう心でつぶやくと、僕は睦美の肩を抱いてゲーセンを
後にした。