「ランディ・フォードと空白の謎」  


                by しのす

 「せ、先生っ、これは・・・」と留学生のカトーがあわてふためきながらやってきた。
 手には汚らしい紙切れを持っている。
 考古学専攻の大学教授ランディ・フォードは、その紙切れを奪い取って見た。そこには 
                       innednihsonUsesmarahozanonknilgnissim
と書かれていた。
 「むむむ、これは・・・」と言って、ランディは30秒間黙り込んでしまった。
カトーはじっとランディを見て次の言葉を待っていた。ランディはカトーの顔をじっとみつ
めて、そしてきいた。
「・・・何だ?」
 「これにはミッシングリンクの事について書いてあるんです。先生からお借りした本の
間にはさんであったのですが・・・」
 「そうか・・・。で、何て書いてあるだ?」
 「知りたいですか?」とカトーがいじわるい顔をした。
 ランディは紙をカトーに渡すと、よそを向いて口笛を吹いた。「ぜーんぜん。僕忙しい
から興味ないね」
 「そんな、きいてくださいよ」とカトーがランディの視線の先にまわる。
 するとランディは両目をつぶって、両手を耳にあてた。「きーかないもんねー」
 「もう、勝手に言いますよ。」とカトーはやけになって言った。「これは日本語です。右
ら読んでみると『ミッシングリンクの謎はラムセス2世の神殿に』と書いてあるのです」
 「がっちょーん、なーに、それっ」ランディはカトーから再び紙を奪うと、右から読んで
みた。「うむむ、ラムセス2世と言えば、古代エジプトの太陽王。その神殿にミッシング
リンクの謎を解明する物があると言うのか。なんというすごい情報。これはさっそくエジ
プトに飛ぶぞ」
 「先生、僕もお供します」
 「よし、君がいてくれると心強い。」とランディは言い切った。「ただし旅費・宿泊代・食
費すべて自分で持つこと」

 ランディ・フォードは大学で考古学を教えているが、「インディ・ジョーンズ」シリーズ
を見てから、すっかりインディ気取りである。最近は大学の風当たりも強く、さすがに
教授業も真面目にするようになった。彼についてはここを読んでみて
ほしい。他にもモンゴルの石窟や日本の真寺(まじ)という寺など世界中で冒険を重ね
ていた。
 飛行機の中でランディは自分の前にワインをずらりと並べさせて上機嫌だった。      
  「ただほどうまいものはない。スチュワーデスさん、もっともっててね。ところで」と急に
真面目な顔になってカトーを見る。 「ミッシングリンクって知っているか?」
 「はい。クロマニヨン人と現代人とを進化論的に結び付ける骨が実際には発見されて
いないことから、その間に空白、つまり失われた環(ミッシングリンク)があるという話で
しょ」
 「・・・そう、その通り」ランディは自分の言いたいことが言われてしまったので、言うこ
とをなくしてワインをがぶ飲みした。

 探検隊(といってもランディとカトーの2人だけだったが)は、エジプトのラムセス2世
のアブシンベル神殿に着いた。
 「やはりラムセス2世の神殿と言えばここだろう。」と言った後、ランディは吐いた。飛
行機を降りてからずっと吐きっぱなしだった。飲みすぎたらしい。
  「大丈夫ですか?」と聞きながらもカトーは卑しいんだから、という目をしている。
  「うむむ、さ、中に入るぞ」
 神殿の前にはラムセスの巨像が入口の両側に2体ずつ並んでいた。
 中に入っていくとヒッタイト人とラムセス2世の戦いの様子を記したレリーフが壁にあ
った。
 その時、神殿の奥から顔から手から毛むくじゃらの男が近寄ってきた。
 「もしや・・・」
 「待て」と男はブラウンの3枚刃ひげ剃りを取り出すと、ジジジと剃り始めた。しかし鼻
毛でジとひげ剃りは止まってしまった。「イチチチ」と男はひげ剃りを引っ張り、鼻毛が
10本プチンと切れた。
 「ダディ」とランディは叫んだ。
 「よお、ランディ。」と涙目でランディの父、フレディが手を挙げた。「ひさしぶりだ。」
 「どうしてここに?」とランディは疑わしげに父を見た。「まさか盗聴器を大学に仕掛け
たとか?」 「ぎくっ」
 「僕たちを尾行したとか」 「ぎくっぎくっ」 
 「父さんっ!」
  「ま、ひさしぶりに会えてよかったじゃないか。それよりこれを見ろ。ラムセスとヒッタイ
トの戦いと言われてきたレリーフじゃが、この丸い物は何じゃと思う?」
 戦っている人たちの絵の上の方に丸い絵が描かれている。「太陽か、月か・・・」
 「ちがうな、太陽はあそこに描かれている。」
 「これは旅行客がいたずらで描いた皿か灰皿の絵ですよ」
 「馬鹿な。これは、UFOじゃよ。古代エジプトにもUFOはしょっちゅう訪れておった。もっ
と昔からな。つまりミッシングリンクの謎はUFOさ。UFOがクロマニヨンに手を加えて現代
人を生み出したのだ」
 「何かすごい飛躍が・・・」
 その時、入口からいきなり飛び込んできた男が2人。
 「フレディ、追いつめたぞ」それはジェイソン大佐といって、ランディの父フレディに恋人
を盗まれたと誤解してずっと復讐に燃えている男だった。
 「ジェイソン、いい加減・・・」フレディがなだめようとしているのにかまわず、ジェイソン大
佐はフレディに突進した。
 「こんな狭いところで危ないっ」「うおぉぉぉぉ」「ぎゃっ」
 フレディはジェイソン大佐の体当たりをくらって吹っ飛び、壁に頭をぶつけてのびてしま
った。ジェイソンも力余って顔から壁にめり込んで、倒れた。
  「ダディ、大丈夫?」ランディが近づいて声をかけると、フレディは意識を取り戻した。
 「いや、・・・もう食えん・・・、むむ、ここはどこじゃ?」
 「しっかり。エジプトのアブシンベル神殿です。」
 「いつの間に・・・。おやジェイソンも転がっておる。何してるんだ、息子よ」
 「だからミッシングリンクを探して、ここに来たんでしょ。あのレリーフはUFOで−」
 「馬鹿な。UFOなんぞ、おらんわ。ありゃ、誰かがいたずらで描いた皿か灰皿の絵じゃろ」
 「は?」「だってさっき・・・」
 「わしは帰るぞ。ラム肉のステーキを食べていた途中じゃった・・・」そしてフレディ退場・・・。
 「いったい、これは?」
 「さあ、何なんだろう?」
 「先生、この倒れている人は・・・」
 「ほっとこう。僕らもここを出て、エジプト見物でもするか。」
 「ミッシングリンクは・・・」
 「どうでもいいさ。」

 エジプト観光から戻ってきて大学の研究室でのこと。 
 「実はあのメモは、エジプトに行ってみたかったからただ冗談で書いたんだ。」とランディは
笑って言った。
「最近、大学がうるさくてさ。ろくにに外出もできん。」
 「でも先生、日本語が・・・」カトーはあっけにとられた顔をしている。
 「僕は日本に行っていたんだ」とランディはにっこり笑った。「簡単な日本語くらいわかるさ」

(^^(^^(^^(^^(^^(^^(^^
作者より
ランディはお気に入りの馬鹿話のキャラです。
ここでリレー小説として続きを
募集しているので、是非参加してあげて下さい。