『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


こんがりショコラ 投稿者:しのす  投稿日:08月27日(金)00時50分49秒


   「う〜む、やはりおおもりだろう〜」と警部補が大きな声で言った。
      僕はまた食い意地はったこと言い出してと思った。
      その時丁度執事がドアを開けて部屋に入ってきたところだった。
      「なみではしっくりとこん。わしは絶対おおもりだと思う」
      執事はお茶を持ってきたのだが、こぼしそうになりながら我々に配るとそそくさと
      出ていった。警察が嫌いなのだろうか。
      「しかし警部補、蕎麦の大盛りは、下になればなるほど麺が微妙に固くなっていき
      ませんか。その点並で頼めば、そんな悩みも解決、足りなければまた追加すればい
      いのです」と刑事。
      とても殺人事件現場での会話とは思えない。蕎麦よりももっと議論すべきことはた
      くさんあるはずなのに・・・。
      「いや、そう簡単には、固くはならんぞ」と警部補が大盛りの弁護にまわった。
      執事が再び入って来た。手にはお菓子を持って来ている。
      「お前は固くなるかどうかを問題にしているが、そんな短時間では固くはならんぞ。
      勉強不足だ」そう言えば警部補は大食いだから、大盛りでもあっと言う間に平らげ
      てしまうだろう。
      執事はお菓子を机の上に置くとそそくさと出ていった。
      「おっ、こんがりショコラか。うごぐうぐぐ」警部補は口の中に一気に詰め込んだ。
      「警部、大丈夫ですか」と僕は心配して尋ねた。
      「ばいびょうぶ」おいおい、本当に大丈夫なのかね〜
      警部補は目を白黒させてお茶を手にすると口の中に流し込んだ。
      「ひゃあ、死ぬかと思った。もう少しで、うぐぐ、あの執事、殺人犯だぞ」
      大きな声でそう言った時にまた執事が入って来た。最後の言葉を聞いて、執事は真
      っ青な顔になると言った。
      「・・・恐れ入りました。さすが警部補様。私が犯人だとどうしてわかったのです
      か。アリバイを作るために死体の硬直を早めようとしたのですが、それも見抜かれ
      てしまったようで。短時間では死体は固くなりませんでした」
      警部補は黙ってうなづくだけだった。
      「そうです。私、大森修平がご主人様を殺しました。奈美奥様に罪を着せようとし
      たのですが、それも見抜かれたようで。敬服しました。さ、逮捕して下さい」
      「うむ。犯人があなただということは明らかだった」と警部補は言った。
      「あなた以外に被害者の毎日のトイレに入る時間帯をきちんと知る者はいなかった
      のだから。さ、手錠をかけなさい」
      犯人は逮捕され、連行されていった。
      しかし、これは一体・・・僕は呆然とこんがりショコラを食べ続ける警部補を見て
      いるだけだった。