「セピア色の君」


                by しのす
セピア色の君の写真。
遠くに君が写っている。
君の笑う横顔がピンぼけ気味に写っている。
おさげ髪にセーラー服で笑っているね。
写真部の広田に頼んで盗み撮りしてもらった奴さ。
え、知らなかった?

あの頃はいつも自転車で通学する君を見ていたよ。
スカートが揺れて、そこからのぞく素足が眩しくて
いつも目をそらしたものさ。
君が通り過ぎるといつも春風が通り抜けたようだった。
君の髪のにおいに、うっとりとしたよ。

忘れもしない卒業式。
「新たなる旅立ちを祝す」なんて校長の祝辞は嘘だと思った。
君と離れ離れになることが悲しかったんだ。
僕は高校3年間の想いを君に打ち明けようと思った。
卒業式の後で君に話しかけようとした。
でも、できなかった。

こうして再会できてうれしいよ。
あの時君に渡したいものがあったんだ。
白金のネックレス。
母の大切なものだったんだけど君にあげようと持ってきたんだ。
この箱の中に入れたまま、あれっきりになっていたんだ。
もう母もなくなったし、何のこだわりもなく君にあげられるよ。
受け取ってほしい。

よろこんでくれて、うれしいよ。
あの時の想いは今も変わっていないんだ。
言えなかった言葉が今なら堂々と言える。
僕と、つきあってくれ。
・・・・。
え、本当に?よかった。人生で最良の日だ・・・。

「おかあさん、おじいちゃんが今日も仏壇に向かってぶつぶつ言ってるよ」
「いいのよ。最愛のおばあちゃんに話しかけてるんだから。
あんなに愛されておばあちやんも幸せだわ。ね、あなた」
「君は?どうだい?」
「わたし?・・・わたしも、しあわせ、よ」