くものいと 「なんでお前が生きてるんだ!」 「お前のせいであの人が……!」 「わしの孫を返せ!」 「死ね!」 「化け物!」 「殺してやる!」 物心がついたころには、オレの世界は闇の中にあった。 幼い自分に与えられるのは 憎しみ、罵声、冷たい視線、そして暴力、殺意 三代目火影が保護しているといっても、それは名ばかり。 火影の仕事は忙しく、実際にオレと関わることができる時間は少ない。 そのため、オレの療育は人に頼まざるを得ない。 しかし、信頼に足ると判断された大人も、皆九尾の被害者。 大人は皆オレと九尾を同一視し、憎しみはオレにぶつけられた。 何度も死にかけた。 でもその度に体は勝手に傷を癒す。 生きているのではなく、ただ生かされているという感覚。 繰り返すうちに、受けるダメージを軽減する方法を学んだ。 自分の身を守る方法も身につけた。 馬鹿を装うこと。 恐れる必要のない存在であると思わせること。 そして、殺意には殺意で返す。 確実に殺す。 実は抵抗する力があることが絶対に広まらないように。 封印された九尾のことに関する掟。 この存在は都合がよかった。 合法的に処理ができる。 こんな環境でまともな子供に育つはずがない。 できあがったのは人の愛情を知らない、大きな闇をその内に秘めた子供。 ナルト、4歳。 ◇ ◆ ◇ ◆ 「ナルト、新しい教師兼遊び相手を紹介する。 うちはイタチ。 先日中忍になったばかりだが、それと同時に暗部入りを果たしたエリートじゃ」 「えりーと?おにいちゃん、つよいんだねー。 かっこいいってばよ!」 にこーと笑ってイタチと初対面。 「……」 怪訝な顔をして火影を見やるイタチに火影は無言でうなずいた。 「イタチ、あとは頼む。 ……ナルト、仲良くするのじゃぞ」 「ばいばい、じっちゃん」 笑顔で手を振り三代目火影を見送るナルト。 扉を後ろ手に閉めながら火影は優しく笑い返した。 「ねえ、にいちゃ…… イタチに駆け寄ろうとして、ナルトがつまずいてころんだ。 うーいたいってばよ〜とつぶやき、自分で起き上がろうとすると、その前にイタチがナルトの腋の下に手を差し込み、立ち上がらせた。 「あー、ありがとうってば」 礼を言うナルトにイタチは苦笑する。 と言っても、表情はほとんど変わらず、変わったかどうかパッと見では分からないようなものだったが。 「可愛いとは思うが、やめないか?それ」 目が、道化になりきれていない。 「……へえ、でも気づかれたの、あんたが初めてだよ」 スッと目が細まる。 「オレもまだまだ甘いな。 まあ、俺の目をまっすぐ見る奴なんてめったにいないけど。 皆、フィルター付けてオレのこと見るからね」 「フィルター?」 「…化け物、狐、そうやってオレを憎んでいる目」 そう無表情に言った。 「……そうか」 「で?どうするの?あんたもオレを殺すの? でも、そう簡単に死んでやる気はないから…」 暗く笑い、全身でイタチを警戒するナルト。 隠し持っていたクナイが唯一の武器だった。 「殺す?どうして? 俺は……君の、ナルトの教師兼遊び相手だ」 何もする気はない。ましてや殺すことなど。 その気持ちを表すため、両手を広げてみせた。 そして目元を緩め、口角をやや持ち上げて優しく微笑んだ。 家族ですらめったに見ることのないイタチの微笑み。 そのイタチの表情を見て、言葉を聞いてナルトは目を丸くした。 こんな目で自分を見る人間なんて知らない。 こんな声で自分に話しかける人間なんて知らない。 こんな声で自分の名前が呼ばれるなんて、呼ぶ人間がいるなんて……。 そっとイタチはナルトを自分に引き寄せ、優しく抱きしめた。 こんな感触知らない。 こんな温かさなんて…… こんな…… 手から力が抜けて、クナイが床に高い音を立てて落ちた。 「……イタチ……」 ……ねえ、信じて、いいの……?…… 真っ暗闇だった心。 そこに一筋の光が差したような気がした。 くもの糸のようにほそい、ほそい…… ねえ、それに、すがっても、いい…ですか…? |