ドゴー!

大きく響き渡る地響き。
「な、なんだ!?」

大晦日のお祭り騒ぎもようやく終わり、静けさが戻ったはずの里に響き渡った地響きに、木の葉の里の住人は飛び起きた。





* *  あ り え ね ぇ !





何もなかったはずの空間に突然現れた大きなチャクラの塊。
そして里を暴れまわるその物体。

……このチャクラはガマ親分だな。
一体何がどうなってるんだ!?

「うおおおおお!!!!!!」
ガマブン太の悲痛な叫び声。
それと同時に発せられる衝撃波。
割れるガラス。
飛ぶ瓦。
里人の悲鳴。

おいおいおいおいおい!
台風以上の被害じゃねーか!
ちっ!
ガマ親分、何やってんだよ!

ナルトは先ほどの衝撃波で散らかされた部屋をうんざりと一別したあと、暗部として活動する姿に変化し、窓から飛び出した。

くそ!この件が片付いたら、正月早々掃除かよ!
寝正月決め込もうと思ってたのに!

ナルトは内心でグチりながら、騒ぎの原因であるガマブン太がいる里のはずれに向かう。
途中、衝撃波を避けたり、衝撃波を受けて飛んでくるガラスやら瓦、看板類を避けたり、それに当たりそうになっている里人を助けながら。






「オイ!ガマ親分!あんた何やってんだ!」
「そのチャクラ…お前、ナルトか…!見違えたわい」
ナルトが話しかけたことで落ち着いたのか、叫び声とともに断続的に続いていた衝撃波が止まった。
「親分、誰に口寄せされたんだ?そいつが、里への攻撃を命令してるんだろ?」
「わしゃ、誰の指図も受けん!」
「じゃあ、何で!?」

「わしゃ、わしゃ……」

ガマブン太の瞳に涙が浮かび上がる。

「うおおおお!かあーちゃーん!!!!!!
くそお!酒だあ!酒持ってこーい!!!!!!」


再び発せられた衝撃波。
そして、吐き出される鉄砲玉。
近距離からの急襲に、慌てて横とびに避けた。
ナルトの真横を急スピードで通り抜けた鉄砲玉は里のすぐ横の森を直撃し、幾本もの木がなぎ倒された。
そして、跳ね上がった無数の水滴が雨のように降り注ぐ。

くそ。こんなのまともに相手してられるかよ!
めんどくせー!


「おい!お前、ナルトじゃろ?」
足元からする声。
「あ、ガマ吉じゃねーか。お前まで来てたのか」
「オヤジにくっついてきたんじゃ。荒れてたから心配してついて来たんじゃが、手が付けられん」
はあ、とため息をつくガマ吉。
「くっついてきたって、口寄せなしで!?
 自分たちの意思で来れるもんなのか!?
「当たり前じゃ!両生類をなめんなよ!」


それじゃあ、もしかするとその内バカでかいナメクジ蜘蛛なんかもそこ等を闊歩する可能性があるってことか?
いや、うろうろするだけならいいが、今回のように暴れられてみろ……
うわー、ゾッとする……。

暴れるもの達にお帰り願うことは、自分の力で何とかできるとは思う。
問題はその後。
里の復興作業。
里のダメージを回復中にも関わらず、減らない任務。
このときを狙ってくる他国の侵攻。
人手不足のため増強する個人への負担。
……頭が痛くなる。


そこまで考えて、はっとする。
再び放たれた衝撃波をガマ吉を抱えて避ける。
いけねえ、今はまず、目の前の親分を何とかしなきゃな!


「ガマ吉、親分に何があったんだ?」

「実はな、母ちゃんと喧嘩して、母ちゃんが怒って実家に帰ってしまったんじゃ

「夫婦喧嘩かよっ!」

「うちの夫婦喧嘩をその辺のと一緒にするのは間違いじゃけん!」

「……そうだろうな……」
でも、くだらない原因であることは間違いない。
この惨状の原因が夫婦喧嘩、夫婦喧嘩……ナルトの頭の中でエコーする。

「はじめはオヤジもうちでヤケ酒を飲んでたんじゃが、オヤジの飲む量は半端じゃないけん。すぐになくなってしもうたわい。そもそもオヤジの酒量を巡っての夫婦喧嘩じゃけん。近頃オヤジの血圧が高いけん、酒を控えるように医者に言われとったんじゃ。だから家にはそんなに、酒は置いてなかったんじゃ」

「じゃあ、親分は酒を求めてこっちにきたのか!?」
酒〜!酒〜!と叫んでいるので間違いないだろう。
「その通りじゃ」
やっぱり。
「酒を飲めばおとなしくなるんだな?」
「いつもは大体そうじゃ」
「そうとわかったらぐずぐずしていても仕様がない。行くぞ!」
「どこへ行くんじゃ!?」
「5代目火影様のところだよ!酒を出させる!」






「酒なら、ない!」
疲れた表情の綱手が開口一番、そうキッパリと言った。
「この惨状を見ればわかると思うが、今回の事件の被害者、第1号は私と火影屋敷だ」

ガラガラ…。

屋敷の天井のひび割れから破片とホコリが落ちた。

所々はがれ、石くずと化している床石。
穴が開いて夜空の星が見える天井。
大きなひびが入った壁。
吹き飛んで変形している扉。
無残に敗れたカーテン。
ひっくり返っている机や椅子。
散乱している書類。
割れた窓からヒューヒューと音を立てて入ってくる隙間風。
すべてがここで起きた惨劇のひどさを物語っていた。

「酒が切れたとたん暴れ出してな」
遠い目をして淡々と綱手が語る。
「木の葉中の酒を飲み尽くしたぞ。最低1週間は里中、皆禁酒だ。」
最低1週間は輸入されてくるまでにかかる。

「オイ。ガマ吉!酒飲んだら落ち着くんじゃなかったのか?」
「…今回はダメみたいじゃな…」
「ダメみたい…じゃねーんだよ!どうすんだ!」
そう言ったところでガマ吉が
「か、母ちゃんの所に行ってみるけんのう」
ボフン。煙を上げ、慌てた様子で消えた。
「あいつ、逃げやがったな」
仕方がないやつだ。

「綱手のバアちゃん、カツユでどうにかなんねーのか?」
「カツユはダメだ」
「なんで?」
カツユはブン太の奥方と懇意。奥方と喧嘩中のブン太の前に呼び出そうものなら……」

妖怪大戦争の開始……

綱手とナルトの顔が青ざめる。


「カツユはやめといたほうが無難だな。…となると、やっぱりオレが力ずくでどうにかするしかないか…」
面倒くさそうな表情で、チッっと舌打ちする。
「いや、ひとつ試してみたいことがある」






ピコーン、ピコーン

赤いランプが音を立てて回る。






複雑な印を組んで鍵が解除された回転扉をくぐると、現れたのは地下へと潜るエレベーターだった。
「こんなのがあったなんて」
「火影のみが知る通路だからな」
エレベーターで地下に潜ると、赤いランプが回る廊下があった。
廊下を進むと現れたのは大きな扉。

今の位置は火影の顔岩の真下あたりか……。
ナルトが歩いた距離、方角から判断する。

綱手は再び複雑な印を結んで扉の鍵を開けた。
扉の中にあったのは広いドーム型の薄暗い部屋。
壁には幾何学的な線が引かれており、その線を時おり緑色の光りが走っていた。
中央部には高さ1メートルほどの台。
その上に水晶が台から幾数ものケーブルにつながれていた。
水晶は緑色に淡く光り、その光はケーブルを伝い、部屋の壁を循環しているようだ。


「綱手のバアちゃん、ココは一体……」
中央の水晶の前に向かいながらナルトは尋ねた。
「この水晶にチャクラをこめて顔岩を動かす

……

「…え?」

「ナルト、お前は顔岩が火影の名誉のためだけに存在していると思っていただろう?」

「ち、違うのか?」

「ふふ、お前も甘いな。あれは来るべき日のために作られた兵器だ!

「は?来るべき日って何!っていうか、兵器!?顔岩が動いたからどうだっていうんだよ!」

「こうなる!」

30もの複雑な印を組み合わせて莫大なチャクラを練り上げる綱手。
そして、手を水晶に重ねる。
瞬間水晶が激しく光を放ち、その光はケーブルを伝い部屋中の壁の模様に光が浸透する。
水晶から光が放たれ、ナルトたちの前に映像が映し出される。
その映像は顔岩を映していた。

ゴゴゴゴゴ……

低い地響きがし、地面が揺れる。

「……う、動いた……マジかよ」
地響きとともに眼前では、衝撃の映像が映し出された。
4代目火影の顔岩の周りの岩壁にひびが入り、浮き出る。
徐々に、首、体、足が現れる。

……顔だけじゃなかったのか。
妙なところで感心するナルト。

火影の顔岩が動き、4代目の岩人形が動き出したことで、里に更なる混乱が起きたが、この際放置。(いいんかい!)
4代目の呪いだ〜
祟りだ〜
もうおしまいだ〜
ツルカメツルカメ……!
おかーちゃーん!
様々な里人の叫びが聞こえる。


「ふう」
額の汗をぬぐう綱手。
ぐらりと体が傾いた。
ナルトが綱手の体を支える。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっとチャクラを使いすぎた。すまないが、4代目の操縦は頼む。操作方法は説明するから」
「なに!?」
「そのためにお前をここに連れてきたんだぞ」
「……初めからそのつもりだったのかよ……」
「台の前に、コントローラーがある。チャクラを込めて持て」
綱手を床に座らせ、台を探る。
「コントローラー……」
この形はプレ●テ2の……!

「って、おもちゃじゃねーかよ!」

「失礼な!ちゃんと使える!」

「左スティックで移動ができる。強く倒すとダッシュだ。○ボタンで攻撃。□ボタンで武器が使える。×ボタンでジャンプ。△ボタンで奥義だ。スティックと○ボタンの組み合わせで技がでる。」

言われたとおりに動かしてみる。
「マジで、動いたよ……」
こんなおもちゃで!

あ 、 あ り え ね ぇ

動かすたびにチャクラが吸われるのがわかるが、この驚きの前ではさしたる問題ではない。
ダッシュでガマブン太の位置に向かう。
走るたびに地震が起きる。



「なんじゃい、お前は!」
地響きとともに近づいてくる4代目火影の顔岩体つき(岩製)に驚きの声を上げるガマブン太。

そりゃ、驚くよな、普通。

○○○↓←+○で瞬身の術だ。背後に回れる」
言われたとおりにコマンドを入力してみる。
本当にできた。
気が遠くなる。

本当にありえない
「次!○○○↓+○で木の葉体術奥義!
それってもしかして……
嫌な予感がするが命令に従う。

ずぎゃしゃあああああ!!!!!!!!

ああ、やっぱり。
ていうか、ホントに奥義だったの?

千 年 殺 し 。

驚きのためかモロにくらってガマブン太は空へと高く舞い上がった。
衝撃のためか空中で煙に包まれ消えた。
どうやら、無事に帰ってもらえたようだ。

そこまで確認して、ナルトは気が遠くなるままに身をまかせる。

ありえねぇよ、マジで。もう、勘弁してくれ……


「ナルト!」

オレの名を呼ぶ綱手の声が遠く聞こえた。






「……ナルト……ナルト……」

誰かに呼ばれる声がする。
誰だよ、オレは疲れてんだって。
嫌々ながら目を薄く開けると眼前にカカシのドアップの顔があった。
とっさにカカシと自分の顔の間に手を差し入れ、カカシの顔を力いっぱい押す。
「うわ!」
カカシの体が無様に床を転がった。
「カカシ、いきなり何しようとしてるんだ?お前は?」
「だって、呼んでもナルト起きないんだもん。眠り姫は王子の口付けで目を覚ますvセオリーでしょvv」
「はあ、誰が姫で、誰が王子だ……」
溜息をつきながらナルトが言う。
「ま、それはおいといて。ナルト、あけましておめでとう。今年もよろしく」
「ああ、おめでとう……」

ここまで言って、ナルトは咄嗟に部屋を見渡す。
散らかってない。
さっきまでのは夢だったのか?

「でね、ナルト……ってどこ行くの!?」
カカシを無視して、部屋を飛び出し、火影の顔岩が見える場所に向かう。

いつもと変わらない風景。
ひび割れた様子や、ましてや動いた形跡などない。
里もいたって平穏。

「よかった」
夢で。
ホッとして地面に座り込んだ。


「はあ、ナルト、何やってんの?そんなとこに座ったら汚れるよ?って、そんな薄着だし!風邪ひいたらどうすんの!」
帰ろ?
カカシの手が差し出される。
差し出されたカカシの手を見て、フッと柔らかく笑った。
カカシの手を握ってナルトは立ち上がった。
「じゃあ、帰るか」
そのまま手をつないで歩きだす二人。

カカシは内心、
ナルトのこの素直さはなに!?
今年こそ、イチャパラいけちゃったりする!?
とドキドキしながら歩いていた。


「そういえば、ナルトは初夢見た?オレはねえ……




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正月ネタコメディ小説。
テーマは初夢。夢オチ。
ちょっとでも笑ってもらえたら幸い。

2003/12/31