秋桜  


薄紅色のコスモスが満開に咲いている秋の日の庭。
このコスモスはこの家――日向家の長女であるヒナタが庭で4年前から育て始めたものだ。
年月を重ねるうちに数えるほどだったコスモスも増え、今年は縁側から見える風景はコスモス一色となった。



「ヒナタ、お前とうずまきナルトが付き合い始めたのもこのころだったな…。」
縁側に座ったヒナタの父であり、日向家の当主であるヒアシがコスモスを感慨深げに眺めながら、庭の草木に水を与えている娘に話しかけた。

「…はい、父上。」

「もう、4年になるのか…。早いものだな。」






4年前、ヒナタとナルトが14歳の時に二人はコスモス畑の中で思いを伝え合い、付き合い始めた。



日向家の長女と“あの”うずまきナルトが付き合うと言うことで、木の葉の里では一波乱も二波乱もあるかと思われたが、ヒナタの父親である日向家の当主が意外にも二人の付き合いをあっさり認めてしまったためそうはならなかった。

日向家の当主が認めたということで表立っては里の人間も何もできなかったが、やはり一部ではよく思わない者もいた。

しかし、そのころの少し前からナルトは頭角を表していて、二度目の中忍試験を合格してからはそれまでのドベなナルトが嘘のように活躍し、里に貢献していた。
ナルトを認める者も急激に増え、反対にナルトを悪し様に言う者は徐々に少なくなっていった。

ナルトはますます活躍するようになり、とんとん拍子に上忍になった。
この時のナルトは16歳。

決定的だったのは5代目火影である綱手が、実はナルトが4代目火影の嫡子であったことを公表したことだった。
それと同時に6代目火影の候補にナルトの名が上がった。
これまでのナルトの功績に加えて、明らかになった確かな血筋。
もはやナルトを九尾と罵るものは皆無となった。
この時のナルトは18になるのを目前に控えた17歳。






そして、18歳になった今年。
ナルトとヒナタが付き合い始めて4年目。






「ヒナタ、お前は昔から引っ込み思案で、まあ、今でもそうは変わらんが、うずまきナルトが関わったことに関してはいつも頑固なところがあったな。」
ほら、あのときもそうだった。
と、思い出話をする。

「もう、父上、またそのお話ですか。」
庭に水をやり終え、お茶を用意し縁側に座る父に指し出しながら、ヒナタは恥ずかしそうに言った。
「私の結婚の日取りが決まってから、父上は昔話が多くなりましたね。」
年を取った証拠ですよ。といたずらっぽく言う。
「ふむ、お前も言うようになったな。」
と苦笑するヒアシ。

「私も少しは大人になったんです。いつまでも引っ込み思案で自信がない私じゃないのですよ。」
「それもうずまきナルトの影響か…」
父親の言葉にうっすらと頬を赤らめながら、しかしはっきりとヒナタは答えた。

「あの人の前でみっともない姿は見せられないから…!」

その娘の言葉にヒアシは破顔した。
「ナルト君と付き合い始めてから、お前は二言目にはそれだな!」
「//////もう、父上ったらからかわないでください!」
しばらく父と娘は笑いあった。


思い出話しに花が咲く。


しかし、次第にしんみりとした雰囲気となった。



「いよいよ、明日だな…。」
結婚式。
「…はい。」


優しいだけの父ではなかった。
むしろ厳しさばかりが目立った。
そんな父だから、色々といざこざもあった。
でも、今は父の優しさばかりが心にしみこんでくる。


「ヒナタ、ナルト君と幸せにな…。」
優しく、しかしどこか寂しげにヒアシが言った。
「…父上…。」
ヒナタは目頭が熱くなるのを感じた。
「父上…、今日はまだあなたの娘です。
……もう少し、あなたの子供でいさせてください。」





父と娘は静かに寄り添っていた。
ナルトが日向家を訪れてくるまで……。






「ヒナタも、ヒアシさんも気が早いよ。
結婚式は明日が本番だってばよ?」
しんみりとしている父と娘の様子に苦笑してナルトが笑う。
本当だね、とヒナタも笑い、ヒアシも笑った。






明日はナルトとヒナタの結婚式。

小春日和の秋の日。
庭でコスモスが緩やかに吹く風に揺れていた。




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山口百恵さん(作詞作曲:さだまさし)の名曲をイメージして作ってみました。
ヒナタだったらしっくりくるんじゃ?と思って。
結果は上の通り。
どうでしょう?


因みに私はまだしばらくは嫁ぐことはないです(きっぱり)。
…まあ、あんまりきっぱり言い切れる状況も悲しくはあるけど。

2003/11/25