寝耳に水  


「…ムカツク…」

今日も暗部として任務(A任務だった)をこなし、報告書を提出。
任務中に問題なんかは起きるはずもなく、もちろんかすり傷一つない。
任務自体はナルトにとってはさほど難易度が高くないものだが、体は成長期の子ども。
連日の任務続きで睡眠不足だったこともあり、体は睡眠を要求していた。
さあ、寝るぞ!と柔らかい布団と枕にうずくまれるのを楽しみにしながら帰宅したナルトだったが、
すでにベッドが何者かに占拠されているのを発見し、急降下で機嫌が悪くなるのを感じていた。

「…カーカーシー…」
地の底を這うような声をナルトは絞り出す。

ナルトの家に不法侵入したうえ、ベッドを占拠してスヤスヤと気持ちよさそうに熟睡するやつなんてカカシしかいない。布団の隙間からみえる銀髪から見ても疑う余地はない。
ナルトはカカシに対して、先ほどから殺気をバシバシと送っているのだが、起きる気配はまったくなし。
それどころか寝言を言って、幸せそうな笑みを浮かべる始末。
「ナルト…あい……し…て……むにゃ…」


…本当にこいつ上忍かよ!
なんで、これで平気で寝てられるんだ!

ともに任務(下忍任務にあらず!)をこなしている時のカカシの強さや鋭さを知っていても、今の情けなさを見れば、疑ってしまっても仕方がないと言えるだろう。

しかもなんだ!愛してるだ!?この変態、まさしく寝言を言いやがって…。
それなら『愛する』オレの安眠を妨害するっていうのはどういう了見なんだっての。

怒りを通り越して、呆れ果てるという心情にナルトは達していた。
しかし、ナルトにはこのままカカシにベッドを占拠させておく気はサラサラない。
そういう義理もない。

数秒何かを考えた後、ナルトは無言で台所に行き、水差しに水を若干だけ汲んだ。
そして、その水を持ち、カカシの眠るベッドに戻る。

「カカシ、最後の忠告だ。起きろ」

ナルトはカカシに一応忠告したが、殺気を送っても起きない男が軽い声かけだけで起きるはずもなく、そのまま何事もないように眠り続けている。


いや、ナルトラブで、その思いを隠そうともせず、日々アプローチしてもなかなか思いが報われないカカシなら、ナルトが一言「カカシ、愛してる…」とか囁けば一発で起きたかもしれない。
その場合、飛び起きたカカシに即行で押し倒されて、眠るどころではなくなる恐れが大きいが。



しかし、そういうことをやろうとはナルトは全く思わない。




ナルトがとった行動は、
カカシの耳の穴に水をチョロチョロと流し込むことだった。

その瞬間カカシの体がビクンを痙攣し、「うわあ!!」と悲鳴をあげ、水を流し込まれた右耳を両手で押さえながら飛び起きた。
それと同時に反射的にベッドから離れて、壁際に移動した。

「うえー気持ち悪…。びっくりした。
……ちょっとひどいんじゃない、ナルト?」

「……やっと起きたか……」
殺気を存分に放出しながら、腕を組み、カカシを睨みつける。

「えーと、ナルトどうしたのかな?」
右耳を押さえながら、カカシはナルトの殺気に顔色を悪くしていた。

「……どうしたじゃねーだろ!この馬鹿カカシ!ここは誰の家で、誰のベッドだと思ってやがる!人が任務で疲れてるってのに、どういう了見だ、ええ!?」
「もちろん、ナルトの家とベッド。どういう了見って、ナルトを待ってたにきまってるでショ。一緒に寝ようと思ってvv」

ぷち。どこかの毛細血管が破れた気がする。瞬間的に血圧が上がる。
「ふーざーけーるーなー」
そういって、ナルトはカカシの頬をつねる。
「ふにゃけてにゃいって。ふぉんき、ふぉんきv」
「なお、悪い!」
カカシの頬を思いっきり横に引っ張って放した。

「痛っ。でも、ナルト、オレに抱かれて眠れば、オレの愛の力でリラックスしてゆっくり眠れて、翌朝スッキリ☆になるってvv」
にっこり笑ってカカシは言う。

「添い寝なんてまっぴらだね。そんな愛もいらない。オレは一人で寝る」
「そんな、つれないこと言わないでよ、ナルト。先生泣いちゃうぞ☆」

「……ウザ」
心底嫌そうな表情のナルト。
体の疲労も1割は増したように感じられる。

「ひどっ!…ひどいと言えば、さっきの耳に水入れるのはひどいでしょ。
どうせ起こすなら、もっと優しくおこしてほしいなー、先生は」

「なにが優しくだ、ヘタレ上忍。
さんざん殺気送っても、声かけても起きなかったのはてめーだろ!
それでも上忍かよ。
耳に水入れるのも、氷水じゃなかっただけよかったと思え」
「氷水だと拷問技でショ!うう、微妙すぎるナルトの優しさが切ない…」
「優しさと言うより、単に、不愉快さを解消するために安易に氷水を入れたりして、お前に吐かれたりした後、お前の吐しゃ物の始末をするのが嫌だっただけだがな。
これから眠るのに布団が汚れると困るし。
他の起こす方法も一応考えたが、クナイを投げた場合、避けられたら布団や枕に穴が開くしな。当たっても血で汚れる」

「……ナルトくん、そこにアイはアリマスカ…?」
がっくりとした表情でカカシがつぶやく。

「さあ、どうだろうな」
そういってナルトはうっすらと微笑んだ。


「オレはもう寝る。お前もさっさと帰って寝ろ。明日も下忍の任務あるんだろうが。寝坊が遅刻の理由じゃ許さねえからな」
そう言いながら、ナルトはベッドに上がり横になった。
「ナルト〜そんなこと言わずに、俺も一緒に布団に入れて?ナルトと一緒だったら遅刻することもないしv」
「カカシ先生、一歩でも布団の中に入ってきたら殺すってばよ?」
昼間の演技仕様の口調と笑顔で言う。しかし、目はまったく笑っていない。
「……はい」
冷や汗を流しながら、カカシはやっとのことで返事をした。





しばらくすると、ナルトは静かに寝息を立て始めた。
その間カカシは、優しくナルトを、ただ静かに見守っていた。


なんだかんだ言っても、ナルトもオレのこと信頼してくれてるよね。
オレがそばにいても、こんなによく眠れるんだから。

手負いの獣みたいなお前が、素で言いたいこと言えて、素でそばにいてもリラックスして眠れる相手なんてそうそういないでショ?

ほら、こんなことしても、目、覚まさないし。

そう考えながら、カカシは優しくナルトの額にかかる髪をわける。
そして、額に優しく触れるだけの口付けをした。

いい夢が見れるようにおまじない…なんてね。


オレはさ、ナルトが思ってるほど、情けないやつじゃないと思うよ。
でも、お前、こういうオレのほうが言いたいこと言えるでショ?
お前のためなら、情けない男でいてやっていいよ。

でも、いざというときは全力で守るから。

だから、もっと、オレに頼ってよ。ってなんか矛盾してる?はは。


じゃ、オレ行くね。オヤスミ、ナルト。


カカシは静かにナルトが眠る部屋を出て、外に出た。
ドアも気を使って静かに閉める。

空は満天の星空。もう1〜2時間もすれば夜も明け始めるだろう。
明日もいい天気になりそうだ。
カカシは、そう考えナルトの家を後にした。





カカシが去った後、ナルトは静かに目を開けた。
ベッドのすぐそばにある窓からは、帰っていくカカシの背中が見える
「……バーカ」
言葉とは裏腹に、そう呟くナルトの声は柔らかく、顔には微笑みが浮かんでいる。
ナルトは再び目を閉じ、眠りの世界に旅立っていった。



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寝耳に水…まさしく、やると本当にビックリするらしいです。
氷水ぐらい冷たいのでやると、刺激が強すぎて
吐き気やら、頭痛やらで散々になるそうです。
良い子は決して真似しないように!(笑)
人間関係がくずれること間違いなしです。
あえて壊したければ、その限りではありませんが、それで報復を受けても、
私は一切責任は取りませんのでよろしくお願いします。

後半、カカシ先生がクサすぎて、自分で書いてて砂吐きそうでした。
まあ、たまにはいいか

あと、ほのぼのとギャグの境って何でしょう?
これはどっちにあたるのかしら?