* * 火影就任 「はあ。これでやっと楽な生活に戻れるな」 肩に手を当てて首をコキコキと回す現在の火影である五代目火影の綱手。 残務処理や引継ぎも終えて、後は椅子を次の火影に渡すだけ。 「綱手のバアちゃん、年寄りくさいってばよ」 無表情で、書類を机で揃えつつ金髪の青年が小さく、だがきっぱりと言った。 青年の名はうずまきナルト。 明日の就任式を終えれば晴れて六代目火影となる。 「はん、年寄りだからいいのさ。その年寄りを今までこき使ってきたんだ。ガキはもっと年寄りを労わりな」 「よく言うよ。20代の姿に犯罪的な若作りしてて、普段は心も永遠の20代のくせに。都合のいい時だけ瞬間年寄りになりやがって」 「……あんたじゃなかったらシメてやる台詞だね」 若作り。 年寄り。 ババア。 男がいない。等。 綱手に対しての禁句である。 これまで、綱手の前でこの禁句を言った者は老若男女問わず締め上げられた。 言葉を訂正するまで。 だが、なぜかナルトだけは昔から禁句を言っても許されている。 余談だが、里では「綱手様禁句集」、「綱手様の締め上げ体験談」、「綱手様に締められたい!」というような本が出版され、いずれも里のベストセラーになっている。 綱手は里人から非常に慕われる火影であった。 「そうだ、ナルト」 「何?」 何かを思い出したようにナルトの名を呼び、火影椅子のすぐ側の床石を探る綱手。 綱手の突然の行動を不審そうに見つめるナルト。 「実はこの間隠し扉を見つけてさ。すっごいものを見つけたのよ」 嬉しそうに床の隠し扉を開ける綱手。 「見つけたなら出しとけばいいのに」 子供のような綱手に苦笑しながら重い扉を支える。 綱手とナルトは何でもないように扉を開け、支えているが、実際はとてつもなく重い石の扉である。 「出しといたら、見たときの喜びが半減するだろう?ロマンのない奴だね」 隠し扉の中はたいした容積はなく、桐の箱が一つ入っていただけだった。 綱手が嬉々として、その箱を取り出す。 ナルトは綱手が離れたのを確認し、重い扉を閉めた。 手をはたいて埃を払う。 先ほど取り出した箱を綱手はナルトに手渡した。 「これはお前のものだ。開けてみな」 「…ああ」 中身は何だ? ……また、開けてビックリドッキリなおもちゃの箱じゃねえだろうな。 綱手には前科があるため、少し警戒しながら箱を机に置き蓋を開けるナルト。 蓋を開けると、心配したようなことは何一つなく、現れたのはきれいに畳まれた年季が入っている様子の布。 少し拍子抜けする。 広げてみると、火影のマントだった。 サイズ的に三代目や五代目の物ではないようだ。 引っくり返し、背中の文字を確認する。 四代目火影 「これって……」 「そう。四代目火影、お前の父親のマントだ」 執務室に飾られている代々の火影の写真。 そこでしか顔を伺うことのできなかった父親の顔を見た。 写真の父親は唇をきゅっと閉じ、真面目そうな表情でまっすぐ正面を向いていた。 きっと、性格もまっすぐだったのだろうなと思う。 仕方がないとはいえ、九尾を息子の腹に封印して。 そして力尽きて死んで。 四代目はオレに英雄になってもらいたかったらしいけど、そうはならなくて。 それどころか、九尾そのものであるかのように恨まれて。 オレがいなけりゃ九尾を封印することもできず、滅んでたかもしれねえのに、器となったオレを虐待する里人。 こんな奴らを命がけで守るなんてクソ食らえって思って。 九尾なんてものをオレに封印した四代目を憎んだり、里の英雄に…なんて甘い考えを持っていたことを馬鹿にして嘲笑したこともあった。 しかし、九尾のチャクラのおかげで助かったこともある。 大切な仲間ができて、オレを認めて、信じてくれる人ができたから、その人たちだけは何がなんでも守るって気持ちはあるから、里人のために命を投げうった四代目の気持ちも理解できる。 だから、今は四代目のことは憎んじゃいない。 苦労したのは本当だから、感謝もしてないけど。 まあ、四代目が九尾を封印したおかげで、オレの大切な人たちが生きてたってことには感謝してもいいけど。 父親である四代目にナルトは思いを馳せた。 「ナルト、羽織ってみなよ」 綱手の言葉に、マントを持って四代目の写真を見たまま物思いに耽っていた思考が現実へ戻った。 「ああ」 バサリをマントを羽織る。 「似合う?」 「……」 軽く笑って綱手に話かけたが、綱手はそんなナルトの姿を見て目を見開き涙を流した。 「ああ、よく似合ってるよ。…本当によく似合ってる…」 泣いたまま笑顔で言った。 「そりゃ、どうも。って、泣くなよ。ほら」 綱手の頭を優しく引き寄せる。 「ハンカチ忘れちゃったから、オレの胸で我慢してネ?」 「…ガキが、生意気なこと言って……」 初めて会った時は私より背が小さいチビだったくせに、でかくなりやがって。 今は自分より頭1つ分くらい背が高くなったナルトの肩に額をコツンとのせた。 ナルトは泣く綱手の背中を子供をあやすようにさすった。 綱手をあやしながらナルトはもう一度四代目の写真を見た。 父さん……オレ、明日あんたと同じ火影になるよ。 |