せつなさ



今日の忍務も終え、ナルトは自宅で一息ついていた。

「…そういえば今日は見てないな」

ぼーっと天井のシミを見上げていると、ふと毎日飽きるほど見ていた姿を今日に限って一度も見ていないことに気が付いた。

「どうしたんだってばよ…」

気付いてしまうと次第に不安が襲ってきた。

何か自分に原因があったのだろうか。
最近調子に乗っていろいろ無茶をしたせいかもしれない。

そのほかにも原因となりそうな出来事を思い浮かべるがコレといった確証を得るものは無いようで、考えるほどナルトの気分は沈んでいった。

「たった一日なのにな…」

こんなことで精神が不安定になっている自分がおかしくてナルトは苦笑いを浮かべた。
両手で顔を覆い、落ち着くために一度深く息を吐く。



毎日姿を見ることを当然のように思っていた。しかし世間においてはあまり当然とは言えないことだったのだろう。
自分は実は恵まれていたのかもしれない。



ナルトは気付けたことにわずかな喜びを得たが、不安を一掃するまでには至らなかった。

「明日はどうなんだろ…」

ただ待っているだけではいけないのだろうか。
これまでのような状態に戻るには自分から何か行動を起こさなくてはならないのかもしれない。
ナルトは手を顔に押し付け、小さくつぶやいた。

「オレはどうしたいんだ…」

このまま見ない日が続くようなことはイヤだった。
きっと日を経るほど増大するだろうこの不安感が、忍務に影響を及ぼすようなことだけは避けたい。


これまでのように毎日が無理なら、せめて一日おきでもいい。


ナルトは自分の生活スタイルを少しくらい変えてもいいから、行動を起こすことに決めた。

しかし初めてのことなので何をすればいいのかナルトにはさっぱり分からない。
誰かに相談すればいいのかもしれないがこんな恥ずかしいことを言えるはずがない。
サスケやサクラの顔を思い浮かべたが、ナルトは頭を振って打ち消した。

もともとナルトはじっと考え込むタイプではない。
何が効くのか判らないなら何でもいいからいろいろしてみることにした。

とりあえずナルトは自分が出来そうな事として、日常の態度を改善することにした。

以前部屋に無理矢理貼っていかれた“野菜も食べよう”を守ってみるのもいいかもしれない。

「よしっ!明日から頑張るってばよ!!」

気持ちに踏ん切りがつくと空腹感がわきあがってきた。
食事には中途半端な時間だが何か腹に入れようと移動を決める。
考えている間ずっと同じ姿勢で座っていたため体が固まってしまったように感じ、ナルトは大きく伸びをした。

「う〜ん、せっ!」

伸ばした手を振り下ろす勢いにのせてその場から立ち上がり、軽く身形を整えてから部屋から出て行く。





台所へ向かう途中ナルトは振り返り、さっきまでいた部屋の扉のほうへ軽く拳を前に突き出した。

「毎日快便!!」

宣言を終えトイレに背を向けたナルトの頭の中は、冷蔵庫の中身の事にすっかり切り替わっていた。

「あっ!期限ギリの牛乳残ってるってば。イッキでもするか?」











補足

冷蔵庫の前でグラスを使わずにパックの注ぎ口から直接牛乳を飲んでいたナルトはそのまま窓際に移動し、桟にかけられた糸の一本を軽く弾いた。
刹那、窓の外に雨が降ったような軌跡が見え、同時にすぐ近くまで来ていた気配が大きく距離をとったようすが感じ取れた。

「当たんなかったか」

「今日は『五月雨』か。にしても量が多すぎなんじゃない?」

今起こったことにも動揺を感じさせない声が窓の外からナルトの耳に届いた。

『五月雨』はトラップの一つだ。
侵入者がトラップコードに掛かると上空から針のような武器、千本が降り注ぐ。
家屋の侵入者に対する威嚇として用いられることが多い。
窓越しに見るとまるで雨のように見えることからその名がついたと言われている。

今回ナルトは通常より十倍の千本を使用していた。
そのため窓の下は針山のように千本が地面を覆っている。
普通の者なら警戒の構えを取るであろう状況で、カカシは両手をポケットに入れ穏やかにナルトの部屋を見上げていた。

「ナルト、部屋に入れてくれないかな」

「窓から来んなっていつも言ってるだろ」

玄関には仕掛けていないのにカカシはいつも窓へ寄る。
トラップをチャイムかなにかと勘違いしているかのように、わざと仕掛けを発動させるのだ。
何度言っても直さない行動はカカシにとって何か意味のあることなのかもしれないが、ナルトは深く追求することを避けていた。
気づかなくてもいいことに気づいてしまうようで。

「それ、片してから上がれよ」

窓越しに声をかけナルトは台所へと戻っていった。
トラップの後始末をカカシがしている間にナルトは茶を淹れる。
これも日常として認識してしまっている自分に、ナルトはひっそりと笑みをこぼした。


リカちゃんからいただきました!
カカナルとナルヒナどっちがいい?って聞かれたので、
迷わずカカナルと答え、届いたのがコレです。
ありがとうございます…(感涙)!

ただ、前半でナルトが悩んでる原因はカカシなのか、便秘なのか悩みます(笑)
…カカナルなので、カカシだと信じようと思います。

『せつなさみだれうち』が懐かしくて笑いました。
ペルソナー!

2004/2/28