Vol.2  秒撮作戦  2009/04/25

 
 
ご愛読(?)皆様、ご無沙汰しております。いかがお過ごしだったでしょうか?
当事務所の新兵器でもある「写真測量ソフト」(英語版)の解読にこの度、成功いたしました。
普段、使い慣れていない英語表記でありながら特殊語句の満載なソフトですが、
測量業界においては非常に歴史の深い技術ですので、測量士に使いこなせないはずはありません。
タイトルの「秒撮」とは現場作業の事、この撮影は約5分・・オペレーションに約1時間でした。

 
一旦停止  写真測量と言うジャンルは通常、 航空機と特殊なカメラ、巨大なマシーンを使って大規模な範囲を測量することを意味していました。 その成果の代表格は国土地理院発行の地形図に始まり、道路地図や住宅地図にまで及んでいます。 今回のソフトはその写真測量をデジカメでやってしまうと言う画期的なソフトです。
 デジカメと言っても何の変哲もない普通のデジカメで良いのか? 答えはイエス。 私が持っているデジカメはCANONのIxyDigital500。どういう訳かコンパクトカメラ業界から姿を消した(?) CFカードの最終版です。ちなみに私はCFカードが大好きです。理由はその躯体の大きさ・・ とてもじゃありませんが、携帯電話に差し込むマイクロSDなんぞは使いにくくてたまりません。
但し、このままの状態で撮影をしてもレンズの誤差等々、マトモには測量に使えた状態ではありません。 事前に用意された「キャリブレーションシート」を使ってカメラ固有の“歪”を計測、 ソフトに突っ込んで その補正データを取得しておく必要があります。当然、測量屋のハシクレとして 精度が良くなる事には執念を燃やしておりますので、キャリブレーションをしないテはありません。
 早速デジカメを持って近所の交差点へ足を運び、通常の平板観測では難儀な思いをしていた例の文字、 「一旦停止」のライン文字を四方八方から撮影して来ました。これを図化するか、したいか、は自由ですが あくまでもサンプルとしては格好のものです。 先にもお話しました通り、現場作業は撮影のみ・・約5分で完了です。






「停」  早速データを見るまでも無く、私も日本人ですので簡単に読める一旦停止の文字ですが、 これをCADデータとして作図するにはチョット手間がかかってしまいます。 日常の記念撮影のように正対できれば良いのですが、空中に浮くわけにも行かず これもまた難儀な話です。それでこそ写真測量のソフトは威力を発揮できるのですが、 どのように撮影するか至極簡単に解説してみましょう。
 被写体を撮影すればソレがあたかも切り取ったかのように見える便利な反面、 距離感がバッサリ失われてしまいます。さらに遠近感も付いて離れれば離れるほど狭く見えています。 では、人間の目はいかがでしょう? 両眼で見た景色と言うのは立体的に見えていて なんとなく距離感があります。では、さらに言い換えて・・ 片目でストローを縦に覗いた時、ストローの長さは良く分かりませんが、 ストローを横から見れば良く分かる・・と言うことです。 ごく当たり前のことを言っていますが、その通りでそれをカメラに当てはめた技術なのです。
 唯一ヤヤコシイのは焦点距離(フォーカス)と画角(フレーム)のハナシだけです。 通常写真を撮影する際、撮りたい対象物をフレーム(画角)に納めるために ズームの機能を駆使します。カメラに詳しい方であればズームがどのように作用しているのか、 よくお分かりでしょうが一般的にはあまりよく知られていない事実です。 ズーム機能では焦点距離を大きく変化させて画角に対する被写体の拡大率を変化させています。 焦点距離とは、画像を認識する素子(いわゆるフィルムの事)とレンズの中心の距離の事ですが “ピント”といった方がピンとくるでしょうか・・・つまりはその事です。
 一枚目の画像はズームアップして撮影、次はワイドに引いて撮影、・・とズームを多用すると それぞれの画像同士のスケール感が変わってしまいます。これを統一しておけば 異なる角度で撮影された画像同士のスケール感が統一されるので測量が可能と言うわけです。 ・・これに関して上手い説明方法がありませんが、お許し下さい。つまりは、そう言うことです。
 とにもかくにも、撮影する時はズームを使用せず、四方八方から撮影するだけの事です。 実際に撮影してソフト上で使われた画像が下の9枚です。大まかには4枚あれば十分な状態でしたが それだけでは細かい箇所が曖昧になってしまいますので、精度を上げるために他の5枚を追加して 作業いたしました。






2-3 2-4 2-5
2-6 2-7 2-8
2-9 2-10 2-11






作業状況  ソフト上での作業は現場作業(撮影)の時とは打って変わって、マウスをカチャカチャ 忙しく操作いたします。現場でテクテク歩くよりは、はるかに楽ですのであまり文句はありません。 ソフトに取込んだ画像データを全て開き、「1枚目の画像のこの角が2枚目のこの角」・・ と言うようにそれぞれの画像データを拡大してはクリック、の繰り返しです。 やがて、その点がどんどん増えていくとソフトが勝手にそれらの点の“位置”を割り出して それぞれの点について関連をつけてくれるようになります。
 例えば、ある画像の「ニンベン」の左側の“ハライ”部分をクリックすると、 別の画像のその箇所であろうところに“交点”を描いてくれます。  実は、その交点の位置と目で見た白線の角の位置が若干ズレているのですが、その時は見た目重視で 画像に見えている白線の角を狙ってクリックします。それが、“レンズやカメラの誤差”であったり 別の画像上で“すでに指示しておいた点の指示誤差”であったりします。 ・・・以降、その繰り返しで 上の9枚の画像にあるとおり、 ライン文字の輪郭をトレースするように線を書き入れます。 トレース作業状況
 当然ながら、距離の遠くにある箇所はデジカメの解像度の限界が見えてしまって、 モザイク状態になってしまって、あまり精度が期待できません。 同様に、「角」の輪郭が見かけ上鈍角になっている箇所も、指示しにくく あまり精度が期待できません。 トレース作業状況2
そうこう言っているうちに、どれかこれかの画像上に鮮明に視認できる条件の良い箇所を 半ば“気分”で選んでクリックし尽してしまえばデータは大まかに完成です。






成果  さて、写真だけでサイズや縮尺がわかるハズもなく、途方に暮れていては面白くありませんので 現地でラインの幅や長さをメモしてこなければなりません。・・・せっかく撮影だけで図化できたのに また現地に行って・・ではさらに面白くないので、経験則からラインの幅を15cmとして入力しておきます。 そうして文字全体の幅を見てみると、おおむね1m幅にて書かれていることが分かりました。

DWGデータ 右クリック→対象を保存 にてDL可能です。
このCADデータは写真測量ソフト上で生成したデータなので、立体ワイヤーフレームとなっています。 3D-CADをお持ちではない方、AUTODESK社製ビューワーなりを使ってご覧下さい。

 このままではチョット心許無いので、TSを使った通常通りの平板観測データを重ねて見ることにします。 この現場は郵便局が隣にありますので、車の往来が激しく、「プリズムを持って・・」と言うスタイルでは 作業時間がかなりかかりそうです。実際にはノンプリレーザーを使って座標取得してみたわけですが ピンポイントでジャストの位置を測量できるわけではありませんので、コンベックスのメモ記帳を併用した作業となりました。 結果、通常の方法にて現場作業が約1時間、合っているのか合っていないのか良くわからないノンプリ測点データと メモを照らし合わせて“恐らく正解であろう”図面を2時間かけて準備しました。
 ノンプリレーザーを使って路上面を測量したことのある方は、良くご存知のことと思いますが、 ナカナカ上手く直角だの平行だのと言うシビアなデータを取りにくく、現場から帰って来てからも イライラしながら結線しなければいけません。たったこれだけのことでイライラするのは、ハッキリ言って嫌いです。 ・・(イライラ中略)・・と言う事で無事、データを重ね合わせて見ることができました。

DWGデータ 右クリック→対象を保存 にてDL可能です。
上手く行かない方は SIMA座標データ を測量ソフトにインポートしてみて下さい。

それらソフトをお持ちではない方はコチラ JPGデータ 赤色が平板観測、青色が写真測量の成果となります。

  どうでしょうか?「停」の狭い範囲をクローズアップしてみると、やはりブレや歪みはありますが 従来の平板観測とほぼ同等の成果が出来たと言えるのではないでしょうか。 このTSとの整合作業では「平面図作成」を想定したため高さ成分を無視しましたが、写真測量からの成果は 画像の撮影角度と、異なる画像同士のなす角によって精度が変わるため、なんとも言えませんが、 データ上でのパッと見では路面の微妙な勾配や凹凸が出ていて概ね信用できるかと思われます。

XLSデータ (写真測量ソフト内部の点名ID表記です)

 このエクセルデータは写真測量ソフトから算出された生の数値ですが、停止線が5cmほど低くなっている事が確認できます。 しかし、このソフト内で基準としたラインが「止」の左下を原点として「一」の左下角を+軸方向としたので、 TS観測の時のように水平面が正確に合致しているかどうかは不明です。 一方でCADデータ上でTSとの整合性を見てみると、おおよそ1cm以内の点に収まっている事が 確認できますが、一部画像の解像度不足で不鮮明であった個所(2〜3箇所)では2cmを超える誤差が見て取れます。
 どんなものでしょうか?測量に携わっておられる方なら現場に出た時の1pの細かさは 想像するに及ばないと思いますが、イメージをつけるために外で1cmを体験してみて下さい。 とてつもなく小さいことが再認識出来るはずです。少なくとも、私は大満足であります。
俯瞰状況






事務所にて・・  最後に、作業を終えた 私なりの感想を明記しておきます。
 カメラと測量技術はその歴史をたどると密接な関係にありますが 現在の測量機器の代表格はGPSやTS、製図機器はCADとなってしまっています。 しかしそれらの機器はかなり高価で、一朝一夕には使いこなすことができません。 現に専門技術職の一人として私も例に漏れず苦労しているところであります。 ところが、ネット社会の恩恵か 電子や機械など各種業界の進歩のお陰か デジタルカメラもかなり安価になってきています。 さらには、地図を代表とする地理的情報の利用範囲は、多岐にわたって膨大で しかもそれらは写真測量の技術にて整備された国民的財産とも言える状態になっています。
 少し大げさですが、皆さんの手元にあるカメラから簡単に測量が出来る・・と言うとどうでしょう? 何かこうワクワクする気持ちになってしまうのは私だけでしょうか。

 
 
さて、久しぶりの執筆に労力を費やしましたが、
また、こう言った技術の紹介を出来る機会があるものと思っています。
不景気のせいかインターネット上を徘徊する時間も多くなってきています。
必ずと言って良いほど、何か新しい技術を探している状態を作っているようにしています。
皆さんも同様に何かを探しに来られてこのページに辿り着かれたのであれば
非常にうれしく思います。
質問、意見、依頼などありましたら 電話でもメールでもお待ちしております。
大変ありがとうございました。   (三浦 大)

 

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