電話帳から減っていくパーセントの多いものの一つが喫茶店です。ましてジャズ喫茶というのは30年前ならいざ知らず、今じゃコンゴで電気コタツを売るよりも(すみません。関川夏夫の軽口でした)難しいでしょう。 それでもいい、世界に冠たる日本のジャズ喫茶のオヤジ(ママ?)になりたい、という人のための文章です。

第1回 作るまで

◆心の準備

◆お金の準備

さて、店を作るとなると必要なのがお金です。親やガールフレンド、ボーイフレンドがいっぱいお金を持っていて、「お前(貴方)のためなら」というような例を除けば、たいていは自分で集めなきゃならなくて、でもジャズ喫茶なんて考えつく人が貯金や株をやっているはずもなく、普通はここでTHE END、寂しく日常に戻るわけです。 そこで考え方を逆にして、どうすればお金をかけずに店を作れるか、というふうに考えてみましょう。 普通必要な費用は、敷金・礼金、改装費、カンバン代、グラス・お皿などの備品、オーディオ代、レコード代、開店費用、といったところです。一つずつ見ていきましょう。

敷金・礼金

必要ない所を探します。焼肉屋の2階でもフーゾク店の奥でも、交番の横でも、田んぼの真ん中でも、評判の悪い空きビルの中でも、とにかく入るのはタダという所。今ならあります。何せジャズ喫茶です。豪雪でもどしゃ降りでも通ってくれるのがジャズファンです。

改装費

元が店ならそのままの形を借ります。レコード屋へ行ってポスター、古いスウィング・ジャーナルの写真ページ、英字新聞----適当に破ってゴダールの映画みたいにコラージュしましょう。あと、知り合いに内装屋さんや解体屋さんがいたら、いろいろお願いしましょう。近頃、短い営業でやめてしまう店も多いので、程度のいいものがほとんどタダでもらえます。

カンバン代

勿論、酒屋さん頼みですが、正直、近頃サイフのヒモがかたい。そういう時こそ「ジャズ喫茶」の魅力です。曰く「ジャズ喫茶のない街は文化都市じゃない!」「ジャズ喫茶にないウィスキーなんて・・・」と大手ビールメーカーの正社員にトライしましょう。一つくらいはきっと答えてくれるメーカーがあります。

備品

これこそ1個も買ってはいけません。マークのついたものなら、お水のグラスからワイングラスまで全部揃います。 大皿はない?そんな時こそ100円ショップでしょう。

オーディオ

うーん困った。これこそジャズ喫茶の命です。まさかアイツと一緒に住んでいた頃のラジカセやミンコンポって訳にゃいかないし、実家のステレオは仏壇みたいなトビラついてたし----。 思い出して下さい。大学時代、医学部のやつで妙にオーディオにうるさかったり、女性ボーカルが・・・なんて言ってたのがいなかったか。そういう人は、今はかなり高い確率で複数のオーディオを持っているものです。しかも、そういう人に限って自分の今の立場と、今時ジャズ喫茶を作ろうと思うような人の立場の差異に心を痛めているのです。チャンス!マッキンの管球アンプ、マランツの7、スピーカーだって懐かしのランサーL101なんて貸してくれるかもしれません。

レコード

今、40才以上の地方公務員の人は、なかなかモノを捨てないものです。引っ越しもしなくていいし。きっと押入の奥には宝のようなレコードが眠っています。気持ちよく貸してくれるはずです。カビていたらぬるま湯で洗いましょう。

開店費用

「最初に揃える酒代もない」という場合、開店前の日に知り合いを全部集めて、小さなカードに「ボトルキープ券」と書いてみんなに配り、前金でボトル料金をもらいましょう。ボトルキープ券をもらった人は、「今どきジャズ喫茶を作るような人に、ささやかだけど協力できた」という思いで、その日一日くらいはいい気持ちのはずです。

----どうです。どうにかなるものでしょう。 店が開いたら、後はあなたのセンス。コルトレーンの「アセンション」でもマルの「レフト・アローン」でも、オーネットの「ゴールデン・サークル」でもミンガスの「ピテカントロプス」でも、何でもかけられるのです!