辰巳こんころ太鼓
活動の時期と会場
由来と伝承
辰巳こんころ太鼓を伝える辰巳町は以前より、上・下辰巳村と呼ばれ
金沢の市中を流れて日本海の注ぐ犀川の上流にあります。
平安の昔から水利が極めてよく、村人は率先して水田を開きその豊穣を誇りとしてきた山間の里であります。
寛永九年(1632)三代藩主・前田利常が、算勘測量の術に優れた小松の町人
板屋兵四郎を起用して完成させた用水の水源がここから引かれたので辰巳用水と呼ばれています。
用水は水トンネル3キロを経て延長11キロ。
今も金沢城や名園兼六園に豊かな水を送り、金沢市内を潤し、「森の都」「小京都」の影を映しています。
辰巳地区は近年、住宅開発が進み、大学が移転してきて活気に溢れていますが
辰巳用水の取水口や板屋兵四郎を祭る板屋神社を訪れる観光客も多く、歴史と文化の里の趣を濃くしています。
ここに古くから、素っ裸になり、カマキリを真似た仕草をしながら
膝をつき肘を地につけて這い回るイモチャキ(カマキリ)踊りがありました。
「イモチャキ、コチャキ、太鼓打って召され」と声を上げ、手拍子を打って、はやしたてました。
祭礼や婚礼などの祝い事に村人たちが入れかわりたちかわり太鼓を打ち、歌い踊り興ずる素朴なものでありました。
この太鼓が辰巳用水の大工事の疲れをいやすために打ちならされ人夫たちの歓声にも煽られて
踊りはさらに滑稽な仕草を採り入れ、太鼓も奔放な妙技打ちとして伝えたのが「こんころ太鼓」の由来であります。
小バイ(半分に折った日本手ぬぐいの対角線の長さの桜のバチ)打ちと
こんころバイ(長さ六寸、太さ約二寸五分の桐の木)打ちの二人で打ちます。
小バイ打ちは太鼓の拍子をとり、こんころバイ打ちはカマキリの仕草を採り入れた妙技打ちをします。
妙技打ちには、擦り上げ、擦り下げ、イモチャキ、止め打ち等の技があり
「いずれも太鼓の皮を、バチを握る親指を押さえるが如くたたき、反対面の皮からも反響音を誘い出して和するが如くせよ」と
古老は教えています。これらの技を入り混ぜながら競い合うと、村人たちは妙技打ちのひょうろくさに酔い
山を渡る木霊に自然の恵みと深遠な神意を感じます。
使われる太鼓は、穀倉地帯の金沢平野に虫送り太鼓や合図太鼓として広く伝わる桶胴太鼓であります。
当地の各集落では、径三尺余の大太鼓、径ニ尺七、八寸、径ニ尺四、五寸の中、小太鼓を揃えて代々の区長宅に
伝え継いでますが辰巳の現在の太鼓には、明治初年に石川郡福留村の浅野太鼓店が製造したことが墨書きされています。
こんころ太鼓は、「虫送り」「横谷、谷口」「六貫三百」などが伝わっています。
送り太鼓
梅雨明けは稲田の害虫発生の時期であります。土用の五晩目、7月24日若衆が虫送り太鼓大松明を繰り出し
子供らは拾ってきた松の枯れ木を約五寸にきり、三尺くらいの竹筒に挿した松明を振り回しながら農道を練り歩き
害虫駆除をして五穀豊穣を祈りました。
小バイ、中バイ(日本手ぬぐいの長さの桜のバチ)大バイ(日本手ぬぐいの対角線の長さの桜のバチ)の三種類を駆使します。
小バイは太鼓の拍子を、中バイ、大バイは小バイの拍子に合わせて間奏打ちし、バイを力いっぱい振りかぶり
大音響で害虫を駆除しました。
横谷・谷口
板屋兵四郎の指揮で早期完成を目指した辰巳用水の工事小屋は近くの袋村に置かれ
隣村の横谷村、谷口村からも大勢の人夫が動員されました。
虫送りには工事人夫も訪れ、恥ずかしさをまぎらわすため、手ぬぐいで頬かむりして、飛び入りすることもありました。
小バイはこんころバイをはやしたてるが如く、拍子に強弱をつけ「ハッ」「オッ」「ヨッ」などと掛け声を出し
こんころバイは拍子に合わせてひょうろくな声を出し、踊り打ちをします。
六貫三百
辰巳用水の完成から数年後、村人が汗水流して荒地を開拓し、潅がい用水を引きました。
その甲斐もなく不作で、収穫米はほとんどダゴノモン(屑米)でありました。
それでも村人は、かます一杯・六貫三百(約24キロ)の米とダゴ餅を山王大権現(現在の日吉神社)に奉納し
収穫を喜び次年の豊作を祈って勇壮に打ち鳴らしたのが「六貫三百」であります。
この奉納祭はダゴ祭りと称し、旧暦4月11日(現在は5月11日)に行われます。
小バイの拍子に合わせ、こんころバイで擦り上げ、擦り下げ、イモチャキ、止め打ちをしながら勇壮果敢に打つ太鼓であります。
末町ひょいひょい太鼓
活動の時期と会場
由来と伝承
「ひょいひょい太鼓」は昔から伝えられている太鼓の打法で。「ひょいひょい」と声を出して打つ事から
この呼び名が付いたと言われています。
土用の虫送りの行事などで後継者育成、継承に努めています。
末町では、7月20日の土用の一番から26日の七番の夜、大きな火を焚きながら豊年万作を祈願して太鼓を打つ
「虫送り」行事が行われます。その時に打たれるのが「ひょいひょい太鼓」です。