GTRは折り返しではない
GTRは折り返しではない


 GTRとは「岐阜田中連鎖(Gifu Tanaka Rensa)」もしくは「グレイト田中連鎖(Great Tanaka Rensa)」の略であり、タナカッチ氏が考案した連鎖、そして戦法である。(ちなみに命名は本人ではない)
 左2列を使ってカウンターを構え右3列を使って連鎖尾を仕込む独創的な連鎖で、組みきってしまえばカウンターにせず自分で発火する。中規模のおじゃまぷよを受けてもすぐに発火できるため潰しにも強いのが大きな特徴だ。

 1995〜1996年当時、階段積みやカギ積みを使うぷよらーがほとんどだった中で、タナカッチ氏はこのGTRを使い大会で好成績を収めていた。階段積みやカギ積みといった同じ形を並べた単調な連鎖とは違うこの独創的な連鎖は注目を浴びはじめ、積み方を真似て使い出すぷよらーが徐々に増えてきて全国へと広まっていったのだが、その形は本来のGTRとは少しずつ形を変えていくことになる。


 GTRを使いこなすには右3列で副砲を作り連鎖尾を作りきる技術が必要なため、中途半端に真似ても連鎖尾が作れずに連鎖が極端に弱くなってしまう。そこでカウンター部分を作らずに右側に折り返していくことで使いやすくされていった。連鎖尾を抑えて連鎖の頭を横に伸ばしていき連鎖数を稼ぐというわけだ。


 また、時代が進んでいくと全体的なぷよレベルが向上し、より高い連鎖量が必要とされ中盤戦の重要度も高まってきたため、いつしか意図的にカウンター部分を省いて使われるようにもなっていった。



 多くの人に使われていく中で形として残ったのは左下に作った3×3の折り返し部分。自然とこの折り返しを使って作った連鎖をGTRと呼ぶようになっていた。


 「GTRは折り返しの名称である」。
 そんな誤解が生じはじめたのは、「GTRは図のような形で折り返す連鎖のことである」とIPSのサイトで紹介したのがきっかけではないかと思っている。
 折り返し部分以外の形が定まらなくなっていた当時のGTRを、他の連鎖と同じような構成で折り返し図を上げ「こう折り返して作った連鎖がGTR」という説明のみで理解してもらおうと安易に考えたのだ。その説明を載せたことよって「この折り返しの名前がGTR」という風にとらえる人が出てきてしまった…というのは考えすぎだろうか。とにかく、もう少し具体的な説明を加えるべきだったのかもしれないと反省している。
 実際のところそれがきっかけになったかどうかは分からないが、いつしか「折り返しを使った連鎖がGTR」と「折り返しの名前がGTR」という解釈の違う2つのGTRができてしまい、その解釈の違いに関する意見がぶつかりあうことが多くなっていった。「GTR論争」とでも言うべきだろうか。
 階段積みやカギ積みといった連鎖が主流だった時代が終わり、多くの個性的な連鎖が使われるようになってきた時代。折り返しがその形というだけで連鎖全体をGTRと呼ぶことに違和感を覚える人も少なくなかったようだ。

 論争が激化する中、くまちょむ氏旧サイトで「GTRは折り返し部分の名称であり、連鎖全体の総称ではない」と紹介された。今ではそのサイトを見ることはできないが、「GTR論争」だけではなく「定形・不定形論争」もまとめた論争解決の糸口として公開されたものだったと思う。
 確かに連鎖全体の総称はGTRではなく、GTRと呼べるのは折り返し部分くらいだ。しかし正確に言うなら、その折り返し部分はGTRそのものではない。
 この「GTRは折り返し部分の名称である」という説明は正解とも不正解とも言えないが、結果として「GTRは折り返しの名称」という誤解が深まってしまったことは否めない。


 結局のところ、GTRとは何なのか。
 GTRとは「岐阜田中連鎖」もしくは「グレイト田中連鎖」の略であり、タナカッチ氏が考案した連鎖、そして戦法である。
 私はこの形が変化してしまう前の、タナカッチ氏が使っていたGTRが正式な答えだと考えている。その考えは昔からであり、今でも変わってはいない。
 折り返し部分の名称については、「GTR」ではなく「GTR折り返し」とするのが誤解なく使用できて、なおかつ自然だと思うがどうだろうか。
 そして、この「GTR折り返し」を使って作った連鎖については、「GTR折り返しを使って作った連鎖」として理解した上でGTRと呼ぶのは別に構わないと考える。これまでGTRが変化してきた歴史を完全に否定してしまうのもまた間違いだと思うからだ。


 過去にタナカッチ氏が「GTRは任せた」と私に言ったことがあった。
 ぷよ対戦中に軽い感じで発した言葉だったのでそれほど気に留めていなかったが、その後しばらくしてぷよの表舞台に出てこなくなったことを考えると、本当にGTRの未来を私に託していたのかもしれない。
 私はというと、その言葉にはお構いなしに時代の流れに沿って他種類の積み方にも手を広げていった。重く受け止めていなかったとはいえGTRを背負っているとしたらなんとも酷い話である。
 ただ、私がどうすることもなくGTR折り返しは現在沢山のぷよらーによって使われている。定形から不定形に切り替える際の足掛かりとして使い始める人は多く、上級者の中でも好んで使っている人もいる。良くも悪くもGTRは姿を消すことなく今でも表舞台に立っているのだ。

 もしかすると、そんな状況の中で私がやるべきことは、広く蔓延している「GTRは折り返しである」という誤解を解くことなのかもしれない。そう考え、今回の記事を書くに到った。
 今後GTRがどうなっていくのかは分からないが、GTRの軌跡を知ってもらうことで、少なからずGTRに対して一定の認識を持ってもらえればと期待するばかりである。

白い悪魔
2008/02/01