その36.呪い

 昔、近所に少し変なおばさんがいました。

そのおばさんは。いつも、ぶつぶつ何かを話している人でした。

独り言みたいに。誰かに、見えない誰かに何かを訴えているようでした。

近所では、もちろん、つまはじきで、今考えてみれば、彼女は、変わり者というより

憑き物、おそらく、狂っている方だったのでしょう。

 

当時、子供だった私は、周りの大人のよそよそしい視線など全く、気にせずに

そのおばさんと会話をしていました。と言っても、別に、会話らしい会話なんて

無かったけど。だって、私の話すことなど聞かずに、こんな事をいつもおばさんは

見えない誰かに話しかけていたから。。。。。。。。。

「私が生まれたのは、第○○代、天皇の時でした。○○天皇の子供は、実は

○○皇子であり、その方の血の流れをひく○○は、・・・・・・・・」

今だったら、天皇妄想なんて言うのか、精神分裂病だったのかもしれない。

でも、子供だった私は、何となく気持ちの悪いことをいつも行ってるおばさんだけど

何か、興味があったのか、会話もせずに、その人の傍で遊んでいたように思う。

別に近所の人も、害はない人という認識だったので、何の問題にもしていなかった

し、両親からそのことで咎められたという記憶もありません。

 

ただ、私は、ある日を境に、そのおばさんに近づかなくなりました。私を強く、

畏怖させる出来事があったからです。

ある日、そのおばさんと遊んでいる時に、おばさんの様子がいつもと違うこと

に気がつきました。

そのおばさんは、いつだって、同じ服を着て、髪はとかないのでばさばさの伸び

放題でした。目は死んだ魚のように濁ってた。いつも、顔をしかめていた。ただ、

どういう訳か結構大きな一軒家に1人で生活していました。

近所の人の噂では、息子がたくさん仕送りをしており、家もあるが、ああいう

母親と同居するのは、恥ずかしいので、放っておいてあるということでした。

いつものように、妄想のような独り言をぶつぶつ話しているのに、ある部分だけ

妙に引っかかるところがあったのです。

「私は、○○天皇のオジの○○の娘であり・・・・・・・・」

(ああ、いつもと同じだ。また、何かわかんないこと言ってるよ)私は、そう、思っ

ていました。ところが、いきなり、台詞の断片が頭にスーッっと入ってきた。

 

「許さない。許せない。○○家は。きっと、後悔することになる。子孫を絶やし

てやる」

そんな風な一説が、いつもの妄想の中に、ポンと脈絡もなく、入っていたので

す。どうして、私が、引っかかったかというと、その○○家がやはり、ごく近所

の家の方と同姓だったからです。子供心に、ああ、このおばさんが言っている

○○家は近所の○○さんのことなんだろうなぁって、思ってました。

でも、子孫を絶やしてやるなんて、おっかねぇこと言うおばさんだ。ただ、その

一説を言っている時のおばさんの顔は、鬼のような形相に変わっていたので

ゾーッっとしたことを覚えています。

 

数ヶ月後、そのおばさんが言っていた○○家に待望の赤ん坊が生まれました。

障害があり、すぐに亡くなりました。それから、数年後、また。。。また、障害を

持った子でした。その後も、生まれるのは。。。。。。。。。

ご両親が健常だったので、近所ではちょっとした話題になりました。

まるで、誰かの呪いか祟りなんじゃないかって。。。。。。。

 

その時、私は、想い出したのです。彼女の台詞を。ああ、彼女が言っていたの

は、このことなのだと。このことを母に話したとき、絶対に口外してはならないと

きつく口止めされました。あの、おばさんは狂っていた。確かにそうだと思う。

でも、もしかしたら、あの、際限なく続く、独り言、同じ事の繰り返しの独り言は

まるで何かの呪文であったような気がする。。。。。。。

あの、おばさんが、一度だけ正気にもどったようなあの時に、

子孫を絶やしてやる!

あの言葉は、本当に、悲しい形で実現されてしまった。

後々、あのおばさんは、最愛の息子を事故でなくし、その加害者が、その家の

人だったと聞いた。もちろん、今となっては、真偽のほどは分からない。