その42.私に会いに来た彼女

 

 

遠い昔の話です。よく死んだ人に会ったということを

話す人がいるでしょう。でも、それって、ほんとなの?

死んだ人に会うはずなんてないでしょう。昨日までそう、思っていました。


Aさんを見かけたのは、数週間前です。駅のホームです。随分、大人っぽくなっていました。

彼女は、確か、中学校の時に転校していったのです。線が細く、色白

のどちらかとういと綺麗な子でした。私は、よく遊んでいました。仲が良か

った記憶があります。考えてみれば、今はもう高校生です。

 

先週も見かけました。同じ時間です。彼女に声を掛けようかどうか迷いましたが、

踏ん切りがつきませんでした。「どうして?声かけれないのかな。。。。」

自分の部屋に戻って、考えてみたけど理由は、わかりませんでした。

 

そして一昨日、また見かけたのです。でも、考えてみたら不思議ですよね。彼女の

顔を見たわけでないのです。駅のホームに立っているそのひとの背格好や雰囲気が

なんとなく私に、彼女がAさんだと伝えているのです。

だから、私は、じぃっと彼女を見つめていました。そうしたら、ゆっくりと彼女は私の方を

振り返りました。その表情は、はっきりとわかりました。というより、彼女は明らかに、

私を見返したのです。さも、始めから、私が彼女を見ていたことを知っていたように。

彼女は、笑っていませんでした。睨んでいました。じぃっと私を睨んでいたのです。

とても人を嫌な気持ちさせる表情。。。。。負のエネルギーに満ちた表情です。

私は、嫌な気持ちになって目を逸らしました。

 

私は、昨日の夜、彼女の事を想い出そうと努めました。あの表情が私にそうさせたのです。

少しずつ想い出したこと。それは。。。。。。。

彼女がいじめにあっていたこと。私が彼女をいじめていたこと。私の大好きな人が、彼女に

気があると私が思っていたこと。

だから、いじめました。随分、嫌なことをしたのです。

彼女は、次の学期から、学校にこなくなりました。そして、次の年、転校したのです。

そして。。。。。恐らく、次の学校でもいじめにあっていたのかも知れません。

 

でも、今は高校生。私は、Aさんのことを知る友人に電話をしてみました。

そして。彼女が1ヶ月前に死んだこと。自殺だったことを知りました。

 

私は、あの表情が忘れられません。何故、私の前に出てきたのか。何を言いたかったのか?

いいえ。私は、知っているのです。彼女が、何を言いたかったかを。

「殺してやる」そう、彼女は、私に訴えていたことを。。。私にはわかります。


その43.恐怖の旅館

 

旅館というと皆さんは多分、古いひなびた旅館を思い浮かべるのでしょうね。

でも、私たちが卒業旅行で泊まった旅館は贅の限りを尽くした最新の旅館でした。

時はバブルの絶頂の頃、海外旅行に行くよりもお金のかかる温泉旅館でした。

観光をし見たこともない夕食を食べ、温泉に浸かり、私たちはこれから社会に出る

というささやかな希望と学生時代に別れを告げる少しの感傷を感じつつ精一杯その

旅行を楽しんでいました。その旅館で2日目のことでした。

突然強力な金縛りが私を襲いました。でも、恐怖心なんて別にありませんでした。

だって、横には私の友人が寝ていたわけですし金縛りなんて疲れた時の筋肉の緊張

なんだ。。。なんてことを考えていましたから。

ところが私の身体に異変が起きました。何か臭うのです。その臭いは何かの臭いですが

思い出せません。花火?煙草?

いいえ、線香の臭いだったのです。

目が開けれたので私はそっと窓側(雪見障子のある方)に目をやりました。なんとなく

ですが。。。。

私は生まれて初めての経験でした。

そこには、仲居さんがいたのです。真っ黒な顔をした。。。。恨めしそうに私を見つめ

ています。

「ぎゃぁ〜!」

声にならない声を絞り出しました。

仲居さんは、一番近くに寝ている友人の側に行き、じっと顔を覗いています。彼女の

乱れた後れ毛が見えました。そのとき、覗かれている友人の足が「びくんっ」って

跳ね上がったのです。私は首をそっと動かしましたがよく見えません。

ただ、私はとんでもないことが起こっている。友人が殺されるのでないかという実感

を持っていました。友人の両足がビクンビクン跳ね上がります。

どっか行って!御願い!私たちに関係ないでしょ!御願い!どっか行って!

 

どっか行け〜!

私は心の中でそう叫びました。それが契機となったかはわかりませんが、「それ」は

すぅっと障子の方に滑るように移動し、消えてしまいました。恐怖で私は、パニック

でしたがなにより友人が心配です。私は恐怖を押さえて、友人の枕元へ行きました。

友人は。。。。。。。。。。。。。。

彼女は、目を閉じていますが口から泡を吹いていました。私は彼女を揺り動かして

起こしました。目をさました彼女は何事かという顔をしましたが私の尋常じゃない対応

を見て、なんとなくわかったようです。もう1人の友人が目を覚まし、電気をつけてくれ

ました。私は、起こっていた出来事を話すと襲われていた友人は夢の中でずっと

追っかけられていたと言ってました。

翌朝、私達は、もう一泊を残し、旅館を後にしました。それ以来、私は旅館に泊まった

ことがありません。